会談(4)
偽物であるとばれた宰相は、高らかに笑った後、正体を現した。
「インプ、か!?」
偽宰相の体はみるみるうちに縮み、衣類は床に落ちた。正体を現したそれは、黒い肌と鉤爪のついた尻尾を持つ、人間の子供程度の大きさの小悪魔であった。血走った目をぎょろりと辺りに向ける。
「いつから気付いてたの?僕が魔族だってこと。」
「とっくに気付いてたわよん。馬脚を現すのを待っていただけ。」
テトラは普段の語り口調に戻っている。
「この会談はただの時間稼ぎだ!魔族の証拠を探すためのな!まさか本人を生かしておいてくれるとは助かったぞ!」
アンデルらは初めからこれを狙っていた。登城した瞬間からヒカゲを放ち、証拠を探らせていたのである。
「あーあ、デーモン様が帰ってこない時点で逃げればよかったかな。」
そう言うとインプは扉を睨みつける。部屋から逃げ出そうとしていたソファラの重臣達が扉を開けようとするが、びくともしない。
「でも、君たちを皆殺しにしちゃえばばれてないのと一緒だよね。」
ギリアムは腰に手を伸ばすが、剣はない。預けたままである。魔術師においても、魔術の媒体となる杖を預けてしまっているため、魔術を使えない。インプはにやりと笑い、デーモンと同じく、黒い火球を呼び出した。
「燃やし尽くしてあげるよ。」
インプは一番近くにいたヌークへとその火球を放った。
「アクアスクリーン!」
それはヌークに触れる前に、アンデルの生み出した水の膜に捕らわれ、消滅する。
「妾の魔法は媒体なぞいらんぞえ。」
「水の精霊がいるの?参ったなあ。」
インプは天を仰いで見せる。
「なら逃げるしかないか!」
そう言いながらインプは窓へと飛び込む。
「そうはいかないのよん。」
テトラが微笑むと、全ての窓に光による格子がかかった。
「もう一人いたのか・・・」
インプの顔から笑みが消える。
「こい!グングニル!」
キグナスが高らかに叫ぶと、その右手に光の粒子が集まる。やがて光は一本の槍を形作った。
「消え失せろ下級悪魔が!」
華美な装飾の槍は、キグナスの手を離れインプに急襲する。インプは小さな羽をはためかせ、天井近くまで回避するが、直線的に飛んでいた槍は急に角度を変え、その体を天井に串刺しにした。
「神器グングニルはその手を離れたら、獲物を捕らえるまで決して外れることはない。」
「う・・・あ・・・デーモン・・・様。」
インプは小さい体に巨大な穴を穿たれ、絶命した。
「ヒカゲ、魔族の痕跡は他にあったか?」
「主よ、他には居ない。」
アンデルは意識を研ぎ澄ませ、瘴気を探知する。重苦しかった城内の空気が次第に和らいでいくのを感じる。
「テトラ様。」
アンデルがテトラに同意を求めると、聖女はにっこりと微笑んだ。
「ソファラに伸びていた魔の手は、これで終わりねえ。」
「わ、私は・・・魔族にそそのかれていたのか・・・」
部屋の隅で、ソファラの王太子がうずくまって震えている。
「坊ちゃん・・・」
よろよろと本物の宰相が近寄る。
「じいやが付いていながら申し訳ございません。王は、魔王を名乗るものによって連れ去られてしまいました。私も囚われ、地下牢に繋がれていました。」
宰相は震える王太子の手を握る。
「坊ちゃん、いえ、王子。あなたが先頭に立って王をお救いせねばなりません。すわ立ち上がるのです。」
ヌークははっとなり、おもむろに立ち上がった。
「グラシエルの。私は取り返しのつかないことをしてしまった。この命をもって償うことは厭わない。しかし、どうか王を救うその日まで猶予をもらえないであろうか。」
ヌークはマーシュの前に跪き、額を床につけて懇願する。マーシュはそれを聞き、鼻で笑う。
「ふっ。貴殿の命など取らぬ。グラシエルが求めるのは港町ポートクォーツの復興の賠償金。そして・・・」
マーシュはテトラと見合い、頷く。
「グラシエルは聖ガーランドと非公式ながら魔王討伐の同盟を締結した。貴国も加わり粉骨砕身働いてもらうぞ。」
そう言って右手を差し出す。ヌークは顔を上げ、それを見つめる。
「承知した。」
そしてその右手を取った。ここに、グラシエル、ソファラ、聖ガーランドの魔王討伐同盟が生まれた。




