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会談(3)

 ソファラ城の城門は、戦争中だと言わんばかりに固く閉ざされていた。



「あらあん?入れないのかしら?」



 テトラが呑気に言う。



「え?テトラ様が会談の手筈を整えてらしたのでは・・・?」



 アンデルはいやな予感を覚えながらもテトラに問う。



「敗戦の報せは届いているだろうし、もう抗戦の余力もないかなあって。」



 全く悪びれずに答えるテトラに、アンデルを始め、グラシエル勢は頭痛を覚えた。



「とにかく乗り込みましょ!」



 パン、とひとつ手を叩き、まるでピクニックにでも行こうかという気軽さで、テトラが城門に近づく。待ち構える門番は、もちろん不審な一団に誰何を試みる。



「何者か!」



「グラシエルの使者よん。王太子にお取り次ぎ願えるかしら?」



 グラシエルと言う響きに、門番の眉がぴくりと動いた。槍を持つ力が強くなる。



「しばし待て。」



 戦争中の相手国からの使者となれば、無碍に扱うこともできない。門番は城へと使いをやった。しばらく待たされたアンデル達であったが、ややあって登城の許可がでる。



「割とすんなりでしたね。」



 オルフェンが言うと、マーシュが答える。



「一瞬も油断するなよ。ここは敵地のど真ん中だからな。」



 一行は気を引き締め、敵国の城門を潜る。





 ーーアンデル達は、応接間手前の控え室に通されていた。



「ここでお待ちください。今宰相が参ります。」



 文官と思わしき男が、控え室を出て行く。



「王太子は出てこないのだろうか。」



 文官の言葉に、アンデルがひっかかる。



「王が行方不明の今、この国を実質的に動かしているのは宰相だ。我々が訪れた時も、王太子は飾りで、実質宰相との話し合いであった。」



 メイドによって淹れられた紅茶に手をつけず、マーシュが答える。



「いずれにせよ、打ち合わせ通りにね。」



 テトラのウインクに、控え室にいる面々は頷く。その時、控え室の扉がノックされる。



「王太子と宰相が応接間でお待ちです。」



「それじゃあ行きましょうか。」



 立ち上がった一行に、ソファラの兵士が近付いて来る。



「武器はお預かり致します。」



「なんだと?」



 ギリアムが剣に手を伸ばす。



「やめておけ。」



 それをマーシュが制する。ギリアムはしぶしぶと言った具合に、剣を外す。キグナスも大人しく剣を預け、エバの短槍やアンデルの杖までも取り上げられる。



「さあ、いよいよ戦場よ。」




 ーー応接間を縦断する長机。その長机を中心に、グラシエルと聖女組、ソファラ国の上層部が向かい合っている。



「グラシエル王国第一王太子マーシュだ。初めましてではないので、挨拶はこれくらいで済まそう。」



「ソファラ国王太子ヌークである。王不在のため、私が代わりに話を聞く。」



 マーシュとソファラの王子ヌークの軽い挨拶が終わる。



「早速だが此度の戦、ソファラの侵略に対し我がグラシエル王国は、キャンドル平原においてこれを破った。よって、貴国に降伏勧告をする。」



 マーシュが口火を切る。ヌークはぴくりと反応するが、口を閉ざす。アンデルはソファラ王子の隣に座る老人に注視する。



「再三にわたる警告にも耳を貸さず、王を拐かしたなどと言いがかりをつけてきたそちらが全面的に非を認め降伏することを勧めるぞ、ヌーク王太子。」



 マーシュは若干の怒りを交えながら、言い放つ。ヌークは隣に座る老人に視線をやり、一瞬怯えた目をするが、マーシュに向き直り言い返す。



「魔王などと言う御伽噺を持ち出し、世迷言を言っているのは貴国ではないか。むしろ魔王とは貴国の王のことではないのか?」



 今度はマーシュの眉がぴくりと動く。



「此度の戦において、我が軍の歩兵が口を揃えて言っておった。グラシエル軍の後ろから巨大な化け物がでてきたとな。」



 アンデルは心の内で舌打ちする。パムには幻惑魔法で相手を混乱させろと言ったが、幻惑魔法が何を見せるか、パムの預かり知るところではない。相手の恐怖するものが幻影として見えてしまうのである。



「それは、幻惑魔法という・・・」



「ほお?魔法?聞いたことがないな。ならその使い手を出すがいい。」



「ここにはいない。」



「いないと申すか!世に出せない背徳的な存在である故ではないのか!」



「くっ・・・」



 舌戦はソファラ優位に動き始めた。マーシュがたじろぎを見せる。アンデルはマーシュの動きに注視する。マーシュは何気なく左耳を触った。



「いい加減にして頂こうか!」



 アンデルが突如大声をあげる。場の空気が凍りついた。



「従者如きが口を挟むな!」



 ヌークが一喝するが、アンデルは続ける。



「我こそは神に導かれし、魔王を討伐せんとする者!これ以上の人間同士の醜い争いなど見たくないわ!」



「神だと?」



「偉大なるマクスウェル神である!」



 アンデルは首飾りをかざす。



「マクスウェル神?聞いたことないな。苦し紛れの嘘であったら・・・」



 ヌークの言葉を遮り、アンデルは椅子を蹴飛ばしながら立ち上がる。



「御名を称えたその口で謗るな!このデーモンが!」



 その剣幕にヌークは呆れた顔を見せる。今のアンデルは、狂信者にしか映っていないだろう。アンデルはそう見える様演技しているのだ。そして、アンデルは見逃さなかった。呆れ顔を見せるヌークに対し、終始無表情を貫いていた宰相が、デーモンという言葉を聞いて、一瞬口をきつく結んだことを。



「それくらいにしておきなさい。今はソファラがグラシエルに降伏するか否かが焦点なのですから。」



 テトラがいつもの軽いトーンとは違い、聖女と評されるのにふさわしい態度で場をなだめる。



「う、うむ。聖女殿の言う通りだ。第三者として聖ガーランドの見解をお聞かせ願おうではないか。」



「此度の戦、非は明らかにソファラ国にございます。大義ない侵略という行いの結果、大敗を喫しました。降伏を受け入れ、賠償金を支払うのが道理かと。」



「う、む、ぐ・・・」



 主導権はテトラが握り、ヌークがたじろぎ始める。恐ろしい方だ、とアンデルは内心呟いた。マーシュが正論を突きつければ、相手は必ずゴネる。そこでアンデルが狂信を騙って場を浮足立たせる。それをテトラが収めることで、第三者であるテトラが主導権を握ることができる。全てあらかじめテトラが描いていた筋書き通りであった。



「くっくっく。それは困りますぞ聖女殿。」



 だんまりを決め込んでいた宰相がついに口を開く。それはしゃがれた老人の声であったが、どこか力強く、芯のある声であった。



「グラシエル王国はまだ我が国王を拐かしたという嫌疑を晴らしておりません。それでは大義がないかどうかわかりませんな。」



 宰相は再び議題を混ぜ返す。



「拐かした事実がないのだから、証明をすることなどできぬ。」



 マーシュが言い返す。



「なら魔王とやらを連れてきて頂ければよかろう。魔王が、勇者という肩書きのために創り出された偶像でなければよろしいのですがね。」



 キグナスが席を立ちかけるが、テトラによって制される。宰相は確実に魔族と繋がっている。アンデルはそれを確信し、テトラに目線で合図を送る。



「魔王を連れ出すことはできませんが、ソファラ国が魔族と繋がっていることは確認いたしました。ポートクォーツの街で、ソファラの宮廷魔術師ヤジルが魔族であったことをこの目で見ております。並びに、ソファラ歩兵の中に、魔獣が化けて紛れ込んでいたのも大勢が確認しております。」



 あのデーモンが化けていた宮廷魔術師はヤジルと言う名前だったのか、とアンデルは今更知る。テトラは前々からソファラが怪しいと目をつけていたんだろうなと得心がいく。



「ほう?ではその遺体でも持ってきていただいているのかな?」



 宰相はまだしらを切り通す。



「いえ、魔族は私が消し炭にしてしまいましたし、魔獣もこちらのキグナスが討ち取った後消滅してしまったと報告を受けていますので。」



「証明できないと申されるのか?」



 宰相はにやりと口元を歪める。



「証明ならできますよ。」



 アンデルがにわかに口を開く。先程の狂信を見ていたソファラ陣営は、突如落ち着いたアンデルに目を見開く。



「あなたが魔族と繋がりがある、いや、あなたが魔族である証拠がね!」



 その時、応接間の扉が開け放たれた。そこには、ヒカゲに付き添われて、老人が立っていた。



「なに!宰相が二人だと!?」



 その老人は、弱ってはいるものの、確かに宰相と瓜二つであった。



「地下牢で繋がれているところをお助け致しました。あなたが本物の宰相殿ですね?」



 アンデルは弱った老人に問う。



「殿下!そやつは魔族です!騙されてはなりませんぞ!」



 老人はか細いながらも声を張り上げる。



「なにを馬鹿なことを。殿下、あれは此奴らが用意した偽物です。」



 隣に座る宰相がヌークに囁く。今の状況を整理できない王太子は、大きく息を吸い込むと、叫んだ。



「じいや!」



 一瞬の間があり、弱った老人が答える。



「はい、坊ちゃん。」



 ヌークは宰相から飛び退る。



「今のは私が幼少のみぎりの二人の呼び名だ!よってあちらが本物!一体貴様は何者だ!」



 ヌークによって看破された偽の宰相は、くつくつと笑い始める。



「あーあ。ばれてしまったか。」

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