会談(2)
「ついたぞ!東の大陸!」
アンデルは船から降り、大地をしっかり踏みしめた。三日に及んだ航海はようやく終わりを告げ、東の大陸の南端、南の玄関口と言われる港町ゼンへと辿り着いた。
「ここからは馬車でソファラに向かうわ。それで、アンデルちゃん達の方は打ち合わせ通りでいいのね?」
「はい。」
船の中でテトラから聞いた話では、ソファラは港町ゼンから西に向かった先にある。テトラとグラシエル関係者を乗せた馬車は、キグナスと数名の護衛を付けて西へ、インペリアルガーディアンはこのまま東の聖ガーランドへ戻る手筈になっていた。
「それじゃあウェイク、頼むぞ。」
「ああ。劇団のみんなが来るのをこの街で待つんだな。いい休暇になるぜ。」
「本当にアル一人で行くの?敵国のど真ん中なのよ?」
イムカが心配そうに問う。ソファラに行くのはアンデルだけで、ウェイクらは後から来る皆を待つことになっていた。
「戦争は終わったんだ。今さら何かして来たら、聖ガーランドとグラシエルを両方敵に回すことになる。そこまで愚かじゃないだろうさ。それに、オットーがこの調子じゃな。」
アンデルは、船から降りても蹲っているオットーに目をやる。初日だけ苦しんだアンデルと違い、オットーは最後まで船酔いに慣れることはなかった。
「うう・・・もうシップはこりごり。」
うわ言のように呟くオットーを見て、イムカはため息をついた。
「アンデル。そろそろ行くってさ。」
出発を知らせに、オルフェンが近づいて来た。それを見て、アンデルは思いつく。
「いや、やっぱり護衛を一人つけるか。」
それを聞いてイムカがそわそわし始める。ウェイクも大剣を担ぎ直す。オットーは相変わらず呻き声を漏らす。
「エバ。一緒に来てくれ。」
それを聞いてイムカががっくりと肩を落とした。エバは首を傾げるも、前へ進みでる。そして今度はオルフェンがそわそわしだす。
「さあ、行こうか。」
アンデルは、オルフェンだけに見えるようウインクをした。
ーー牧歌的な道を、馬車が行く。その周りを銀に輝く鎧を纏った騎馬兵が並走する。
「東の大陸は初めてかしら?」
テトラがアンデルに問いかける。
「はい。私は南の大陸から出たことがありませんので。」
「ここら辺は南の大陸とそこまで気候は変わらないわ。少し植生が違うってくらいかしらねえ。」
南の大陸との違いを知れるかと、アンデルは興味本位で馬車の外を覗き込む。しかし、外を並走するキグナスに、睨まれ、顔を引っ込める。
「ごめんなさいね、キグナスったらアンデルちゃんを意識してるみたいで。」
「俺をですか?」
「聖ガーランドって、勇者を輩出した国じゃない?だから今代の勇者が他の国から出たってことで、ライバル意識を持っちゃってるみたいなのよねえ。」
テトラは物憂げな表情をとる。
「そのことなのですが、聖女様。アンデルが神に選ばれたことや、魔王の出現について、聖ガーランドは情報を掴むのが随分と早いようですね。」
マーシュが横から口を挟む。他国の情報収集能力を把握しておく事は、国を治める立場の者としては気になるところである。
「だって私マクスウェル神と話したもの。」
テトラはあっさりと情報源を漏らす。
「テトラ様もですか?!」
アンデルは驚愕する。
「伊達に聖女って呼ばれてないわよん。」
テトラはウインクして見せる。
「神託を授かったのですか?」
「んー。アンデルちゃんていう子が、魔王を倒すために旅立つから、助けてやれって。」
テトラはざっくばらんに言う。
「なぜ私が選ばれたのか、お聞きになりましたか?」
アンデルは、かつて神に問い掛けた質問をぶつける。
「うーん。それは私の口からは言えない。」
またしても答えは濁される。
「そうですか・・・」
アンデルはため息を漏らして、背もたれによりかかった。ふと、御者台が目に入る。今はオルフェンが手綱を握っている。テトラは御者を雇うと言ったが、アンデルは些か利己的な理由でオルフェンと自分が御者を勤めると提案したのだ。オルフェンの隣にはエバが座っている。見張りをして欲しいと、半ば強引にエバを御者台に座らせたのだ。
「特に進展は見られず、か。」
オルフェンとエバの間に、会話が成り立ってるようには見えない。船室でオルフェンの気持ちを聞いて以来、アンデルは二人の仲を取り持とうと決めたのである。
「ねえアンデルちゃん。」
テトラが話しかけて来る。
「人の気持ちってね、繊細なのよ。外からつついたら、こじれてしまうものもあるの。」
「どういう意味でしょうか?」
アンデルはテトラが急に発した言葉に、首を傾げる。
「今はわからないかもしれないけど、きっとアンデルちゃんにもわかるわ。」
テトラはそう言って、窓の外を見た。アンデルは、意味がわからず、マーシュに視線を向ける。マーシュは柔らかい微笑みを返すだけで、アンデルはますます混乱した。




