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北上(1)

「ただいま。みんな。」



「アンデル。無事だったか。」



 港町ゼンに戻ったアンデルを、ウェイクらが迎える。



「なんとか、な。」



「ギリアムの旦那達は?」



 ウェイクらの取っている宿屋に戻って来たのは、アンデルとエバだけである。当然一緒にソファラから帰って来たはずの面子の足取りを、ウェイクは疑問に思う。



「マーシュ殿下を始め、グラシエルの三人は、そのまま船で帰国したよ。戦後処理もあるらしいからな。」



 アンデルがお膳立てしたにも関わらず、オルフェンは結局エバと進展することはなかった。だが、別れ際のオルフェンは、清々しい顔をしていた。



「エバ嬢に釣り合う男になって、必ず振り向かせてみる。その時まで、どうか彼女を守ってあげてくれ。」



 オルフェンはアンデルにそう耳打ちして去っていった。数少ない友人の頼みを必ず通そうと、アンデルは心の内に秘めた。




「それから聖女様は聖ガーランドへ帰国なさった。お忙しい身であるらしい。」



「ふーん。それじゃこれで俺たちは旅を再開できるってわけだな。」



「ああ。劇団の皆と合流でき次第、北へ向かう。」



 アンデルの北、と言う発言に、イムカは地図を広げる。



「東が聖ガーランドで、西がソファラ。ここから北となると・・・?」



「ここだ。トリスという小国があるらしい。そこを目指そうと思う。」



 アンデルは地図上を指差す。



「小国?聖ガーランドを通る東回りでもなく、ソファラを通る西回りでもなく、わざわざ北上するのか?」



「ああ。その説明をするには、まずソファラでの出来事を話そうと思う。」



 アンデルが顔をあげると、窓際でうつらうつらしていたオットーも、話を聞こうと椅子を近づけて来た。




 --ソファラでの会談を無事に終え、一行は馬車で帰路へとついていた。



「聖女様のおかげで、戦後処理も滞りなく進みそうです。本当に感謝致します。」



 マーシュがテトラへ深々と頭を下げる。



「いいのよん。魔討同盟も無事締結できたし、こちらにも利はあるんだから。」



「魔王討伐同盟・・・魔討同盟か。行きの馬車の中で聞いた話だけですけど、本当に各国が参加してくれるのでしょうか。」



 アンデルが呟く。



「何言ってるのかしら?アンデルちゃんが旗印なんだから、もっと乗り気でいてもらわなきゃ困るわよん。」



 テトラが前屈みになってアンデルの手を握る。その豊満な体が視界一杯に広がり、アンデルは思わずどぎまぎしてしまう。目の前にいるのは五百歳を超える化け物なんだ、と自分に言い聞かせることで、平静を保つ。



「ア・ン・デ・ル・ちゃん?」



 アンデルの握られた手が、みしみしと音を立てる。目の前の聖女は、学院長と同じように心の中を読んでくるので、アンデルにとっては苦手とも言える。



「老獪だな。」



 心の中で思ったはずだったが、アンデル自身無意識に口をついてしまった言葉に、テトラのこめかみには青筋が浮かび、さらに力が込められる。



「いたたたた!そ、それより聖女様!魔討同盟のために私は何をしたらよろしいのでしょうか!」



 自分が声に出していたことも気付かず、アンデルは苦し紛れに本筋に話を戻す。ふと手の力は抜かれ、アンデルは人心地つく。



「そうね。アンデルちゃんには北のトリスという国へ行ってもらうわ。同盟に取って、この国の参加はなくてはならないの。」



「そんなに重要な国でしたか?トリスと言えば小国だったと記憶しておりますが。」



 マーシュが横から口を挟む。



「とっても重要よん。アンデルちゃんにとっても必ず行った方が益になるわ。」



 その言葉を聞き、アンデルはぴくりと反応する。テトラは苦手な相手ではあるが、その能力は神に選ばれた、人間を超越したものであることは疑いようがない。そのテトラが言うのだから、行くに越したことはないのであろう。



「アンデルちゃんを魔討同盟の特使に任命するわ。トリスにて同盟を締結して来てちょうだい。誰と結ぶかはアンデルちゃんの判断に任せるわ。」



「誰、と?」



 アンデルはその言葉にひっかかる。同盟を結ぶのだから、国を統べる王と結ぶ以外に選択肢があるはずはない。テトラは何も答えずにこにこと笑っている。恐らく面倒ごとに巻き込まれるのだろうな、とアンデルは腹を決める。



「確かに拝命致しました。」




 --アンデルがゼンを出てからの一連の話を聞いたウェイクらは、小難しい顔で腕を組んでいる。



「魔討同盟、か。」



「ああ。南の大陸はマーシュ殿下が中心になって同盟を纏め上げる心算らしい。」



「国の中枢に魔族が入り込んでたって言うのは由々しき問題よね。」



「僕は神器ってのがインタラスティング!」



「それは確かに。」



 キグナスの持つ神器の話を聞いてからオットーの目は輝きっぱなしである。ウェイクとイムカも、神器には興味があるようだ。



「とにかく、面倒ごとが待っているには違いないが、我々はトリスを目指す。」



 一行は見つめ合い、頷いた。






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