開戦(4)
「魔族が化けていたのか!」
火花を散らしながら、本性を現したデーモンに、アンデルは構える。
「ま、魔族・・・」
オルフェンが思わず後退る。
「折角人間同士で争わせているのに、水を差してくれるではないか。」
デーモンは、思わず耳を覆いたくなるような不快な声で語りかける。
「はっ!正体がばれたことでお前の計画は潰えたな!」
アンデルが煽る。
「潰えた?ここで貴様らを殺せば問題ないであろう。」
デーモンが凄む。
「オルフェン、エバ、やれるか?」
アンデルは小声で二人に問いかける。エバは短槍を構え、無言で応える。
「なんて禍々しい・・・」
オルフェンはカタカタと震え、立っているのがやっとであった。アンデルは心の中で舌打ちする。目の前のデーモンから溢れる瘴気は、かつて生命の危機を感じさせられたヴァンパイアを彷彿とさせるものである。オルフェンが尻込んでしまえば、攻撃手段はエバのみとなってしまう。
「オルフェン!ここが橋頭堡だ!俺達が負ければ、この国は魔族にめちゃくちゃにされてしまうぞ!」
「あ、ああ・・・」
杖を構えるオルフェンだが、その腰は引けている。
「折角この姿になったんだ。すぐに死んでくれるなよ?」
デーモンは、恐ろしく鋭い爪を光らせる。
「ファイアーボール。」
エバが火球を飛ばす。しかしデーモンは翼をはためかせ、宙にかわす。
「ファイアーボール!」
オルフェンが追撃の魔術を放つも、デーモンは三次元の動きで悠々とかわす。
「今度はこちらの番だ。インフェルノフレイム。」
デーモンは中空より炎を降らせる。
「アイスウォール。」
エバが氷の壁を貼り、炎を遮る。
「ほう。我輩の炎を受け止めるか。」
デーモンはニタリと口元を歪める。エバを獲物と定めたのか、地面に降り立つ。
「シャイニング!」
アンデルは好機と見て、エバの後方で光球を弾けさせる。
「ぬっ!」
「アイスランス。」
デーモンが一瞬目を逸らした隙に、エバが氷の槍を立て続けに放つ。一本は肩口を抉ったものの、後続の槍はデーモンの爪を持って切り裂かれてしまう。
「くくく・・・人間とは脆弱なりに、連携するものであったな。油断したぞ。」
肩から流れる紫色の血を眺めながら、デーモンは笑う。そして殺気と共にエバに飛びかかった。
「っ!ストーンウォール。」
壁を盾にしようと構えるエバの目の前で、デーモンは進行方向を変える。魔力を練っていたアンデルへと不意打ちする。
「しまっ・・・」
エバの援護をしようとしていたアンデルは、不意打ちを避けきれず、眼前に鋭い爪が迫ってくる。そこでアンデルの影が動いた。
「ヒカゲ!」
影から現れたヒカゲの直刀が、その爪を受け止めている。
「闇の住人が人間に与するか!」
「フレイムニードル!」
鍔迫り合いとなっている側面から、オルフェンが放った高速の炎の針が飛来する。
「ちぃっ!」
デーモンは後ろに跳んで離れる。
「よし!連携すれば勝てるぞ!」
アンデルはさらに檄を飛ばす。ヒカゲがデーモンを追撃する。爪と直刀が高速でぶつかり合い、火花を散らす。
「・・・ヒカゲ!」
アンデルの声に呼応して、ヒカゲが飛び退る。
「シャイニング!」
再びの目くらましの後に、オルフェンとエバが追い打ちをかける。
「フレイムニードル!」
「アイスランス。」
左右から撃ち込まれた炎と氷の魔力が、デーモンを串刺しにする。
「やったぞ!」
動かなくなったデーモンを見て、アンデルは勝利を確信した。しかし、今まで静かにしていたソユが、宝石の中から声をあげる。
「まだ終わってはおらぬ。」
「グフフフフ・・・」
デーモンが不気味な笑い声を漏らす。するとデーモンの体に突き刺さっていた針と槍がずぶずぶと押し出され、地面に落ちて煙を上げ消滅する。
「実に面白かったぞ矮小な人間共。我輩は満足した。褒美をやろう。」
血を流しながら、デーモンは立ち上がる。そしておもむろに右手を挙げると、黒い炎の塊をいくつも宙に呼び出した。
「させるか!シャイニン・・・」
「それはもう見飽きた。」
再び目を眩ませようとしたアンデルの眼前に、デーモンが肉薄した。ヒカゲをもってしても反応できない速度で移動したデーモンは、黒い炎をアンデルに撃ち込んだ。
「ぐああああっ!」
アンデルは黒い炎に包まれ、地面を転げ回る。
「むっ!まずい!」
宝石から飛び出したソユが、アンデルを水の膜で覆い鎮火させる。
「ほう。水の精霊がついていたか。」
デーモンは不敵に笑う。
「なんだ今の炎は・・・骨の髄から焼かれているような・・・」
アンデルは体を見回すが、あれだけの炎に包まれたというのに、火傷の一つもついていなかった。
「あれは地獄の炎、魂を焼く炎じゃ。」
ソユが厳しい顔で答える。
「そら、次々行くぞ!」
デーモンは黒い炎を巧みに操り、オルフェンとエバに襲いかかる。
「ファイアーボール!」
「アイスウォール。」
オルフェンは火球をぶつけることで炎を相殺し、エバは氷の壁で自らを覆う。しかし、その対応の差が明暗を分けた。
「くうっ・・・!」
黒い炎は、氷ごとエバを燃やした。
「アクアスクリーン!」
アンデルはソユの力を借り、オルフェンとエバを水の膜で覆う。エバを包む炎は消えたものの、エバは地面に横たわっていた。
「俺の婚約者に・・・手を出すな!」
それを見て逆上したのはオルフェンであった。その剣幕は、アンデルも驚くほどであった。
「ストーンバレット!ウインドカッター!アイスランス!」
オルフェンの杖の先から、次々と魔力の光が奔流する。
「ダイアモンドダスト!サンダーボルト!フレイムニードル!」
魔術学院主席卒業の実力を遺憾なく発揮して、様々な属性の魔術を堰を切ったようにデーモンに向け放つ。
「無茶だオルフェン!」
アンデルの制止も聞かず、オルフェンはひたすら魔術を紡ぐ。
「ファイアー・・・」
ついに魔力が切れ、膝をつく。
「オルフェン!」
「ククク・・・もう終わりか?」
煙る爆心地から、デーモンが笑いながら現れた。
「ヒカゲ!」
オルフェンの元へ行かせまいと、ヒカゲがアンデルの声と同時に飛びかかるが、デーモンは腕を一閃する。
「邪魔だ。」
ヒカゲは腹に裏拳を喰らい地面に転がる。
「見事な花火であったぞ。」
デーモンが項垂れるオルフェンの首元に向かって爪を振り下ろす。
「オルフェン!」
その時、いずこからか矢が飛来して、デーモンの爪を弾いた。
「何だ?」
「オットー!」
矢の飛んできた方向を見ると、建物の屋根の上で、オットーが矢をつがえていた。オットーは次々と矢を放つ。矢はデーモンの体表を流れる魔力の鎧によって弾かれるが、その衝撃でデーモンの体を徐々に押しやる。
「小賢しいわ!」
デーモンが腕を一振りすると、空気を震わす衝撃波が飛ぶ。衝撃波が屋根を崩し、オットーはごろごろと転がり地面に落ちる。
「オットー!」
アンデルがオットーの無事を確認するまでもなく、矢が飛来し、デーモンを襲う。
「アル。」
その趨勢を見守ることしかできないアンデルに、声がかけられた。アンデルが振り向くと、そこにはエバを負ぶったイムカが立っていた。




