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開戦(3)

「わあきれいな森ね!」



 馬を駆るイムカが無邪気な声をあげる。先導するヒカゲの後を、十数騎の馬が追従しながら森を駆ける。



「魔のフォレストがこんなに穏やかだったなんて・・・」



「いいか!この森のことは絶対に外部にもらすなよ!」



 アンデルは今いる人員に緘口令を敷いた。



「俺たちの作戦はただ一つ!この森を通ってソファラ軍をかわした後、ポートクォーツにある敵の司令部を叩く!」



「ちょっとアル!なんで私達が戦争に参加しないといけないわけ?」



 イムカが不満を漏らす。



「きゃんきゃん騒がしい小娘じゃのう。」



「なんですって!誰よ!」



 突然聞こえた声に、イムカの目が釣りあがる。アンデルはそっと宝石袋に手を伸ばし、刺激するなと合図を送る。



「なんじゃお主、こんな小娘に尻にしかれておるのか。」



 アンデルの願い虚しく、ソユが宝石から姿を現わす。後ろ向きにアンデルの馬へと同乗しながら、ケラケラと笑う。



「ちょっとアル!誰よこの女!」



「うるさい小娘じゃ!」



「なんですって!?あんたの方がよっぽど小娘じゃないの!」



「妾の真の姿はお主の数百倍美しいぞ。」



 ぎゃーぎゃー言い合う背中での争いを聞こえないふりをしながら、アンデルはただ前だけを見つめる。早く森を抜けたいと切実に思いながら。



「アンデル、いいのかい?」



 あわあわするオルフェンの問いかけにも、首を振って答えるのみである。



「平原にでる。」



 アンデルの願いが届いたのか、ヒカゲが森を抜ける旨を告げてくる。



「ソファラ軍には目をくれるな!ポートクォーツへ駆け抜けるぞ!」



 未だ言い合いを続ける二人を尻目に、アンデルは檄を飛ばす。おろおろしていた元冒険者達の顔も自然と引き締まる。



「抜けるぞ!」



 森から飛び出したアンデル達が目にしたのは、右手に混乱を極める戦場、左手に焼け落ちたポートクォーツであった。



「目標は領主邸だ!」



 マーシュを救出しに行った晩と同じく、正面の門をくぐる。襲撃のあった晩より、さらに建物の崩壊が進んでいた。



「人間の争いとは醜いのう。」



 先程まで人間と醜い言い争いをしていたソユが、戻った宝石の中からこぼす。



「イムカは皆を連れて領主邸内の敵を排除してくれ!俺とエバは敵の魔術師を叩く!」



「いいの?邸内で暴れちゃって。」



 イムカが並走するエバに訊ねる。



「構わない。好きにやって。」



 エバは無表情で答える。



「家主の許可が出たわ!あんたら気合いいれて敵を叩き出してやるわよ!」



 後方を走る一団から応と雄叫びが上がる。



「よし突撃!」



 戦意の高まった一団が騎乗したまま領主の館に乗り込む。屋敷を警護していたソファラ兵がわらわらとでてきたところに、イムカが斬りかかる。



「姐御に続けぇ!」



 ソファラ兵とマクスウェル劇団の荒くれによる斬り合いが始まった。



「エバ、魔力の波を感じるか?」



 アンデルはエバに尋ねる。内部構造を把握しているエバならば、魔術師の居場所を容易に特定できる。



「こっち。」



 馬から降りたエバが、ホールを駆け抜けていく。アンデルとオルフェンもその後を追う。



「護衛がいる。」



 エバが足を止める。ばたばたと廊下を走り回るソファラ兵がいるようだ。



「眠らせられるか?」



 エバはこくりと頷くと、短槍を掲げる。



「スリープ。」



 ばたりと音がした後、廊下が静かになる。顔を覗かせて確認すると、敵兵が何人も倒れている。



「こっち。」



 エバは再び駆け出す。



「この階段を上った先に、書斎がある。そこから魔力の揺らぎを感じる。」



「ああ、間違いなさそうだ。」



 同じく魔力の波を感じ取ったアンデルは、オルフェンと頷きあった後、階段を駆け上る。



「この館は制圧した!投降しろ!」



 扉を開け放ち、突入した。ソファラの魔術師は、不敵な笑みを浮かべながら椅子に座っていた。



「グラシエルの魔術師か。」



「そこはあなたの座る椅子ではない。」



 エバが滅多に見せない怒りを露わにし、魔力の氷柱を飛ばす。素早く避け、ソファラの魔術師は窓際に立つ。



「ふはははは!」



 そして高笑いをしながら、窓を突き破り外へ飛び出した。



「なっ!?二階だぞ!」



 アンデルは慌てて割れた窓から外を確認するが、魔術師の姿はない。



「アイスウォール!」



 アンデルは、氷の壁を建物に沿って呼び出し即席の滑り台を作り上げる。



「ほう面白い使い方をするのう。」



 ソユが感嘆の声を漏らす。



「追うぞ!」



 三人は飛び出した。





「魔力の残滓を掴んだ。」



「俺もだ!こっちを曲がったな!」



 魔術師の魔力を追い、三人は焼け落ちたポートクォーツを疾走する。ついに、広場で魔術師の姿を捉える。



「サンダーボルト!」



 オルフェンの手から放たれた雷が、魔術師の背中へと襲いかかる。魔術師は横っ飛びでそれをかわすと、ごろごろと転がる。



「もう逃がさないぞ。」



「逃げる?馬鹿を言うな。」



 ソファラの魔術師はおもむろに立ち上がると、余裕の笑みを浮かべる。



「狭いところでは我の力を十全に発揮できないからなっ!」



 魔術師はそう言うと、苦しそうに悶え始める。



「ぬ、ぐおおぉぉぉ!」



「なんだ、何をする気だ?」



 警戒する三人が動けずにいる中、魔術師の姿が変容していく。



「つ、翼だと!?」



 黒いコウモリのような羽が、ローブを突き破って出現した。



「ふんぬぅうぅぅぅぅ!」



 それだけに留まらず、次第に魔術師の体は膨れ上がっていく。その耳は尖り始め、口が裂ける。目は真っ赤に血走っている。



「こ、これは・・・」



 オルフェンが動揺の声を漏らす。



「ぬがあぁぁぁぁぁ!」



 魔術師は眩い光に包まれた。



「うっ!」



 三人は思わず顔を背けた。やがて光が収まって、再び魔術師に目を向けるとそこには、



「で、デーモン・・・」

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