表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/72

開戦(1)

 ソファラ軍の出陣は、グラシエル陣営に衝撃を走らせた。



「五万だと!?」



 マーシュが机に拳を叩きつける。



「いくらなんでも兵を用意するのが早すぎる・・・まさか彼奴ら最初から仕掛ける準備をしていたのか・・・」



「我々は嵌められたようですね。」



 寝ていたはずのオルフェンがおもむろに起き上がる。



「オルフェン!起きて大丈夫なのか!」



「ええ。さっきまでが嘘のように体が軽いのです。ご無事でなによりです王子。」



「うむ、うむ。」



 跪くオルフェンを、マーシュは満足げに見下ろす。



「朦朧とした意識の中でも、アンデルが助けてくれたのは聞いていたよ。ありがとうアンデル。・・・アンデル?」



 寝たきりであったオルフェンが起き上がったのに対し今度はアンデルが寝込んでいる。



「悪りぃな。今までの努力がふいになったことが相当ショックだったみたいでよ。」



 反応のないアンデルに代わり、ウェイクがオルフェンに謝る。



「よーし軍議始めるぞー!お?見慣れない顔がちらほらいやがんな。」



 天幕の入り口をくぐらなくては通れないほどの大男が入ってきた。



「ギリアムの旦那!?」



 ウェイクが声を上げる。



「んー?お!お前ウェイクか?」



 大男は懐かしそうにウェイクを見て微笑んでいる。



「でっかくなったなー。」



 大男はウェイクの頭をわしわしと撫でる。



「そりゃ十年も経ってるんだ、もうガキじゃねーっての!旦那こそ随分立派な格好してどうしたんだよ。」



 そこにマーシュが割って入る。



「ユングヴィ騎士団長。彼らはポートクォーツより私を助けて出してくれた恩人だ。そしてオルフェンの命の恩人でもある。」



「騎士団長!?」



 ウェイクが驚愕する。



「マーシュ王子。ご無事でなによりでございます。」



 ギリアムは跪き、臣下の礼をとる。



「猛将と名高い貴殿が軍を率いてくれるのは心強いな。」



 マーシュは満足げに微笑む。ギリアムはオルフェンに向き直る。



「オルフェン殿もご無事でなにより。」



「私のせいでこんなことになってしまい、申し訳ありません。」



 オルフェンはギリアムに頭を下げる。



「ならば、働いて責任をとってもらわなければなりませんな!」



 ギリアムはオルフェンの背中をばしばし叩きながら快活に笑う。



「ようウェイク。このお二人を助けたのはお手柄だったぞ!いずれこの国にとってなくてはならない存在になるからな!」



「いや、助けたのは俺じゃなくて・・・」



 ウェイクは足元で臥せっているアンデルを指差す。



「ん?死体じゃなかったのか?」



 ギリアムはアンデルの首根っこを掴むと、片手で持ち上げた。アンデルの目は虚ろで、生気は感じられない。



「喝っ!」



 グラシエル陣中に響き渡るのではないかという大声が、アンデルの目を覚まさせた。



「はっ!俺は何を・・・」



「貴様!名は!」



「ひっ!ア、アンデルです!」



 事態を飲み込めていないアンデルは、その迫力に気圧される。



「俺の名はギリアム=ユングヴィ!騎士団長を務める名誉男爵だ!貴様も軍議に参加せよっ!」



「はいっ!!」



「はっはっは!元気になったぞ!」



 ギリアムはアンデルをウェイクに向かって放り投げる。アンデルはいまいち理解できずに目を白黒させる。



「軍議?騎士団長?」



 ウェイクはため息をつきながら、アンデルが意識を失っていた間の説明を始める。





 --天幕の中で、総大将マーシュを初め、軍幹部が机を囲んでいる。その末席にはなぜかアンデル達が座っている。



「すまないね、アンデル。」



「なぜ俺がここにいるのか未だに理解が出来ないよ。」



 隣に座ったオルフェンが、小声でアンデルに話しかける。



「戦争に巻き込むつもりはないから安心して欲しい。」



 オルフェンが決意のこもった目でアンデルを見つめる。



「戦争かあ・・・」



 ポートクォーツの戦火に飛び込んでしまった時点で覚悟はできているのだが、劇団のみんなを巻き込むことはできないし、魔王を倒すまで自分も死ねない。アンデルはそう考える ている。隣では完全に巻き込まれてしまった形のパムが震えている。さらに隣に座るウェイクは、退屈そうにあくびをしている。オットーの姿はない。軍議が始まる前に、みんなの無事を伝えるために、先に帰したからである。



「戦争よりイムカが怖いな・・・」



「何か言ったかいアンデル?」



「いや何でもない。」



 勝手に戦火に飛び込んだ上に、連絡もなしに数日を空けてしまった。イムカの怒りは想像に難くない。とは言え、心配から来る怒りなので、アンデルは少し嬉しかったりする。



「敵の数は凡そ五万。キャンドル平原に陣を取っています。」



 軍議では、ギリアムの副官だという男が戦争の概要を説明している。今は丁度ソファラ軍の布陣の説明のようだ。



「五万か。常に五万の兵士を動員できるわけもないだろうし、こりゃ準備してたな。」



 ギリアムと幹部達は険しい表情で地図を睨んでいる。



「大して我が軍は一万。順次キャンドル平原に布陣し始めています。」



「遮蔽物のない平原でぶつかれば、こっちは一瞬で溶けちまうな。相手の陣は?」



「鶴翼の陣。五千ずつの騎馬を両翼に配置しているとの報告です。」



「こっちは王子の本陣の前に横陣を引くしかないが・・・最初の突撃を防げないな。」



 ギリアムは苦虫を噛み潰したかのように表情を歪ませる。



「しかも向こうには魔術師がいることも確認

 した。」



「魔術師がでてきたら戦術もくそもあったもんじゃねえぞ。」



 そこでオルフェンが立ち上がった。



「魔術師は私がなんとかします。」



 ギリアムはオルフェンをちらりと見やり、副官に訊ねる。



「魔術師の居場所は確認できたのか?」



「いえ、偵察の話では、魔術師の位置は確認できなかったとのことです。」



「どこから飛んで来るかわからねえ魔術を防げるかオルフェン殿。」



「・・・厳しいですが、やります。」



 アンデルは、オルフェンの手が震えてるのを見た。



「オルフェン殿はどこからでも迎撃できるように、予備隊として組み込んで・・・」



 ギリアムによる作戦の立案が始まる。



「なあパム。ちょっと耳を貸してくれ。」



 アンデルはパムに耳打ちをする。



「ふええ!?私がですか!?」



「ああ、できるか?」



「できなくはないですけど・・・」



 アンデルはその答えに満足気に頷く。



「おいアンデル。なんかやる気か?」



「ああ。乗るか?ウェイク。」



「ギリアムの旦那を助けられるなら、いっちょ噛んでもいいぜ。」



 ふっ、と笑った二人は、拳をぶつけ合う。



「主よ、戻ったぞ。」



「待っていた。どうだった?」



「魔術師は一人。陣中になく、ポートクォーツの領主館にて確認。護衛は百余り。」



「よし、よくやった。」



 アンデルは軍議が始まる前に、ヒカゲを偵察に出していた。その速度と隠密性を生かし、ヒカゲは敵魔術師の位置を特定していたのである。



「--中央を厚くして、両翼は・・・」



「少し宜しいですか。」



 ギリアムの説明をアンデルの発言が遮る。



「騎士団長の説明を遮るとは何事だ!そもそも誰なんだ貴様は!」



 軍幹部が激昂する。



「よい。俺が軍議に呼んだのだ。何かあるならば申してみろ。」



 軍議が始まる前とは違う、ギリアムの貴族然とした威厳に戸惑いつつも、アンデルは発言する。



「此度の戦、王を拐われたと言いがかりをつけてきたソファラ国と、それを防衛するグラシエル王国、という認識で間違いありませんね?」



「うむ。私が交渉の場で相手を説き伏せられなかったことを申し訳なく思う。」



 マーシュが答える。



「なら勘違いで始まったこの戦、どちらも被害を少なく終わらせたい。違いますか?」



「それができるなら頭を悩ませておらぬ!素人が余計な口を挟むな!」



 別の幹部からも怒声が飛ぶ。



「ならば!この私が早々にこの戦を納めて見せましょう!」



 高らかに宣言するアンデルに、天幕の中は静まり返る。



「な・・・何を言って・・・!」



 幹部達が騒ぎ出すのを、ギリアムが手で制する。



「何か案があって言ってるんだろうな?」



 静かではあるが、怒りを多分に含んだその声に、アンデルは冷や汗をかく。しかし、表情はそれを見せないように取り繕う。



「私とオルフェンで、敵の魔術師を先に捕らえて参ります。」



 急に話を振られたオルフェンが動揺する。



「魔術師の居場所はわからぬ。戦場を駆け巡る気か?」



「いえ、向こうの魔術師はでてきません。ポートクォーツの街に留まっています。」



「ほう。なぜわかる?」



 アンデルは、ギリアムの問いかけに対し、不敵な笑みで答える。



「私の情報網が領主邸にて敵魔術師を確認いたしました。オルフェンが負った傷は生死に関わるものだということは相手にも伝わっているでしょうし、私が魔の森へ入って行くところも相手に見せています。まさか二人ともこうして健在だとは夢にも思わないでしょう。」



 此奴も魔術師なのか?魔の森へ入って生きてでてきたのか?と、幹部達はざわつき始める。



「魔術師の脅威がない今、大軍で圧しつぶすだけの戦に魔術師が出張る必要はない。そう相手は考えるでしょうね。」



 アンデルの言葉が説得力を帯びてくる。



「して、いかにポートクォーツへ入る。あの大軍をかわして街につくのは無理だぞ。」



 ギリアムの疑問も至極尤もである。だが、アンデルは笑った。



「魔の森を抜けます。」



 にわかに幹部が騒ぎ出す。



「あの森を抜けるなんて自殺行為だ!」



 魔の森の伝承を知るものが叫ぶ。



「普通のものならば命を落とします。しかし私ならばそれができます。」



 実際の魔の森は、平穏で美しいだけの森なのだが、人魚側に配慮してアンデルは大げさに言う。



「本当に魔術師が捕らえられるならば、相手は背後に敵魔術師が現われたこたで士気を失うだろう。」



「ええ。威嚇で魔術を放ってやれば、相手は無力化できます。」



「うわっはっはっはっはっ!」



 ギリアムは先程までの威厳などどこ吹く風で、快活に笑った。その姿に、軍幹部達は怪訝そうにギリアムを見る。



「よし。アンデルよ。貴様に託そう。戦線の方は俺が死力を尽くして耐えて見せる。」



「ギリアム団長!?」



 軍の関係者でもないアンデルに任せると言う決断に、幹部達はざわつく。



「いえ、こちらの被害を抑える作戦もちゃんとあります。まず--」




 その後も、アンデル主導で軍会議は続く。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ