神との再会(4)
「あのゴーレムが鍵になっていたんだな。」
階段を下りながら、アンデルが考察する。おそらく、動力源が破壊されて活動を停止することになった際、ゴーレムはこの階段への道を開くよう命令されていたのではないか。アンデルはそう考える。
体温の高いものを襲う、倒された時に道を作る。たった二つの命令であるが、無機物に命令を与え、自立させる技術など現代にはない。それだけで古代の技術力の高さが伺える。
「それにしても、どこまで続くんだ?」
後方からウェイクのぼやきが聞こえる。確かに階段を下り始めてから随分と経っている。下の階に進むためだけのものならば、とっくのとうについていてもおかしくない。
「どこまで続くかわからない。一度戻って休むか。」
ゴーレムと戦ってからろくに休憩も取らずに来てしまった。ゴーレム相手に神経をすり減らしていたであろうウェイク達の事を考えると、このまま強行軍を取るのは得策ではないとアンデルは考える。
「一度さっきの広間に・・・」
戻るか、と言いかけたアンデルだったが、足を止め振り返った時、天地を失う。
「アル!」「アンデル!」
足場を急に失い、階段であったはずの穴に吸い込まれていくアンデルに、頭上から声がかけられる。
「ああ、皆は無事なんだな。」
落下していく感覚に意識が薄れいくアンデルが考えたのは、皆の心配であった。
ーー暗闇の中、アンデルは目を覚ます。
「ここは・・・。」
辺りは一面の闇。自分の体に異常があるか確かめる。
「俺は確かに落ちたはずだよな?どこも痛くないぞ。」
自分の足元の階段だけが急に消え、かなりの高さを落下したはずなのに無事。アンデルは事態を把握できずに混乱する。
「何がどうなっている・・・?」
まずは自分がどこにいるのか把握しようと、光球を呼び出す。
「シャイニング!」
にわかに現れた光が照らしたのは、先ほどゴーレムと戦った広間よりもやや狭い空間であった。アンデルは光球を飛ばし、辺りを見渡す。
「ゴーレム!」
光球を壁際に飛ばしたその時であった。壁際に先ほど倒した石像が一面にずらりとならんでいた。アンデルの背中を嫌な汗が流れる。出口らしきものは見当たらない。逃げる場所がない状態で数十体はいるであろうゴーレムの相手をするなど、死に等しい行為だ。
「ヒカゲ!」
ヒカゲが影に入っていないか呼びかける。しかし反応はない。ヒカゲにしても余りに唐突な出来事に反応できなかったのであろうとアンデルは歯噛みする。
「とにかくアイスウォールで・・・」
アンデルは両手に魔力を集める。この量のゴーレムを一度気に氷で囲むとなると、相当な魔力が必要になる。両手の毛細血管が悲鳴をあげているのを無視し、魔力を練る。いざ、魔力の奔流を解き放とうとしたとき、アンデルに声がかけられた。
「まだこんなところにおったのか。」
誰かが居ることに気付かなかったアンデルは、驚いて魔力を霧散してしまう。
「誰だ!」
慌てて振り向いたアンデルの目の前には、予想外のものがいた。
「ま、マクスウェル神・・・」
それは魔王襲撃の際に現れ、そしてアンデルが旅立つ元凶となった神であった。
「我が神殿に尋ね人あるかと思い顕現してみれば、そなたであったか器たるものよ。」
アンデルはよもやの神の登場に跪き、努めて冷静を振る舞う。
「主よ、なぜここにおわすのでしょうか。」
「ここは我を奉りし祭壇を護る神殿である。」
相変わらず威厳のこもった声が、アンデルの心に直接流れ込んでくる。
「主よ、お伺い奉りたい事がございます。」
「申してみよ。」
アンデルは予想だにしなかった神との邂逅を、千載一遇のチャンスと考えた。
「なぜ私が選ばれたのでしょう。」
「然り故に。」
神の答えは的を射ない。
「偶々居合わせた故、という事でしょうか。」
アンデルは自分の解釈をぶつける。
「そなたが器たるもの故。」
神は再び器たるものという言葉を使う。
「恐れながら、器とはいかなるものでしょう。」
「そなたは器のみなり。中身なくして魔力使う事能わず。」
「それは私の魔術が不完全な事に関係あるのですか?」
神は答えない。ただ優しげな眼差しでアンデルを見つめるのみである。目を合わせることを憚られたアンデルは、質問を変える。
「では、魔王とは如何なるものですか?神が創りたもうた記号なのですか?」
アンデルは司書長の仮説をぶつける。
「魔王即ち危機なり。」
「人同士が争う最中、共通認識を持たせるために神が創りたもうた旗印ではないのですか?」
アンデルは踏み込んで問う。
「それも然り。あるいは否。やがて時が来たりて知る事になる。」
これもはぐらかされる。ならばとアンデルは三度質問を変える。
「魔王はなぜ王女様を拐かしたのですか?」
「魔王未だ不完全なり。高貴な血を集め力の復活を企てしものなり。」
「ならば直ちに王女様の身に危害は加えないと?」
「幾ばくかの猶予は残されている。」
その言葉にアンデルは些かの安心を覚えた。ならば次の質問を、と考えたところで、神がアンデルに向け手を伸ばす。途端にアンデルは睡魔に襲われる。
「まだ・・・」
まだ聞きたいことがある、という意思に反して、アンデルの意識は遠のいていく。
「我が名を称えよ。我はマクスウェル。」
その声を最後にアンデルは意識を手放した。
ーー遠い意識の中で、アンデルは自分の名を呼ぶ声を聞いた。
「アル!アル!」
やがて覚醒していく意識の中に、懐かしい温かみを感じた。
「ここは・・・?」
「よかった!目を覚ました!」
アンデルが目を覚ますと、目の前には涙を浮かべたイムカがいる。どうやらゴーレムと戦った広間のようだ。
「どこか痛いところはないか?」
上体を起こすと、ウェイクから声をかけられる。
「ああ、どこにも異常はない。」
軽く体を回しながら答える。
「俺はなぜここに?」
「俺にもさっぱりわからん。階段が突然崩れて、お前を救出するために一旦外に出ようとしたら、お前がここに倒れていたんだ。」
ウェイクから説明を聞いてもアンデルにも理解はできない。
「階段の先は行き止まりだった。」
エバはいつも通りに見える。しかし微かに涙の跡が見えた。
「神にあったよ。」
アンデルの言葉に皆動揺する。
「神ってあのマクスウェル神か?」
「ああ。色々聞けたよ。」
アンデルは顛末を説明する。
「そうか、王女様はまだ無事なんだな。」
皆それを聞いて安堵する。すると、黙っていたヒカゲが寄ってくる。
「主よ、御身を守れなかったこと口惜しく思う。」
「いや、ヒカゲはよくやってくれている。心配かけてすまなかったな。」
ヒカゲは何も言わずアンデルの影へと戻っていく。
「さあ、街へ戻ろう。皆が待っている。」




