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神との再会(3)

 この世には、現代の技術ですら再現できない、遥か古代に失われた技術によってつくられた遺物がある。魔術がもっと身近で、武力としてではなく生活の一部として扱われていた時代。世界各所で度々見つかる古代の遺跡からは、そんな名残を思わせる遺物がたびたび発掘される。


 トレジャーハンターと呼ばれる職業がある。彼らは古代遺跡の発掘調査を主な活動の場とする冒険者で、そこで見つかった遺物を売ることで、莫大な富を得る。

 しかし、彼らの母体数はそう多くない。一攫千金を夢見てトレジャーハンターを志す者は多いが、古代の遺跡には魔獣が棲み着いていることが多いため、腕に自慢のあるものしか潜ることはできない。運良く誰の手も入っていない遺跡を見つけても、そこには古代に仕掛けられた罠の数々や、迷宮が待ち構えている。腕力と知力。二つを兼ね備えたものだけが栄光を手にするのだ。


 そんな彼らの間には、とある噂がある。遺跡の探索の最中に体が銅で出来た獅子に追い回された、最深部で石像が襲いかかってきた、というものである。ごく少数の報告ではあったが、彼らはそれを古代人が遺した守り手だと確信した。そしてその守り手はゴーレムと呼ばれ、恐れられた。




 そしてそのゴーレムが今まさにアンデル達に襲いかかってきている。



「全然刃が通らないんだけど!」



 騒ぎを聞いて広間に飛び込んできたイムカがゴーレムに小剣を突き立てようとして諦める。ヒカゲの攻撃も全く通っていない。



「どりゃああああっ!」



 ウェイクの裂帛の気合いと共に放たれた一撃も、ゴーレムを僅かに欠けさせるのがやっとである。



「目をつぶってろよ!シャイニング!」



 ゴーレムの視界を奪おうと、アンデルは光球を眼前で炸裂させるが、怯む様子はない。相も変わらず拳を地面に振り下ろしてくる。イムカはそれを軽々と避けているが、一撃でももらえば致命傷になりかねない薄氷の立ち回りである。しかも、砕け散った破片が当たることでじりじりと体力は奪われていく。アンデル達はジリ貧に陥っていた。



「視覚をもっていないのか・・・」



「痛覚もない。」



 先程から電撃を放っているエバが告げる。



「生命活動は認められない。」



 その言葉にアンデルは思案する。



「何か奴を動かす動力源があるかもしれないな。」



 注意深くゴーレムを観察する。ゴーレムは一心不乱にウェイクとイムカに拳を振り下ろしている。そこでアンデルはふと気付く。今ゴーレムの周りにはウェイク、イムカ、ヒカゲの三人がいるが、ゴーレムが加えようとしているのはウェイクとイムカだけである。



「なぜヒカゲは狙われない・・・?」



 ウェイクとヒカゲの違いを比較する。ウェイクは人間でヒカゲは違う。ウェイクはうるさいがヒカゲは音を立てずに動く。ウェイクと違いヒカゲは三次元と二次元の狭間にいる。ウェイクは・・・。



「とにかく試してみるか。」



 思考の海で溺れかけたアンデルは、考えることをやめ魔力を練る。そして右手をゴーレムに向けると、練った魔力を解き放つ。



「サンダーボルト!」



 耳をつんざく轟音と共に、極大の雷光がゴーレムに炸裂する。



「いきなりぶっ放すなよ!」



 突然の轟音に、聴覚が一時的に麻痺してしまったウェイクが、耳を覆いながら叫ぶ。そこにゴーレムの拳が迫り、身を投げ出してかわす。



「音で場所を特定してるわけではなさそうだな。」



 暴挙ともとれる突飛な行動を非難するべく、無言の抗議で太ももへぺしぺしと打ち付けられるエバの槍を受けながら、アンデルは観察を続ける。



「視覚ではない、聴覚でもない・・・」



 アンデルの眼前にはゴーレムの猛攻を捌き続けるウェイクの必死な姿が映っている。絶え間なく動き続けているウェイクの額には、玉のような汗が浮かんでいた。



「体温か・・・試してみよう。」



 ゴーレムの拳をウェイクが大きく避けた間隙をついて、アンデルは魔術を発動する。



「アイスウォール!」



 ウェイクとゴーレムの間に氷の壁がそびえ立つ。すると、途端にゴーレムの追撃が止まった。ゴーレムは目の前のウェイクを無視してイムカに向き直る。



「これだ!エバ、奴を氷で囲うぞ!」



 二人の魔術師による氷壁によって、ゴーレムは氷の部屋に閉じ込められ、動きを止めた。



「なんだ、動かなくなったぞ?」



 ウェイクが不思議そうにアンデルの元へ戻ってくる。



「あのゴーレムは体温を目印に襲ってきていたようだ。おそらく生物の体温を敵と認識しているんだろうな。」



 氷の部屋に閉じ込めてしまえば攻撃対象が判別できなくなる、という仮説が立証できてアンデルは満足げである。



「それを確かめるために雷をぶっ放したのかよ!これだから魔術師ってのはよ!」



 ウェイクが吐き捨てる。魔術師に限らず、学者の様な頭脳を己の武器にする者は、実験や考察といった思考に傾倒するきらいがある。思い立ったらすぐ行動という冒険者とは相容れない点であるため、争いの種になることも少なくない。



「よしこれでゆっくり動力源を探せるぞ。」



「こっちはまだ耳鳴りが治らないっていうのによ・・・」



 ウェイクの憎まれ口を聞いているのか聞いていないのか、アンデルは氷の柱を階段の様に器用に呼び出した。



「結構高いな・・・」



 巨大なゴーレムを上から見おろすとなると、かなりの高さになる。多少の恐怖を振り払ったアンデルは、まじまじとゴーレムを観察する。すると、



「ん?・・・あれは?」



 アンデルは広間に浮かべていた光球を消した。



「ちょっと!真っ暗になっちゃったわよ!」



 無論広間は暗闇に閉ざされてしまい、イムカが声をあげる。



「ウェイク!ちょっと来てくれ!」



 アンデルがウェイクを呼ぶ。渋々階段を上ってきたウェイクにアンデルは問いかける。



「なんだってんだよ。」



「ウェイク、あそこを見てくれ。」



 アンデルが指差したのは、ゴーレムの首の付け根である。



「なんか赤く光ってるな。」



 そこには、赤く光りを放つ剥き出しになった宝玉のようなものがあった。



「あれが動力源かもしれないな!ウェイク!氷を退かすからあれを破壊してくれ!」



 興奮気味のアンデルに対し、ウェイクはやや引き気味である。それでもウェイクは氷の屋根をよじ登りゴーレムの真上に陣取った。



「よし、行くぞ!」



 アンデルがウェイクの足元の氷を消す。すると、自然落下に寄ってウェイクがゴーレムの頭へと吸い込まれる。ゴーレムの肩へと降りたウェイクは大剣を振りかぶり、



「うおおおお!」



 と宝玉へと突き立てた。



 びくん、と一瞬痙攣したゴーレムは、ウェイクを肩に乗せたままよたよたと歩き出す。



「おいおいおい!」



 ゴーレムが突き破った氷の破片を見に受けつつ、ウェイクは必死にしがみつく。やがて広間の中央へと辿り着いたゴーレムは、その右腕を振り上げ床を殴りつけた後、完全に沈黙した。



「なんなんだよ!」



 ゴーレムの背中を器用に降りてきたウェイクが声を荒げる。



「イタチの最後っ屁か?・・・お?」



 ゴーレムが殴りつけた床を見たウェイクが止まる。何事かと一行が集まってくる。



「階段になってるぞ。」



 ゴーレムが殴りつけた床の下には、さらに地下へと続く階段が口を開けていた。



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