神との再会(2)
「これ、扉じゃない?」
イムカの声が反響する。
「行こう。」
イムカの元へ一行が集まる。
「ほらほら!絶対そうよ!」
褒めて、と言わんばかりに瞳を輝かせてアンデルに振り返るイムカ。
「ああ、よく見つけたな。」
ご満悦なイムカをさて置いて、アンデルは壁に触れる。確かにそこには彫刻が刻まれ、扉の様な不自然な切れ込みが入っている。
「エバ、軽く燃やしてみてくれるか?」
エバはこくりと首肯する。三人は少し離れてからエバに合図を送る。
「ファイアーボール。」
エバが放った小さな炎が、一瞬大きく膨らんだかと思うと苔と埃を吹き飛ばす。
「おお、扉だな。」
ウェイクの感想にアンデルは頷く。
「これが開かずの扉だろうな。」
何十年、ともすれば数百年以上も開いた形跡のない扉を前に、アンデルは逡巡する。
「どうやって開けるの?」
イムカが最も至極な疑問を提示する。
「ぬぅぅんっ!・・・ビクともしないぞ。」
ウェイクが我先にと、腕力に物を言わせて押し込んでみた。
「何か仕掛けがあるんだろうか。」
「開錠の魔術とかないわけ?」
「聞いたことがない。」
アンデルが思案する後ろでは、イムカとエバが気楽な会話をしている。
「このレリーフが首飾りの紋様と同じものなのか・・・」
アンデルが壁の彫刻に触れたとき、異変は起こった。
「アル・・・それ・・・」
イムカが指差す先には、アンデルの胸元。そこから光が漏れ出している。
「首飾りが!」
アンデルが首飾りを取り出すと、それは煌々と赤く光っている。その光に共鳴するかのように壁の紋様も光を帯び始める。
「っ!!」
その光が弾け、辺りを眩く照らす。アンデルは腕で目を覆い、光が収まるのを待つ。やがて光が収まると、扉はどういった仕掛けなのか、音もなく天井に吸い込まれていった。
「そっちに開くのかよ・・・」
力一杯押し込んだウェイクが脱力する。
「神に選ばれたものだけが進める道か。」
扉の奥には、通路が続いていた。
「どうする?一旦戻る?」
「いや、行けるところまで行ってみよう。」
イムカの提案を即答で却下したアンデルは通路へと歩を進める。
「おい、罠があるかもしれないぞ!」
ウェイクの声にアンデルは足を止める。確かに誰も踏み入れたことのない古代の遺跡など、警戒するに越したことはない。
「ヒカゲ。」
アンデルの影が瞬く間に立体化する。
「先導を頼めるか?」
「承知。」
闇の住人であるヒカゲにとって、暗がりの中であっても、目に見えない仕掛けがあろうとも、日の下で見るのと差異はない。ヒカゲの先導から少し離れて、光球を浮かべた一行が追従する。
しばらく何事もなくずんずんと奥に歩を進めるヒカゲが突然足を止める。
「どうした?」
追いついたアンデルがヒカゲに声をかける。
「主よ、動くものがいるぞ。」
その言葉に皆の空気が一気に締まった。ウェイクが先頭に躍り出る。
「アンデル、灯りを先行させてくれ。」
ウェイクの言葉に頷いたアンデルは右手を突き出す。光球が手狭な通路を照らし進んで行く。
「また広間になっているな。」
やや先行するウェイクが、目を細める。
「また広間か。」
「さっきよりは狭そうだな。」
ウェイクは躊躇なく広間に足を踏み入れる。
「何もないな。ばかでかい石像があるだけだ。」
ウェイクに続いてアンデルが広間に足を踏み入れると、見上げるほど巨大な石像が目に付いた。
「騎士、か?」
その石像はところどころ欠けているが、甲冑を着た騎士のように見える。武器を手にすることなく、丸腰で仁王立ちしている。
「今にも動き出しそうだな。」
「ふっ、怖いか?」
ウェイクの言葉にからかいの言葉を乗せて返す。
「こんなモンが動いて襲って来たらそりゃ怖いだろ。」
おどけるウェイクと共に広場の中程まで来る。突如ウェイクが叫ぶ。
「跳べ!」
その声にアンデルは振り向きもせず、前方に弾かれたように飛び込む。その直後、アンデルのいた場所に何かが降って来る。それは床板を打ち砕き、破片がアンデルへと降り注ぐ。
「落盤か!?」
受け身を取り、床の破片をかわしたアンデルは振り向く。
「い、いや・・・」
ウェイクの声が震える。アンデルが顔を上げると、先ほどまで鎮座していたはずの石像の拳が床に大きな穴を開けていた。
「お、俺がさっき動きそうなんていったせいか・・・?」
途端にオロオロし始めたウェイクに、石像が再び拳を振り上げる。体を投げ出し、なんとかかわしたウェイクは、幾分か冷静さを取り戻したのか大剣を構える。
「待てウェイク!」
アンデルの制止を聞く前にウェイクは駆け出し、石像の足を薙ぎ払う。まずは一本、と片足の切断を確信したウェイクであったが、現実は無情にも鉄と鉄が打ち合うような鈍い音を立てて大剣が弾かれる。
「なんて硬さだ!」
ウェイクの叫びが広間に木霊した。




