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新星現る(1)

 アンデル達がカロの村に戻ったのは、翌日の朝であった。



「一晩で戻れたのはいい意味で誤算だったな。」



 宿屋に向かう道中、アンデルが言う。



「神様の話じゃ、王女様が今すぐどうこうってわけじゃないんだろ?」



「それでもさ。旅には何があるかわからないもんだろう?」



 ウェイクは肩を竦めてみせた。



「さて、皆はどうしてるかな。」



 アンデル達が宿屋の扉を開けると、昨日は劇団の面々で賑わっていた食堂ががらんどうであった。



「あら?誰もいないじゃない。」



 イムカの疑問を皮切りに、それぞれが顔を見合わせる。



「まだ寝てるのか?」





「お連れさん方は昨晩戻ってないよ。」



 宿屋の受付に行き主人に尋ねてみると、皆は昨晩から戻っていないらしい。



「劇場に泊まったのか?」



 公演が近づくと、大道具の仕込みやリハーサルなんかで泊まり込みになることは珍しい。一行はとりあえず、劇場へ足を運んだ。





「誰も居ないみたいだけど。」



「こっちも。」



 そう広くない劇場を手分けして探したアンデル達だったが、劇団員の一人として見つけることは叶わなかった。



「・・・何かあったのか?」



 一抹の不安を覚えるアンデル。



「ヒカゲ。」



「ここに。」



 アンデルの呼びかけに影からヒカゲが現れる。



「街全域を捜すぞ。」



 一行は頷き、散らばって行った。






 ーー嫌な予感がする。アンデルは焦っていた。



「俺が旅に連れ出したばっかりに・・・皆無事でいてくれよ。」



 市場を通り抜けたアンデルの背後から声がかかる。



「主よ、発見した。」



「どこだ!」



 声の主はヒカゲであった。アンデルは焦りも隠さず問う。ヒカゲは答えず走り出した。その走りはあくまでもアンデルが追いつける速さまで抑えていた。






「皆無事か!」



 ヒカゲの足が止まったのは一軒の酒場であった。アンデルは扉を確認すると、飛び込んだ。そこには紛れもない劇団の面々と、見知らぬ男達が倒れていた。



「タニヤ!」



 アンデルは自分の留守を任せたタニヤの姿を見つけると、駆け寄る。



「うう・・・団長・・・」



「どうした!何があった!」



 虫の息のタニヤをアンデルは抱き起こす。



「き・・・」



「なんだ!?怪我しているのか!?」



「気持ち悪い・・・」



 それだけ言うとタニヤは外へ駆け出して行った。アンデルが辺りを見回すと、大量の酒瓶と鼻を摘みたくなるほどの酒の匂いが充満していた。







「いやー面目無いっす!」



 半日たってようやく顔色の戻ったタニヤは、あっけらかんとしている。



「・・・何があったんだ?」



 呆れ顔でアンデルは尋ねる。ウェイク達と合流したアンデルは、酔いつぶれていた劇団員達を宿屋まで運ぶのに奔走した。誰一人危害を加えられたこともなく、結局はアンデルの早とちりであった。



「いやー、手の空いた元冒険者の皆さんに冒険者ギルドの仕事を受けてもらったっすけどね?なんかたまたまフォレストウルフの群れを討伐しちゃったらしいっす。そしたら商人の皆さんが是非お礼をとの事で・・・」



 顛末を聞いたアンデルはこめかみを押さえた。フォレストウルフと言えば、群れをなして狩りをする魔獣である。このカロの街でも、街道を通る商隊の脅威となっていたのであろう。



「それで二日酔いになるまで酒をご馳走になったってわけか。」



「こんなに早く団長が戻るとは思わなかったんで、言伝もしてなかったっす。」



 ばつが悪そうに笑うタニヤに、いいなぁと羨ましげなウェイク。



「いや、何もなかったならいい。明日には出発できそうか?」



「もちろんっす!」



 そうか、と席を外すアンデル。全くの杞憂であった事に安堵しつつも、無駄な心配をした怒りを持て余していた。



「疲れてたんだな。寝よう。」



 部屋に戻ってベットに潜り込んだアンデルは翌日まで顔を出さなかった。夜中にアンデルの部屋の前を通った劇団員の一人が、



「何が嫌な予感がするだよ恥ずかしい!」



 と言う叫び声を聞いたのは、空耳だったのであろうか。





 ーー翌日、マクスウェル劇団一行はカロの街を後にし、コトック村へと向かっていた。



「いやーまたしても盛大に見送られたっすね。」



 アンデルの操る馬車に、馬を横付けしたタニヤが話しかけてくる。



「宿代まで肩代わりしてもらえて助かったな。」



 結局商人達は酒代のみならず、宿代まで支払ってくれたのであった。



「フォレストウルフの群れを排除できたのは、我々にとっても益があったっすけどね。」



 今一行が通っている街道がまさにフォレストウルフの狩場だったのであろう。



「ああ、この人数で魔獣に襲われたら迎撃も一苦労だからな。」



 劇団の大半は非戦闘員である。いくら争いごとに慣れた元冒険者達とは言え、守りながらの戦闘は気を回すことが多い。




「おそらく直に件のフォレストウルフの縄張りも終わるだろうな。やはり我々が先行して道中の安全を確保してくる。」



「うっす!こっちは任せるっす!」



 タニヤの返事を確認して、アンデルは馬に鞭をいれ、旅団を離れた。








「よっしこんなもんかな。」



 ウェイクが大剣を振って血のりを飛ばす。その足元には猿の魔獣の死体が積み重なっていた。



「森の奥にも進んでみる?」



 双剣を鞘にしまいながら、イムカがアンデルに問い掛ける。その足元にはやはり魔獣の死体が転がっていた。



「そうだな、少し見てみよう。」



 アンデルの提案に頷いた一行が、森の奥へと足を向けたその時、



「下がれっ!」



 ウェイクが声を上げた。その声を聞き飛び退ったアンデルの足元に、矢が刺さる。そして、頭上より声が降ってくる。



「フォレストの奥へはインするな。」




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