翳った村(2)
三日後のケープ村にて。トンテンカン、と金槌の音が響く。
「大道具の方は順調だな。」
「そりゃ到着するやいなや作業を始めましたからね。」
金槌を振る男は不満げに言う。
「まあそう腐るな。無事に終わったら酒でも振る舞おう。」
アンデルの言質にそこかしこから歓喜の声が上がる。
「エバ、どうだ?」
「希望通りのはず。」
エバは羊皮紙の束を差し出す。アンデルはそれを受け取ると、さっと目を通す。
「うん、いい出来だ。」
満足気に頷き、その束をタニヤに渡す。
「ひゃー!覚えるのに苦労しそうっすね!」
「一晩で頼むぞ。」
タニヤはむむむ、と眉間にしわを寄せると台本とにらめっこを始めた。
と、そこにウェイクとイムカが姿を見せる。
「こっちは準備いいわよ。」
イムカの声色からは三日前の怒気は感じられない。アンデルの企みを聞いてから、すっかりご機嫌である。とは言え、アンデルの話に耳を傾けさせるためには、ウェイクの陰ならぬ努力があったのだが。
「それが今回の台本?ちょっとエバ気合い入れすぎじゃないの!?」
タニヤの持つ台本の厚さに尻込みするイムカに対し、エバはいつものごとく、
「手を抜くことはない。」
と冷静沈着である。
「まあ一晩あればなんとかなるだろ。」
と言うウェイクに、イムカが噛み付く。
「一晩じゃ無理よこんな量!あーもうなんであんたはその見た目で記憶力がいいのよ!」
きゃんきゃん喚くイムカにウェイクは肩を竦めて返す。
「あーもう覚えればいいんでしょ!」
散々喚き散らし、勝手に納得したイムカに対し、アンデルとウェイクは目を合わせ苦笑する。
「台本は一夜漬けでなんとかしてもらうとして、先にやる事やってしまおうか。」
何気ない事のように告げたアンデルに、イムカ、ウェイク、エバはそれぞれ口元を引き締め頷く。
「どうかお気をつけて。」
タニヤに見送られ、四人は村の入り口へ向かう。
「準備はできてるぜ団長。」
村の入り口には樽を背負った元冒険者の劇団員達が待っていた。
「よし、行くぞ。」
「おい、あんたらどこ行くんだ?」
村から出る一行に、自警団から声がかかる。
「村の入り口でなんかやってると思ったら、ぞろぞろと出て行くみたいだが。」
「いえ、少し舞台の準備に。」
「そうか、くれぐれも畑には近付くなよ。死んでも知らんぞ。」
アンデルは自警団ににっこりと微笑むと、右手を挙げ答えた。
ぐるりと村を回って、一行は畑に続く道で立ち止まった。
「わあ、綺麗!」
一面に広がるヒマワリと菜の花。目の前には黄色い絨毯が敷き詰められていた。
「これらの種を搾って油を作るんだな。実際目の前にすると壮観だな。」
皆一様に感嘆の声をもらす。
「・・・いるな。」
一行が見惚れている花々が織り成す絨毯の中に、羽音を唸らせながら飛び回る、人の頭部よりも大きい蜂が見え隠れする。
すっ、と雰囲気を変えたアンデルが一行に声をかける。
「いいか!俺たちは演劇につかう小道具として、ヒマワリを借りに来た!しかし魔獣が飛び交うこの場所では安全な採取が見込めない!致し方なくキラービーを追い払おうと思う!その過程で巣を潰してしまうかもしれないな!だが、これはあくまでも自衛行為であり、冒険者ギルドの権限を越権する行為ではない!」
アンデルの宣言に皆口元を歪める。それはもはや獲物を見つけた獰猛な獣である。
「一番乗りィ!」
双剣を両手に携えたイムカが飛び出す。
「おいずりぃぞ!」
ウェイクが慌てて後を追う。劇団員達もロングソードやダガーなどの獲物を手に駆け出す。
「サンダーボルト。」
駆け出したイムカ達の頭上を稲光が走り、畑の上空で弾けた。光と共に、音が衝撃破となり、ヒマワリを揺らす。キラービー達が一瞬制空権を失いかけ、体が傾く。
「ああ私が一番乗りだったのに!」
イムカの恨み言が飛んでくるが、張本人のエバは短槍をぐるりと回すと、構えた。
「来る。」
エバが短く告げると共に、キラービー達が一斉に飛び上がった。
「殲滅するぞ!」




