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翳った村(3)

 キラービーとの死闘が始まってから、かれこれ半刻ほどが経った。美しいヒマワリの海の中に、剣戟と怒声の音が入り乱れる。



「ウェイク!後ろ来てるぞ!」



 ウェイクはその声を聞いて、振り向きざまに大剣を薙ぎ払う。その鈍重そうな見た目の大剣を軽々と振り回すウェイクはキラービーを一刀両断に伏せる。ウェイク達の一方的な蹂躙が繰り広げられていた。彼らは危なげなく次々とキラービーを屠って行く。


 中でも圧巻なのがイムカであった。彼女の双剣は一撃の重さこそウェイクに遥かに劣るが、その取り回しの良さは他の追随を許さず手数の多さこそが彼女の武器である。



「はい次!」



 まるで舞うかの如く彼女が回転すると、羽を切り裂かれ地を這うキラービーの山がうず高く積み上がって行く。



「魔術、行くぞ!」



 アンデルの掛け声に合わせて皆が飛びすさる。



「ダイヤモンドダスト。」



「フレイムウォール!」



 エバが氷の霧を生み出せば、畑の境界に沿ってアンデルが炎の壁を呼び出す。



「あの壁の内側までだぞ。」



 こくりと頷いたエバが短槍を掲げると、霧状の氷はやがて、氷の粒と変わる。



「飛び回れない蜂ちゃん達はおねんねしなさい!」



 浮遊する氷の粒に、思うように飛べないキラービー達は次々と討ち取られて行く。



「よし、仕上げだな。」



 アンデルが終わりを予感したその時、一匹のキラービーがアンデル目掛けて飛び出して来た。



「アンデル行ったぞ!」



 ウェイクの掛け声が飛んだ時には、既にキラービーは尻部の針の狙いをアンデルに定め、顎をカチカチ鳴らし威嚇していた。


 迎え撃つ丸腰のアンデル。キラービーがアンデルの首に針を突き刺すその刹那、



「ヒカゲ!」



 アンデルの影からヒカゲが飛び出し、キラービーを捕らえた。



「スリープ。」



 すかさずエバから睡眠誘導の魔術が放たれ、キラービーは活動を停止した。



「各自トドメを刺して戻れ!」



 ウェイク達が地を這うキラービー達の息の根を止めて回る間、アンデルは寝ているキラービーの脚を掴む。そして、赤い帯広の布をくくりつけた。



「こっちは終わったわよアル。」



「よし、いったん身を隠すぞ。」



 後処理を終えたイムカ達を連れ、近くの茂みに身を隠す。



「どうするの?」



「仲間を失ったキラービーは必ず巣に戻るはずだ。そこを叩く。」



 イムカの方を見ずに答えたアンデルは、続けざまに魔術を唱える。



「サンダーボルト!」



 アンデルから放たれた電撃を浴びたキラービーは、ややあって羽ばたきはじめ、ふらふらと飛び上がった。一通り辺りを飛び回ると畑を大きく迂回して森の中へ消える。




「ヒカゲ、見失うなよ。」



「承知。」



 ヒカゲが音もなく森の中へ飛び込んで行く。



「よし、行こう。」



 間を置いてアンデル達も立ちあがった。




 キラービーとヒカゲが消えた森の中をしばらく進むと、消えた時と同じく音もなくヒカゲが現れる。



「見つけたか?」



「この先の岩肌に。」



 ヒカゲの報告を聞いた一行は歩みを早める。やがて森が終わり視界が開ける。



「あれだな。」



 目の前にそびえ立つ崖に、ぽっかりと洞穴が口を開けている。その穴は入り口を土塊のようなもので補強してあった。キラービーの巣であると確信したアンデルは、懐からおもむろに布に包まれた植物の枝を取り出す。



「俺がこれを投げ入れたらすぐに入り口を閉じろ。煙は吸うなよ。」



 樽を持った劇団員達が頷き返す。それを確認したアンデルは、火打石で枝に火をつけると、洞穴に向かって駆け出した。瞬く間に燃え上がり、もうもうと煙を吐き出す枝を洞穴に投げ入れると、アンデルは叫ぶ。



「やれ!」



 立て続けに樽の中身がぶちまけられる。それは水を加えて練り混ぜられた、粘土質の泥であった。アンデルの指示で、村の入り口で仕込ませていたのである。



「ウインドストーム!」



 隙間なく泥が詰められたのを確認したアンデルは、風の魔術を起こす。見る見るうちに乾いて行く粘土は、やがて一枚の岩の板となった。



「よし、他に出入り口がないか手分けして探してくれ。」



 アンデルの指示を受け一行は散開する。やがて一人、また一人とアンデルの元へ戻り他の出入り口はないことを報告する。



「後は待つだけだな。」



 ほどなくして、内側から岩を叩く音がする。キラービー達が出口を求めて体当たりしているのであろう。



「ふうん、燻したのね。」



 納得するイムカにアンデルは頷き返す。



「ああ、キョウチクトウの生木だ。効くぞこれは。」





 やがて日が暮れる頃になって、洞穴は静かになった。



「終わったかな。」



 アンデルは立ち上がるとウェイクを呼ぶ。



「中の様子を見てみよう。煙は吸うなよ。」



 頷いたウェイクは大剣を振り上げると、岩盤に叩きつけた。キラービーの体当たりでもビクともしなかった岩の板にヒビが入る。二度、三度と大剣を叩きつけると、岩が崩れ落ち始める。皆が飛びすさると、煙と共に夥しいまでのキラービーの死骸がなだれ出してきた。



「うわぁ・・・気持ち悪い・・・」



 その光景にイムカが顔を引きつらせていると、奥から巨大なキラービーが這い出てきた。



「なんて生命力だ・・・」



 アンデルは苦虫を噛み潰した表情で呟く。



「女王蜂みたいだが、瀕死だな。」



 もはや飛び上がることもできないキラービーの女王を前に、ウェイクが目配せを送ってくる。



「討伐証明の針は確保しておくか。」



 アンデルがそう言うと、ウェイクは大剣をキラービーの女王の首へと落とした。



「さあ、ヒマワリを採取して本読みと行こうか。」



「ああ折角忘れてたのに!」



 イムカの悲鳴が夕暮れの森に響き渡った。






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