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第十二話 劇場と宝探し

「起きろよみんな!今日は劇場跡に出発だ!」

牛乳配達から帰ってきたジャックが子供達を起こして回る。

「なんだよお前、帰ってきたんだからちょっと寝なくていいのか?」

コールが眠そうにまぶたをこすりながらそう言った

「だって楽しみじゃん!それにもうアレクは準備してるぞ!起きろよコール」

見るとアレクはリュックに荷物を詰めている。

他の子供たちも浮き足だって、朝からバタバタと準備をしているようだ。

「そんなに焦らなくても、今日は俺たち一日だろ」

今日はアレクとコールの仕事は休みの日だった。

昼までに帰ってこなくても別に構わないのだ。

「何言ってるの!ご飯食べてないのコールだけよ!ほらほら早くして」

ダリアがそう言って急かす。

コールは起き上がるとテーブルについた、ボーっと、パンをかじる。


「……みんな楽しそうだな。」

俺だって別に反対なわけじゃない。

だけど、サーカスって実際には何をやるつもりなんだ?

それにお客さんは? 一体どこでやるつもりなんだ。

見てくれる人はいるのか?

そもそも見てくれたところでお金を払ってくれるのか?

アレクはどう考えているんだろう。

あいつはあれでも考えなしなようで、ちゃんと考え行動はしている。頭で考えるより行動といったタイプだけど。

コールはお皿を下げた。


「もうみんなコールのこと待ってたんだから!行こう!」

ピィがキラキラとした笑顔でそう言った。

「みんな行くぞ!」

アレクがランプを片手にそう言った。

「おー!」

子供達は玄関を飛び出し階段を上がっていった。

この間行ったように五階の吊り橋からビルからビルへと移って行き中央区を目指す。

ビルからビルへ最短距離を移動しても、5キロから6キロぐらいはあるだろうか。

移動だけでもかなりの時間を要する。


 劇場の扉を開け再び中のホールへと入っていく。

今日はデイジーもランプを持ってやってきた。

「……すごいね!私劇場跡に来るの初めて!」

「うん、すごいよね!僕もこの間初めて来て見てびっくりしたよ」

クリスがニコニコ笑いながらそう言う。

「でもね、楽屋裏はもっとすごかったんだ!宝物がいっぱいあったんだよ」

「宝物?」

「うん、実際に見てみればわかると思う」

二人はアレクやコールたちが先に舞台に上がっていくのを見ながら話していた。

「クリス、デイジー早く!」

ピィが二人に向かって手を振る。

「おーい、早くこっちに来いよ!」

アレクの声が聞こえた。


「わあぁ、すごい!」

扉の向こうの光景にデイジーは歓声を上げた。

「でしょー!」

後ろで得意顔のクリス。

そこには当時の役者が使っていたドレッシングルームが広がっていた。華やかな雰囲気を伝えてくれる。

ランプに照らされ浮かび上がる光景に彼女もまた目を輝かせていた。

「デイジー見てみて!こっちにドレスがいっぱいあるんだよー」

ピィがはしゃいで言う。

それは埃をかぶって汚れてはいたがきらびやかな舞台衣装がハンガーにたくさんかけてあったのだ。


「なあみんな、昨日持って帰ってきたお芝居の台本を読んでいたんだ。やっぱりみんなでサーカスをするならメインの出し物は昨日話してたみたいに、お芝居がいいと思う。ここなら お芝居の道具や衣装がいっぱいあるし必要なものを決めて持って帰ろう」

とアレク が言った。

「さんせいー!」

ピィが手をあげる。

「アレクー、もしかして何のお芝居するのか、もう考えてたりするの?」

ダリアが振り返ってそう言った。

「そうだな……ロミオとジュリエットなんていいんじゃないかな って思っている。みんな知ってるだろ?やっぱり初めは、みんな知ってるみたいな有名な話の方がいいと思うんだ。もしサーカスがうまくいって2回目も3回目もできるようになったら、俺たちが考えた芝居の話をすればいいと思うけど、初めてやるんだったら誰もが知ってるやつの方がいいんじゃないか」

「うーん、確かにその通りね!」

彼女は 頬に手を当てて考え込んだような表情を浮かべる。

「ロミオとジュリエットってお姫様出る?」

「ああ、出るよ」

アレクの代わりにアルが答える。

「やったー!」

ピィはぴょんぴょんと跳ねた。

「なぁ、こっちのサーベルとかも使えるよな!」

とジャック。

「ああ、振り回すシーンはねえけどな」

とコールが皮肉っぽく答えた。

「でも残念ねー!せっかくこの海賊の帽子かぶりたかったのに!」

とダリア。

「じゃあ 設定をカリブの海賊の時代のロミオとジュリエットにするか!そうしたらサーベルも使えるぞ!」

とアレクがいたずらっぽい笑顔を浮かべる。

「何それ、面白そう!」

デイジーが笑った。

「じゃあ僕はこの間、持って帰ったピエロの帽子をかぶりたいよ。なんとかなるかなアレク」

「もちろん!脚本を考える」

アレク がそう言うと、アルはニコニコと笑う。

「じゃあ みんなで必要な衣装を集めて持って帰ろう」

アレクはそう言うと、ハンガーにかかっていた衣装のうち使えそうなものを外した。

デイジーがそれを受け取ってチェックしている。

「ねえねえアレクこっちはどうかな」

「いいんじゃないか?いくつか多めに持って帰って家で使えそうかどうか考えてみよう」②

子供達は自分が使いたいと思った道具をそれぞれのリュックに入れていく。

もちろんそれらはサイズがぶかぶかで汚れて破れているため、家に帰って修理をしたり縫い直してサイズ調整をしなくてはならないわけだが。

クリスはこの間見つけた、動物の耳のカチューシャや猫の顔のヴェネチアンマスクなどをリュックに直していた。

リュックはあっという間に膨らんでいく。


「お洋服いっぱいあるね。でもこんなに持って行っても大丈夫かな ?

「うん、この間この辺りに住んでいるおじさんにアレクが話していたから、きっと大丈夫だよ」

「そっか、じゃあ大丈夫ね」

クリスとデイジーは話していた。


「なあなあ、こっちのドアこの間は開けてなかったから行こうぜ!」

ジャックが舞台袖の方とは違うドアを指さす。

以前来た時は他のところまでは探索できなかったが、今日ならば時間があるから大丈夫だ。

ドアノブをガチャ」ガチャと回す。

「開かねぇーよ!

「錆びついてるんじゃないか?鍵は?」

「鍵穴はないし、錆びてるだけだと思うよ」

ジャックとエース、アルが扉の前で騒いでいる。


ギィィー!


 扉は軋んだ音を立てて開いた。

ドアノブを握っていたジャックがバランスを崩して尻餅をつく。

「痛っってえ!」

「ねえアレク、ランプ 貸して」

アルがそう言った。

ランプを頼りにアルとエースはは中に入ってゆく。

「埃っぽいね」

「そりゃ百年も使われてなかったんだから、当然だろ」

「木箱がいっぱい!なんだろう」

「おい待てよ、二人とも!」

ジャックが二人を追いかける。


 アルは木箱の蓋をそっと外した。

フェイクの王冠、舞台用のビジューのいっぱいついた布の靴。

中にはドレッシングルームにあったような、舞台の小物が出てくる。

「ここってもしかして倉庫なのかな?」

「多分ね!何かすごいお宝があるかも」

そう言って ダリアも中に入ってゆく。

「とりあえず木箱いくつか出して中見てみようよ」

アルはそう言って箱を外にいるコールに渡した。

ジャックとエースも次々に渡してゆく。

10個ばかり出したところで、

「ちょっとみんな、あまり出しすぎちゃうと床がいっぱいになっちゃう」

デイジーがストップをかける。


「まだまだいっぱいあるな!」

とエース。

「こっちにサーベルがいっぱい刺してある!」

傘立てのような箱に模造品のサーベルが10本以上ある。

ジャックは箱を引きずって倉庫から出てきた。

「すごいなこれだけあったらみんなで、騎士モノの演劇とかもできそうだ」

エースが感心したようにそう言った。

「俺は騎士ジャック様だー!」

ジャックはサーベルを1本手にとってそう言った。

「ならば俺は魔王だ!」

エースも片手にサーベルを持つ。

「はいはい!2人とも後にして!それよりも先にこの箱の中身を見てみようよ!」


ダリアがそう言って箱の蓋を1つ開けた。

中には深い群青の大きな見るからに丈夫そうな布が入っている。

ピィは布を引っ張り出した。

「これすごく大きいよ!何の布だろう?」

布には金色の星が縫い付けられてついている。

「夜空の背景かな」

アルがそう言った。

下からさらに別の風景の描かれた大きな布が入っている。

そこには大きなお城の絵。

さらにその下からは舞台幕と同じ色の大きなベルベットの布。

「……多分これは天幕だな。お芝居の背景とかに使われてたやつだと思う。後は予備の舞台幕かな」

アレクがそう言う。

すごく大きいね!

「舞台の背景に使うからな。そうだこれ支柱を立てて骨組みにしたら、その上にテントとして使えるんじゃないか?」

「これをテントにするの?」

「これだけ大きかったら、支柱を立てて上にかぶせるだけでも立派なテントになると思う」

アレクはベルベットの布を広げながらそういった。

「こっちの夜の背景の布もいいわね」

デイジーがそう言う。

「キラキラのお星様ついてて、きれい!クリスマスのお星様みたい!」

「本当に、これを使ってテントを作ったら素敵なんじゃないかしら」

デイジーが微笑んだ。

「そうだなこっちもテントになりそうだ!出し物によって違うテントを用意してるのもいいかも」

アレクも少し興奮したようにそう話す。

「じゃあこれをちょっとだけ縫い合わせてテントにしましょうよ。私、頑張ってみるわ!」

デイジーはそう言って自分のリュックを開ける。

「一枚俺の方にも入れるよ」

アレクはそう言って自分のリュックを開けた。

「入りそうにないんだけど」

デイジーが少しおかしそうに笑った。

「持って帰りたいものが多いんだよ」

アレクは苦笑いする。

「僕のリュックまだ入るよ」

そう言ってクリスもリュックを開けた。

「じゃあ一枚お願いしようかな、でもとっても重たいよ、クリス 大丈夫?」

「大丈夫だよ!僕だってこれぐらい持てるもん」

クリスはちょっとムキになった表情でそういった。

「他のも開けてみようぜ!」

ジャックがそう言う。


 次の箱を開けた。

そこには複数のラッパが入っていた。

「これ知ってる!クラリネットっていうやつでしょ!」

「違うよこれはトランペット!」

「どっちでもいいけどこれって使えるの?」

子供達は興味津々で箱の中を覗く。

ジャックはその中の1つを取り出した。

思いっきり息を吸い込んで、力いっぱい吐く。


「ぶぉぉぉおぉおーーっ、ゴホッゴホッ!」


ちょっと大丈夫?

ダリアが眉間にしわを寄せてそう聞いた。

「ぁああ、埃吸い込んだ!」

「当たり前じゃないの!何年使われてないと思ってるのよ!」

「でも結構いい音だな!」

ジャックはニヤッと笑う。

「よしこれも持って帰ろう!」そう言って リュックの中に無理やり詰め込もうとする。

「ちょっともう入りきらないんじゃないの?」

ダリアは呆れ顔である。


「ねえねえこっちの箱も開けようよ!」

クリスとピィは他の箱も開けてゆく。

クリスマスのベルのようなカラフルなベルが入った箱。

トライアングルにカスタネットなんかが入った箱。

大きなシンバルが入った箱。

小さな太鼓が入った箱。

それに一番初めに見つけた時に開けた、王冠や靴が入った箱。

箱の中身は色々なものが出てくる。


「ねえ、このベル持って帰ってもいいかな!」

とクリスが聞く。

「みんなで演奏したらきっと楽しいよね」

とピィ。

「ねえコールは何か持って帰らないの?」

とデイジーが聞く。

「んー……そうだな」

コールはしばらく考えていた。

それからシンバルを一つ持った。

「演劇の場面が切り替わるところでこれを叩いたらいいかもな!」

「それ結構いいな」

アレクがすかさずそう言った。

「でもはっきり言って演奏は俺たち誰にも習ったことがないんだし、しようと思ってもできないんじゃないのか?」


 「それは確かにもっともな考え方だ。だが自分たちで100%演奏しなくてもほんの少し、楽器を使えたらきっと楽しいに違いない」


「いいよ、音楽はラジオを持っていけばいいんだから。でもお前さっき言っただろ?画面が切り替わるところでこれを叩いたらいいって。舞台が始まる前にちょっとだけラッパの音を鳴らしたり終わる時にみんなで歌って、ちょっとだけベルを鳴らしたりしたら楽しいんじゃないか?」

「……まあそれもそうだな」

コールは少しだけ笑った。


 みんなでこんな風に考えて色々やるのはきっと悪いことじゃない。うまくいくか行かないかは分からないけど…

笑顔で楽しそうにしているピィやクリスたち。

みんなが楽しんでいるのに俺だけ難しい顔をしているのは、あまりいいことじゃない。きっとなんとかなるだろう。


「ちょっとジャック!まさかそのサーベル全部持って帰ろうと思ってるの?」

サーベルを束ねて持ってきたロープでくくろうとしているジャックにダリアは呆れ顔でそう言った。

「なんだよ!いいじゃん!それにお芝居で騎士モノするかもしれないし!」

「とりあえず、お芝居の台本はロミオとジュリエットにするってさっき言ってただろ」

アレクもあきれ顔でそう言う。

「行っとくが俺は絶対に、重くても持って帰るの手伝ってやらないからな」

「そんなー!エースまで!」


その様子を見てコールは少し呆れて笑った。


残りの三箱には舞台の森の風景の天幕や背景用の月や星や太陽の作り物などが入っていた。

「とりあえずお前ら、木箱を片付けるぞ!」

アレクはそう言って、倉庫の中に入っていく。ふとその時に倉庫の奥に何かの機械があることに気がついた。布をはぐって見てみると、どこかで見たことがある機械が置いてある。

……だが果たして何の機械なのかがよくわからない。


「アレクどうしたの?」

ピィがやってきて後ろから覗き込む。

「これ、なんだかわかるか」

アレクはピィの方を見た。

「あー、ピィ知ってる!昨日アニメで見たよ」

ピィは目を輝かせた。

「アニメ?」

「うん、アニメでね。コットンキャンディを作る機械にそっくりだよ!」

「コットンキャンディ?」

「うん、うさぎさんが食べてた」

確かにここは劇場だ。コットンキャンディが作る機械があってもおかしくない。

だが……


「ねえこの機械動くかな、コットンキャンディー食べれる?」

「うーん、それは難しいんじゃないか。なにせ百年も前の機械だ。それに これを持って帰るのは重すぎて無理だし……」

「そっか、残念だね」

ピィはしょぼんとしていた。


「とりあえずみんな箱をなおすぞ!」

必要なものだけ取り出した箱をみんなでなおしてゆく。

片付け終わると、倉庫の扉を閉めた。


 百年前の大切な道具や衣装。

それを持って俺たちは新しいサーカスを始めるんだ!

パンパンに膨らんだみんなのリュック。そこにはこれから始めるサーカスに必要なものが詰まっている。

アレクの胸には決意と希望が生まれていた。

いつの日か、大昔この劇場で行われたような人々を笑わせる演劇を。

天幕をテントにして俺たちはここから始めるんだ。


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