第十一話 サーカスを始めよう!
「サーカスって……お前何言ってるんだよ?」
コールが眉間にシワを寄せた表情でそう言った。
「だってバイクだったらかなり重たいものでも運べるだろ?それに荷物を運んだり買い物で使ったりしても毎日使うわけじゃない。だからみんなで移動サーカスをやらないか?土曜日か日曜日に 週に一日でいいんだ。バイクで荷物を運んで、みんなで、たくさん人が見ているところでサーカスをするんだ。お客さんから見物料をもらって、そうしたら生活費の足しにもなるだろ」
「……お前なぁ。何、寝ぼけたこと言ってるんだよ。サーカスって……クラシック映画の見過ぎなんじゃないか」
コールは難しい顔をしている。
「いいじゃん、面白そう!」
ジャックがすかさず言った。
「賛成!絶対に楽しいよ。僕やりたい」
「アルまで……」
「面白そうだな。俺も賛成!」
エースが頷いてそう言う。
「ピィも!ピィもやりたい!」
隣で手を挙げているピィ。
「……ボクも」
クリスも手を挙げる。
他の子供たちも 一斉に手をあげた。
「はぁ!?なんだよお前ら全員賛成かよ!」
「いいじゃない、なんだかとっても楽しそう」
笑顔で デイジーがそう言った。
「あんただけみたいね!反対なの」
ダリアはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「なあオスカー先生、このバイクだったらどれぐらいの重さまで運べるかな?台車に舞台の荷物を積み込んで運べるかな。そんなに大きくなくていいんだ。みんなでテントを運んで現地で組み立てて、小さいテントでいいんだよ。雰囲気が出れば!」
オスカーは腕を組んで 少し考えた様子だった。
「いいんじゃないか? とは言ってもせいぜい数十kgまでだ。百キロを超えたようなものは運べないからな。それとサーカスをやるのならば休日の公園などの方がいいだろう。人通りが多いところならば、おかしな輩に誘拐されることもないだろう」
「オスカーまで!」
コールは若干、膨れ面をする。
「いいよ!わかったよ!俺も参加する!」
そうコールが言った瞬間に他の子供たちは歓声をあげた。
「やっぱりそうこなくっちゃ!」
「絶対に楽しいよ!」
「頑張ろうぜ!」
子供達は口々にそう言った。
「俺たち全員揃わなきゃ始まらないだろ!」
アレクは満面の笑みを浮かべる。
「……仕方ねえなぁ!」
コールは腕組みをしてバイクの方を見た。
移動サーカスはともかく、このバイクで俺たちの生活はきっと変わっていくだろう。何かをもたらしてくれるに違いない。
それを俺たちは修理したんだ。
オスカーが教えてくれたから。俺たちはここから何かを変えていけるかもしれない。
そうして他の子供たちの方を見た。
案外移動、サーカスも悪くないかもしれない。
アレクはすぐ夢みたいなことばかり言いたがるけど……
屈託ないアレクたちの笑顔を見てコールもまたほんの少し口元が上がった。
こいつのこういう顔、嫌いじゃねえんだよな。
彼はそっとバイクの座席を撫でた。
これから始まる未来にほんの少しの希望を持ちながら。
「みんな、お昼ご飯よ!」
アイリスの声が聞こえた。
「はーい!」
子供達は次々と家の中に入って行った。
最後に残ったコールがバイクを見つめる。
「先生もお昼ご飯あるから食べて行って!」
大勢の食卓は楽しい。子供達は食事を取りながらバイクやサーカスの話を始める。
「ねえねえアレク。サーカスてどういうことをしているの?ピィ絵本とアニメでしか知らないよ」
「絵本とアニメで載っているぐらいのことでいいんだよ!俺だって詳しくは知らない!だから俺たちのサーカスをやろうぜ」
「僕はねー、ピエロの帽子持って帰ってきたからかぶって出たいよ」
とアルがニコニコ笑って話す。
「俺一輪車持ってきたからあれに乗りたい!」
とジャック。
「まあその前にだいぶ練習した方がいいんじゃないか?それに一輪車に乗ってるだけだったら見ている方はつまらないだろ。一輪車に乗りながら呼び込みするとか、」
とすかさずエースが言う。
「いいじゃんそれ!する!」
「ちょっとジャック。しゃべりながら食べてるからパンくずこぼしまくりじゃないの!お行儀悪いからやめてよね」
とダリアが言う。
「ところでお前メインの出し物とかちゃんと考えてるのか?」
コールがアレクの方を見ながら言った。
「もちろん!俺たちのサーカスでいいと思うんだ。それになかなか サーカスの芸を覚えようと思っても難しいと思うし、分かりやすくお芝居をしてみようかなと思う。旧劇場跡でお芝居の台本見つけたからな!もうちょっと分かりやすく台本を直してみんなでお芝居しないか?」
「……お芝居か。うーん、いいんじゃないか?」
コールは天井を見上げた。
「いいじゃんお芝居!楽しそう!」
ダリアが目を輝かせてアレクの方を見た。
「ピィお姫様の役やりたい」
「お前セリフ覚えられないだろ? まだ文字も読めないんだから!」
コールが呆れたように言う。
「ピィ頑張るもん!」
彼女はすねた表情でそう言った。
「ピィは歌が上手いから、歌ったらいいんじゃないかしら」
デイジーがそう言う。
それは素敵!みんなで合唱しましょうよ!
ダリアが嬉しそうにそう言った。
「あー、俺はパス。歌うのはちょっと苦手だ」
コールがそう言った。
「じゃあお前、楽器演奏な!」
アレクはいたずらっぽい表情を浮かべた。
「はぁ!?」
「だってそうだろ!1人だけ歌わないのおかしいじゃん!劇場跡に行ったら多分何か楽器とかもあるかもしれないから探して演奏しろよ!」
「無茶言うなよアレク……」
コールが頭を抱えてしまった。
「まあでも、太鼓とか簡単な楽器もあるかもしれないし。見つけて演奏できそうだったらでいいんじゃないのか」
とエースが言った。
「そうだよ僕も一緒に演奏したい!」
クリスがコールの方を見てそう言う。
「じゃあ俺も演奏の方がいいな。歌うのはちょっとだけ苦手だからな」
エースもそう笑いながら言った。
「……仕方ねえな!お前らがそう言うんだったら付き合ってやるよ」
コールは顔を上げた。
「よーし決まりな!みんなでお芝居して歌うぞ!」
アレクは嬉しそうに言う。
「そうね、せっかくみんなでやるんだから!みんなで考えたサーカスをやりましょう!私、ちょっとぐらいならば縫い物とかもできるから衣装の用意とかするよ」
とデイジー。
「何言ってるの!デイジーも一緒に舞台に立ってよ!」
とダリアがすかさず言った。
「じゃあちょっとだけね」
そう言って彼女は笑う。
「楽しそうねみんな。みんなのお芝居と演奏とても楽しみにしているからね」
アイリスがそう言いながらコップにお茶を汲んで行く。
「ところで昼からの仕事急がないと間に合わなくなるよ、アレク、コール」
「あー、やっべえ!もうこんな時間!コール急ぐぞ!」
「お前がいつまでも喋ってるからだろうアレク!」
二人は急いでパンを飲み込み、お茶を飲み干す。
「行ってきまーす!」
二人は荷物を抱え元気よく玄関から飛び出していった。
昼からの仕事を片付け二人は足早に帰って行く。
「ただいまー!」
家に帰ると子供達はカートゥーンアニメを見ていた。
「おかえり二人とも!」
「あのね、みんなでサーカスが出てくるアニメを見てたの」
ピィがアレクに抱きついてそう言った。
ブラウン管のテレビは少しノイズが入っている。
時代遅れになったブラウン管テレビやビデオデッキ、あるいは ビデオテープなどは以前業者が捨てていったものだった。
まだまだ使えるのに、ブラウン管の放送電波は終了してしまい、役に立たない存在になってしまったのだ。だがビデオを見るには十分すぎる機能を持っていた。
同じように 時代遅れになって捨てられたビデオデッキとダンボールの箱に入って大量に捨てられたビデオテープは子供たちの数少ない楽しみの一つになっていたのだ。
「二人ともおかえり、荷物下ろしてご飯にしましょう」
食卓の上には質素だがたっぷりの量の夕飯が並べられてゆく。
デイジーとダリアとアルがテキパキと準備をしている。
「ちょっとジャックとエースも手伝いなさいよ!」
そう言われてすぐにやってきたエースと、
「えーこれ見終わってから!」
と言ってテレビの前から動かないジャック。
「もう準備、終わっちゃったわよ!」
文句を言うダリア。
今日もまた賑やかな食卓である。
「サーカスって言ったら動物が玉乗りしてるんだよ!象とか!」
子供達は先ほど見ていたアニメの内容で盛り上がっている。
「でも象さんとか動物園じゃないといないよ」
とクリスが言う。
「そうだなー……」
アレクは少し考えた。
「じゃあ動物の格好をして舞台に出てくるっていうのはどうだろう?」
「猫の耳とかお面とか劇場にあったよね!」
クリスは嬉しそうにそう言った。
そうだな、あれを使おう!
「じゃあ僕、動物の格好しちゃおうかな。猫ちゃんのお面があったよ!にゃん!」
猫の真似をするクリス。
「いいね!クリス似合いそう」
デイジーがそう言って微笑んだ。
夕飯の時間は和気あいあいと過ぎてゆく。
「明日の朝からみんなでまた劇場跡に出発だ!必要なものを揃えるぞ!」
とアレクは言った。
その夜、みんなが寝静まってからアレクはランプの明かりの下で劇場跡や旧図書館から借りてきたシェイクスピアの台本を読んでいた。お芝居はなるべく分かりやすいものがいい。
きっとみんなが知っている話の方が共感してくれるはずだ。
マクベス、オセロ、ロミオとジュリエット、ヴェニスの証人、お気に召すまま。
一体どれをメインのお芝居にしよう。
やはり一番わかりやすいのは、きっとロミオとジュリエットだろう。セリフをみんなにも分かりやすくて演技しやすいものに変えて、これをメインのお芝居にしよう。
もちろん、みんながこれでいいって言ったらだけど。
「アレクいい加減、寝ろよ」
コールが起きてきてそう言った。
「わりぃ」
そう言って、パタンと本を閉じる。
「明日みんなで劇場に行くんだろ」
「ああ」
「しょうがねえな、俺も付き合ってやるよ」
そう言ってコールは笑う。
「おやすみコール」
「ああ、おやすみ」
オールドアルケディアの夜は更けていった。
そして明日はいよいよ、劇場跡に宝探しに出発だ。




