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第十話 バイクと夢

「お前らどうしたんだよ!?これ」


 唖然としているアレクとコール。

扉がガチャリ、と開いた。

「おかえりー。アレク、コール!」

ピィが飛び出してくる。

その後に続くように ダリアとクリス、デイジーとアル。


「もう大変だったんだから!昼間に業者が向こう側の橋から河原のあたりにバイクを何台も捨てに来てね」

とダリアが状況を説明する。

「すげえだろ!こんなの絶対に持って帰ってこないと!そんなわけで俺とエースでまず一台運んだんだ!」

興奮気味にジャックが話す。

「大変だったんだから!私とデイジーとアルまで巻き込まれて。みんなで運んだのよ」

ダリアが苦笑いしていた。

「本当に大騒ぎだったね。みんなで押したり引いたりしながら残りの二台も運んだの」

デイジーは笑いながらそう言った。

「でもかっこいいよね!僕びっくりしちゃった!」

アルがそう言う。


「すっげ……これ動くのかよ?」

コールがバイクを撫でながらそう言った。

「さぁ、わかんない。でも何かに使えそうな気がするよ」

とアル。

「オスカーに相談したら直してくれるんじゃね?」

とジャックがいたずらっぽい笑顔で言った。

「あのねぇ、先生だって何でもかんでも持って来られても困るでしょ!」

ダリアが腰に腕を当ててそう言った。

でも先生なら何とかしてくれそう

とアル。

「もう!アルまで……」

ダリアはため息をついた。


「絶対に動くようになるって!」

なぜか自信満々のジャック。

「そうだな、同じ種類のバイクが三種類もあるんだ。どれか一つぐらい使えるだろ。それに使えなくても部品だけでも売れるんじゃないのか?」

エースが冷静にそう言った。


「……かっこいいな」

コールがバイクを撫でる。

その瞳に希望が灯っていた。

「もしこれが動いたら、すごいな。俺たちの生活が変わるんじゃないか?」

アレクがそう言った。


「さあ、みんな中に入って晩御飯よ!アレク、コールおかえり」

アイリスが家の中から出てきてそう言う。


 デイジーは三台のバイクに大きなビニールシートをかけた。

ビニールが飛ばないように軽くロープでくくる。

このスラムにおいて明らかに持ち主が分かっている場合は盗難される可能性は少ない。スラムの住人から住人へとの盗難は実はとても少ない。

持ち主不明のもの、明らかに捨てられているものは好きに持って帰るのだがその辺りは住民同士の暗黙の了解である。

こうやってビニールをかけておけば盗難されることはまずない。


 子供達は家の中に入って行った。

最後に残ったコールはハンドルをそっと撫でた。汚れたメーターのガラスを袖で軽く拭く。数字が少しだけ姿を現した。

「おーい早くしろよ!」

アレクにそう言われ、コールは家の中に入る。


 テーブルの上に持って帰ってきた荷物を広げる。

パン、お砂糖、パスタにビスケット。

アレクはプラスチックのフェイクパールのネックレスをテーブルの上に出した。

「これはピィにだ」

「お前いつの間に、そんなものを……」

「ピィのコサージュを買い取ってもらった時に、金具の部分が壊れてつけたり外したりできなくなっているからって店のおじさんがくれたんだよ。別にいいだろ」

「きれい!ありがとうアレク。見て見てー。ママお姫様みたい!」

パールのネックレスをつけた彼女は、嬉しそうに アイリスのところに走って行ってくるんと回って見せた。

「とっても綺麗よ!ピィ」

アイリスはニコニコと笑っている。

ピィはアイリスからお皿を受け取ると食卓にまたスキップをするように弾んだ足取りで戻ってくる。

「全く、お前は本当にピィには甘いよな」

そう言いながらコールは皮肉っぽく少し笑った。

「はーい、みんな席に座って!」

ダリアがそう言った。

ラジオの音が響く食卓で、子供たちはわいわい言いながら夕飯を食べる。今日という1日に感謝をしながら。


 翌朝、オスカーは子供達に手を引かれて外のバイクのところにやってきた。

「全く、お前たちは私に言えば何でも解決すると思っているのか。私は薬物学者だと言っただろう。バイクは専門外だ」

「なあなあ、そんなこと言わないで見てくれよ、オスカー!すっげーだろ!」

ジャックはそう言いながらオスカーの手を引っ張る。

ロープとビニールをデイジーがほどいていた。

中から姿を現した三台のバイクを前にして、

「やれやれ 」

と言いオスカーはため息をつく。

「ジャック、エース、タンクを持ってガソリンを少しだけ買ってこい。エンジンがかかるかどうかまず見てやる」

「はい!」

「分かった!」

「それからアレク、私の部屋から工具類を持ってこい。本棚にある青色の工具箱だ。それからそのブルーシートはバイクの前に広げろ。ガソリンをほんの少し入れたらエンジンがかかるかどうか見てやる」

「分かった!すぐに行ってくる」

「アル、向こうのビルの五階に住んでいる合鍵屋さんに事情を話してバイクに使える合鍵を借りてこい。バイクの型番はここに書いてあるだろうメモしていけ!」

「うん、分かったよ。合鍵屋さんのところに行ってきます!」

「それからバイクをブルーシートの上に乗せるぞデイジーとダリア、手伝え!クリスとピィは危ないから下がってろ」

「はーい!」

子供達はそれぞれバラバラに走ってゆき、言われた事を始めた。

「ごめんなさい先生、また子供達がお世話になります」

アイリスが扉を開け出てきた。

「……いつものことだろう。あまり動くのは期待できないが、三台とも同じ型番のバイクだ。もしかしたらもしかするかもしれないな」

アイリスは微笑んだ。

「ええ、でももし 動かなくっても、こんな風にみんなで協力して何かやるのって子供たちのためにはとってもいいことよ。それにみんなすごくワクワクしてる」

「まぁ、そうだな……」


「オスカー持ってきた!他に必要なものある?」

一番初めに帰ってきたのはアレクだった。

その後バイクの合鍵を持ってアルが戻ってくる。

最後に息を切らしてガソリンの入った小さめのタンクを抱えたジャックとエースが帰ってくる。

オスカーは燃料タンクに少しずつガソリンを入れてエンジンをかける。

 ブルルル、ルルルル……

エンジンがかかったのは一台だけだった。


「すっげー!動いた!」

「わぁ、本当に動いた!」

「……ああ、すごいな」

子供達はそれぞれ歓声をあげる。

コールはそっとバイクのハンドルに触れた。

「……本当に動くんだ」

憧れが入り混じる。


「ブレーキも大丈夫そうだな。よしこれをメインにパーツを取り替えれば何とかなるだろう。タイヤはそっちのバイクから、一番奥のやつは部品取りだな」

オスカーは一度エンジンを落とす。

「よし、アレク工具を取れ。レンチだ。そっちの一番大きいやつだ。エース、ジャック、車体を支えろ。アルここに機械油をさせてくれ」

オスカーと子供たちは修理を始めた。


日はだんだんと高くなってくる。

子供たちもオスカーも汗だくになってタイヤをはめ替え、ライトを取り替え、バイクを磨き上げる。

先生これ以上閉まらない

「分かった貸してみろ。 こういうのはテコの原理で端の方を思った方が力が入るんだ」

「テコの原理?」

今度どういう仕組みか教えてやる

「先生ねぇ、これでいい ?」

「まぁ、良いだろう。 こっちは問題なさそうだな」


「出来たぞ!」


「やったーー!!」

「すごい!」


 オスカーの手は休む暇もなく動き続け、その横で子供たちは言われるまま工具を渡し、タイヤを支え、必死に車体を磨いた。

やがて完成したバイクを見て、子供達は歓声を上げた。

サビだらけでボロボロのバイクはそれでも必死で子供たちが、磨き上げたので見違えるように輝いていた。


「それじゃあ試運転だ。誰が運転したい?」


「はーい!」

「はい!」

「絶対俺が乗る!」


ジャックとコール、アレクが手を挙げる。

「まあまあ待て待て、お前たちじゃんけんで決めろ」

オスカーがそういうのない子供たちはじゃんけんを始めた。


「じゃんけんぽん!」

「あいこでしょ!」

「あいこでしょ!」


「やったー!勝った!」


コールは拳をつき上げて喜ぶ。

「ちぇ、後で変われよー」

ジャックが拗ねたようにそう言った。


それじゃあ簡単に説明をしていくからしっかり聞くんだぞ

オスカーはバイクの説明を始めた。

真剣に聞く子供たち。

「いいか絶対にスピードを出すんじゃないぞ!それと本当ならば ヘルメットを被らなくてはならないんだからな。今はないが手に入ったら、バイクに乗る時には絶対につけろ」

「うん、分かった!」

コールは拳を握りしめた。

「いいか、向こうの橋のところまで行ったら折り返してすぐに帰ってこい。安全が第一だ!バイクで転べば下手をすれば死んでしまうぞ。絶対にだ」

オスカーは念を押す。


「分かった!」


 コールはバイクにまたがった。

ハンドルをしっかり握りエンジンをふかし、地面を蹴るとバイクは走り出した。

風が脇の下を抜けて行く。

それは初めての経験で、こんなにもスピードを感じたことは彼は生まれて一度もなかった。

目の前の建物があっという間に通り過ぎてゆく。

歩けば15分ほどかかった大きな橋のところまであっという間についてしまった。ブレーキを踏むとバイクの体勢を変え、再び 走り出す。

エンジンの音と振動が体に伝わる。

スピードを感じるのはこんなにも心地が良いのか!

遠く離れてしまった我が家のところまであっという間に戻って行く。


 オスカーが言ったように、彼はスピードを出してはいない。

だが初めて感じるバイクの風は今までにない経験 だったのだ。心臓が高鳴る、汗を風が飛ばしてしまう。

スピード緩め、コールはみんなの前で止まった。


……すげえ!!

興奮で肩を震わせ彼はバイクから降りた。


「すごかった!」

「次、俺!!俺!」

ジャックが手をあげる。


 今度は、ジャックがバイクにまたがり走り出す。


「なあ、これがあったら荷物運びが楽になるな!」

まだ興奮しているコールはそう言った。

「そうだね。内職の荷物運びも、買い物も、何でも運べるよね」

とダリア。

「ああ、そうだな……」

とアレクが返した。


やがて戻ってくるとジャックは興奮してバイクを降りる。

「すっっっげーー!!次はアレクだろ!」

アレクはバイクの前に歩いて行く。

そしてそっとバイクのハンドルに手をかけた。

風を切って走り出す!

バイクはきっと何でも運んでくれる。今までできなかったこと可能にしてくれる。俺たちの生活に新しい可能性をくれる。

橋のところまではあっと言う間ついてしまい、彼は 折り返し みんなのところに戻った。

バイクから降りて、みんなの方を見る。


「なぁ、荷物運びも買い物で使うのもいいけれど、もっと 別の使い方をしないか?」

アレクはそう言った。


「別の使い方?」


コールが聞き返す。

アレクはいたずらっぽくにやっと笑って、こう言う。


「みんなで移動サーカスをやらないか!」

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