第十二話 朝食バイキング part12〜「――っ……ふふっ、まぁ……美味しい……!」
まぁ、祥は置いておいて、次はエルマを見ていこ……(置いとくなよ!!!!)………メタ発言はこれ以上はクドいので、やめていただきたい。
………ゴホン、失礼した。
祥のツッコミは置いておいて、次は、緑色のみずみずしい小鉢――ほうれん草のお浸しをじっと見つめていたエルマを見ていこう。
エルマは、トラが両前足で大事そうに抱えてコトッと置いてくれた醤油の小さなボトルを手に取り、微笑みながらも戸惑い、もう一度、トラに聞く。
「これをかければいいのですよね、トラちゃん?
貴方に勧められて、食べてみたくなったので選んだのですが………
ごめんなさい、もう一度確認してもよろしいでしょうか?
………本当にこれは食べ物なのですか?
何かの薬草なのではないでしょうか………?」
この世界において、緑色の草と言えば薬草なのだ。
それを料理に使うなど、一般的ではない。
それに万が一使ったとしても、このような鮮やかな色は保っていないだろう。
それなのに、この小鉢にあるものは、鮮やかな緑色を保ったまま綺麗に茹で上げられ、上には薄く削られた不思議な木屑のようなもの、ケットシーたちが虜となった鰹節が乗っている。
「ん!おいちい!たべて!!!」
ニコニコ笑いながら言うトラに、背中を押されたのか、エルマはトラに教えられた通り、醤油を少量、回しかける。
すると、芳しい香りと、どこか海の気配を感じさせる香りがふわりと立ち上り、鼻腔をくすぐる。
昨日のうどんのつけ汁を彷彿とさせる香りに、エルマは惹かれ、カトラリーでひと塊をすくい、そっと口へと運んだ。
「――っ……ふふっ、まぁ……美味しい……!」
咀嚼した瞬間、エルマの目がパッと輝いた。口の中に広がったのは、ほんの少しの心地よい苦味。
だが、それを醤油のまろやかな塩気と、上にかかった鰹節の圧倒的な旨味が完璧に包み込み、噛むたびにほうれん草のみずみずしい甘みがじゅわりと引き立っていく。
ただ茹でて、醤油をかけただけのはずなのに、スープで煮込まれたどの野菜料理よりも味が深く、いくらでも食べられてしまいそうなほどに箸が止まらない。
「トラちゃん。この醤油という調味料、素晴らしいですね。
このお野菜の素材の味を消すどころか、最高の御馳走に変えてます……!!美味しいわ!!」
「ほうれんちょう、おいちいの!!
はくまい、いっちょ、もっちょ、おいちい!!」
トラが白米に器用に、ほうれん草のお浸しを乗せ、おいしそうに食べるのを見て、エルマの口元にも優しい笑みがこぼれる。
そんな微笑ましいやり取り、その横では、まだ、自分の皿の上の黄色い料理をじっと見つめたまま、微動だにしないサラの姿があった。
黄色くて白い丸と、黄色い丸が綺麗な、まるでお月さまのような卵料理。
可愛らしい料理だが、サラからしてみれば、如何せん名前がいただけない。
「……サラちゃ、たべにゃい? おいちいよ?」
エスコート役のフェンリル――三郎が、大きな瞳をこれでもかとパチパチさせながら、あざとく「コテン」と首を傾げて実食を促してくる。
「分かってるわよ、三郎。……でも、これ、『目玉焼き』って名前なのよね?
なんでこんなに綺麗な料理に、そんなおどろおどろしい名前をつけたのかしら……」
サラは目玉というワードに少しためらっているようだが、三郎の期待を込めた瞳に、意を決してフォークを突き立てた。
ぷつり、と中央の黄色い丸が弾け、中からとろりと濃厚な半熟の黄身が溢れ出す。
それに少し驚きつつも、三郎に渡された醤油を少しだけ垂らし、そっと口へと運んだ。
「――っ!? すんごい濃厚……っ!
それに、このかかった醤油の塩気と、卵のコクが合わさって、信じられないくらいクリーミーだわ……っ!」
白身のぷるぷるした食感と、口いっぱいに広がる黄身の甘み。
ただの鳥の卵を焼いたものだと侮っていたサラは、そのあまりの奥深い美味しさに圧倒され、フォークを進める手が止まらなくなってしまった。
【作中表記変更のお知らせとお詫び】
いつも読んでいただきありがとうございます。とてもたくさんの方に読んでいただいていて、本当に励みになりますし、ありがたい限りです。
本日より、将来的な「書籍化(商業化)」という大きな夢に向けて、作品の体裁をより確かなものにするため、作中のキャラクターの名前(漢字表記)を一部変更いたしました。・(旧表記)翔 →(新表記)祥・(旧表記)潤 →(新表記)純(※読み方や物語の世界観、彼らの魅力はこれまでと一切変わりません)
これまで、実在の人物を強く連想させるような表記や、あとがきでの発言があり、私の認識不足、管理不足の限りでございました。
読者の皆様にご心配や困惑を与えてしまいましたことを、深くお詫び申し上げます。
本当に申し訳ありません。
本作は、世界観やキャラクターを一から大切に創り上げている完全なオリジナル小説(一次創作)です。
今回の変更に伴い、なろう内の過去の全話の修正もすべて完了いたしました。
これにより、皆様にもより一層安心して本作の物語をお楽しみいただける形が整いました。
これからは祥とルナたちののんびりした日常を、完全なオリジナル作品として全力で温かく描いていきます。
新しく生まれ変わった彼らの物語を、どうぞよろしくお願いいたします。




