第十二話 朝食バイキング part7〜「……つまり、いくら食っても、同じ値段……。無限、食べ放題……ッ!」 「ん?!ガル?!………あ、これヤベェ………。」
全館に響く爽やかな開場チャイムをかき消すような、ガルの胃袋からなる音。
開場と共に自動扉から溢れてきた芳しい香り、つやつやに炊き上がった白米の甘い匂いや香ばしく焼かれた鮭やふわふわで口の中でじゅわりととろける出汁巻き卵の優しい香り、そして何より、彼らが未だかつて嗅いだことのない、スパイスの芳香が何重にも絡み合ったカレー。
それは、とても魅力的、暴力的で、冒険者一同もたまらない心地になり、唾を飲み込んだが、ガルは限界だったのだろう。
今までの音を遥かに上回る音がそれを表している。
………夜中にあれほど食したにも関わらずだ。
どんな胃袋をしているのだろうか、マジで。
匂いにつられ、冒険者一同はふらりと会場内に足を踏み出し、視界に入ってくる光景に言葉を失った。
広々とした清潔な会場に、多種多様な料理が湯気を立てて、大量に並べられている。
見知った料理、いや、見知って居ても庶民では食べられないような柔らかそうなパンや、大量の肉料理。
コンビニで見たプリンやスイーツ。
見たことはないが、どれも美味であることがわかる程、いい香りを放っている、スパイシーな料理や優しい香りの和食。
この世の食材を集めたのではないかという桃源郷のような光景に、冒険者一同は二の句が告げられない。
誰もが言葉を失って硬直する中、スッと一歩前に出た祥が、カウンターに重ねられた丸皿やトレイを指し示しながら、流れるように説明を始めた。
「皆様、そこにあるお皿やトレイを自由にお持ちください。
ここにあるお料理はすべて、ご自身の手で、好きなものを、好きなだけお皿に盛り付けていただいて構いません。
どれを何回お代わりしていただいても自由です」
祥のその言葉が響いた瞬間、レストラン内に盛大な衝撃が走った。
異世界において、飯とは「注文したものが一皿出てくる」か「決まった配給を食べる」のが当たり前。
それなのに、この楽園のような空間では、目の前にある肉も、魚も、卵も、パンも、すべて自分の意思で、好きなものを好きなだけ、お腹がいっぱいになるまで、取っていいと言うのだ。
「そんな、嘘でしょう……!? これ、全部自分で選んでいいの……?」
「ええ、ただし、残すことはマナー違反ですので、それだけを守っていただければ。」
「王侯貴族の宴でも、こんなに自由には食べられないぞ……っ!」
信じられないシステムに頭が追いつかず、驚愕のあまり、固まる冒険者一同。
ガイルは再び並べられた料理の数々を見比べながら、呟く。
「モニターで仕事を受けているから、タダにしてもらっているが…………。
本来なら、新人のレオンたちは会場にすら入れねぇだろうし、俺たちみたいな中堅でも……いや、エルダさんたちでも、そうそう気軽には食えないやつだよな、これ……。
自分たちで払おうと思ったら、いくらかかるんだよ………。」
そんなガイルのつぶやきに、冒険者一同は財布の中身を計算して顔を引きつらせる。
そんな彼らに、祥はフッと優しく微笑み、口を開いた。
「こちらの朝食バイキングは、定額を支払っていただき、皆様に好きなだけ、召し上がっていただくシステムです。
当ホテルにご宿泊されているお客様は、その料金が最初から宿泊費の中に含まれております。
ホテルに宿泊されていない外部のお客様でも、入り口でこちらの定額料金さえ支払っていただければ、どなたでも同じように食べ放題を利用できますよ」
祥が入り口の案内板に書かれた、宿泊していない客の利用の価格を提示すると、それを見たガイルたちはさらに自分の目を疑った。
「……は? これだけ……?」
「嘘だろ……これ、新人冒険者がちょっと依頼を張り切って、薬草取りの仕事増やせば、普通に払える額だぞ……!」
提示されたのは、あまりにも良心的すぎる、新人冒険者でも少し頑張れば手の届くほどの親切な料金だった。
これまでも、常識の違いとホテルの凄さに、驚愕、脱力、麻痺を繰り返してきたが、これは…………。
固まり、言葉を失うガイルたちを余所に――ただ一人、危険な光を瞳に宿した男がいた。
「……つまり、いくら食っても、同じ値段……。無限、食べ放題……ッ!」
「ん?!ガル?!………あ、これヤベェ………。」
ボソボソと呟くガルの低い声に相棒のガイルが正気に戻り、声をかけつつもガルの顔を伺い、顔を引きつらせる。
………この男、最初無口キャラだったのを忘れていないだろうか。
キャラ崩壊もいい加減にしてほしいものである。
いや、食事に関してだけ、饒舌なだけか。
それでもいい加減にしろ。




