第十一話 それぞれの夜 part9〜「さっき言っただろ、気長に待つし、離れる気はないって。ただ、覚悟は決めとけよ」
祥ちゃんの言葉の意味が分かんなくて、ちょっと居心地が悪かったけど、祥ちゃんの言葉で、すとんと私は落ち着いた。
祥ちゃんの言葉に安心した私は、拳一つ分開けて座る祥ちゃんを横目で見る。
…………普段はこんなにじっくり見ないけど、やっぱりかっこいいな。
そんなことは分かりきったことなのに、何故か今日はそう思った。
どうやら、単純な私は、いつもと違う祥ちゃんに、当てられて、ちょっとおかしくなってるらしい。
いつもは思わないのに、拳一つ分祥ちゃんの温度がなんか遠くに感じる。
それがなんかさみしくて、思わず、身体を傾け、トンと祥ちゃんの肩に頭を乗せた。
ピクリと祥ちゃんが反応し、辺りが何とも言えない空気に包まれる。
「…………ルナ。」
祥ちゃんの低い声が耳をくすぐり、祥ちゃんの肩から顔を上げ、祥ちゃんをみる。
すると思いの外、近い位置に祥ちゃんの顔があり、祥ちゃんが私を熱が灯った瞳で見つめる。
そんな祥ちゃんから視線が逸らせなくなった、まさにその時だった。
『ーーーーう、うわああああああ! ごめんなさい!
寝ます! すぐ寝ますから、その前足を引っ込めてぇぇぇ!!!』
「「ぶふっっ!?」」
ホテルの壁をブチ抜くような大声がモニターの一つから聞こえた。
思わず、祥ちゃんとそちらを見る。
聞こえてきたモニターは2階、ビジネスホテルフロアの廊下を映したモニターだった。
「え?今の声………」
「…………ラルクだな。(ボソッ)邪魔しやがって、あの野郎。」
「なんか祥ちゃん、含みない?
というか、なんか言った??」
「……え? あ、いや、なんでもないよ。
ほら、ルナ、お前ちょっとこの画面見てみろ」
祥ちゃんはまだ少し耳を赤くしたまま、バツが悪そうに咳払いをすると、ビジネスフロアの客室前の廊下を映す画面を指さした。
すると、ラルクさんの部屋のドアがほんの少しだけ開き、次郎ちゃんがトコトコと廊下へちょこんと姿を現した。
「あ、次郎ちゃんだ。ちょっと外の様子を見に出てきたのかな?」
「……いや、すぐ部屋に戻ったな。
太郎が中でラルクさんを抑えてる間に、外の様子を確認しに出てきたんだろうな。
二匹して徹底して、ラルクを抑えてるんだな。」
何事もなかったかのように、小さな肉球で額の冷や汗を拭うような仕草を見せ、すぐにまたドアの向こうの暗闇へと消えていく、次郎ちゃんの動きに、私と祥ちゃんは揃って感心しつつも、笑ってしまう。
「ふはっ………二郎、ヤベェ。」
「ぷっ、あははは!
太郎ちゃんと二郎ちゃん、本当にいい仕事するよね。
太郎ちゃんなんか、ラルクさん専属の監視員みたいになってるし。
他の子たちの今日の働きもすごかったなぁ………。
あの子たち、本当に大人顔負けの仕事をしてくれて、大助かりだわ」
しみじみと廊下のモニターを見つめながら私が呟くと、祥ちゃんが「ん?」というように、少しおかしそうに私の顔を覗き込んできた。
「ルナ、お前もしかしてあの子たちのこと、本物の赤ちゃんだと思ってないか?」
「え? だって生後三ヶ月くらいって言ってたし、喋り方もひらがなで赤ちゃん言葉じゃん。」
すると、祥ちゃんはからかうようにフッと笑った。
「魔獣だからな。
生後三ヶ月だったら、中身はもう立派な大人だよ。
子供を作って家庭を持っててもおかしくない年齢だ」
「……マジで!? そんなに小さいのに!? 赤ちゃん言葉なのに!?」
私の脳内が一瞬で混乱する。
あのちっちゃくてフニフニした可愛いトラちゃんや太郎ちゃんたちが、中身は家庭を築いていてもおかしくない大人……!?
驚愕する私を面白がりながら、祥ちゃんは楽しそうに解説を続けた。
「本当の魔獣の赤ちゃんは言葉なんか喋れないみたいだぞ。
ただの鳴き声しか出せないらしい。
あの子たちがひらがなの幼児語で喋ってるのは、ルナの『可愛い赤ちゃんたち』っていう無意識の認識に、引っ張られてるだけ。
というか、お前の認識で、フェンリルとケットシーの人間の言葉を喋ったときの口調が赤ちゃん言葉で固定されてるんだよ。
アイツらの中身は、驚くほど大人だよ。
だから、俺に青年誌を触らせなかったんだしな。」
「嘘やろ?!私のフィルターのせいなんかい!?」
嘘でしょ?!可愛い赤ちゃんだと思ってたのに………確かに、しっかりしてて、私よりも大人っぽいなと思うこともあったけどさぁ!!
そんなことを考えて、私は頭を抱えてしまう。
…………嘘やろぉ………
なんかショック…………。
「……………まぁ、あの子たちが優秀なのは良いことだろうし………いいか。
もふもふちゃんたち頑張ってくれたから、ボーナス奮発してあげなきゃ。
太郎ちゃんと二郎ちゃんのボーナスはラルクさんを抑えてくれてることも含めて、ちょっと色をつけてあげなきゃね。
祥ちゃん、明日、もふもふちゃんたちに、最高級のお肉あげよ。ご褒美に。」
「はいはい、了解。あいつらもきっと喜ぶよ。
…………ほら、お前はもうおやつ禁止。
さっさと寝ろよ」
「はーい……おやすみ、祥ちゃん。」
「…………あ。」
「ん?」
「お前、さっきの」
「さっき?」
祥ちゃんの言葉に首を傾げる。さっきってなんだっけ?
あー……? なんかさみしくて???
ん? なんでそう思ったんだ??
そう思って、首を傾げる私に祥ちゃんはため息をつく。
「(ボソッ)クッソ、防衛本能の蓋は分厚いか」
「なんて???」
「まぁ、いいや。
さっきのやつな、俺はな、そんなに積極的じゃない。
兄弟に奥手だの言われるくらいだしな。
でもな、分かりきったチャンスをふいにするつもりもない。
お前の気づいてない気持ちが、表面化したら、容赦なく掻っ攫うつもりだから」
「?」
「わかんないなら、それでいい。
さっき言っただろ、気長に待つし、離れる気はないって。
ただ、覚悟は決めとけよ」
「……………うん???」
「………ハハッ、おやすみ。鍵かけろよ」
そう、何故かいつもとちがう低くて何処か甘さの感じる声で言うと、祥ちゃんは部屋を出ていった。
………なんなんだろ。
わけがわからなくて、私は首を傾げ、祥ちゃんから言われた通り、鍵をして床に就いた。
いつもとちがう、幼馴染の距離を月だけが見ていた。
(第十一話:part9・完)
本日もご覧いただきありがとうございます!
祥くんのアイアンクロー説教から始まって、ルナちゃんの爆弾発言&翔くんの赤面。
そしてめちゃくちゃエモい展開から一転、ラルクの壁をぶち抜く絶叫での雰囲気爆破(ラルク編参照)。
極めつけにまさかのもふもふ達の正体(中身ガチ大人)発覚、いかがでしたでしょうか……!
何より、一番キュンときたのは、祥ルナの幼馴染の距離感。
普段はぶっきらぼうな祥くんですが、去り際の「お前の気づいてない気持ちが、表面化したら、容赦なく掻っ攫うつもりだから」「覚悟は決めとけよ」の一言には、書いてる作者自身も最高にドキドキしました(笑)。
実は今回の祥くんのルナちゃんに向けた言葉は全部、私が考えて言わせたものではないんです。
彼が勝手に動き出して、ルナちゃんに伝えた言葉なんですよ。
全部彼のルナちゃんに対する想いの欠片です。
「好き」という甘い言葉を一切言ってないのに、あの格好よさ。
何よりも小さい頃の約束を果たす、有言実行さ。
……奥手と言われつつも、やっぱりやる時はやる漢ですね。
そして、意味は分かっていないけれど、絶対の信頼を寄せるルナちゃん。
彼女も本能で何かを感じているんでしょう。
そんな、二人のじれったくも尊い距離感を、月だけが静かに見守っていた、夜の部、完結となりました!
もし今回の幼馴染の進展や、深夜に部屋を徹底防衛してくれたドSなもふもふ看守兄弟、そして不憫すぎるラルクさん(笑)を面白い、エモいと思ってくださったら、ぜひブックマークや評価、感想などをいただけると励みになります!!
最高の夜が明けた次回からは、いよいよ新章【第十二話:朝食バイキング編】が幕を開けます!
夜中にあれだけやらかした面々が、朝のロビーでどんな顔をして集まり、そして日本のホテルの王道の朝食バイキングを前にどうなってしまうのか……お楽しみに!




