第十一話 それぞれの夜 part6〜地獄の監視兄弟「「ラルクちゃ、どこいくの」」
こちらも同じく、草木も眠る丑三つ時、午前2時。
ガルが泊まっている隣室、ビジネスホテルフロアのツインルーム。
その中には体を休める、客室とは思えぬ緊張感が漂っていた。
「……今だ。今しかない……!」
今回の問題児ラルクの部屋────通称、問題児監禁部屋である。
客室へと引きずり込まれたラルクだが、この男、全然凝りていなかった。
寝付くまで、太郎&次郎の二人からガン見され、泣く泣く布団に潜り込み、顔まで掛け布団を覆った数時間後。
その間もラルクは眠ることなく、何とかこの息苦しい監禁部屋から出ることだけを考えていた。
ラルクは寝たふりをしながら周りの気配を伺う。
すると自分の横のベッド、客室の出入り口側にあるベットに、身体を横たえている太郎と次郎から微かに、リラックスした吐息が聞こえてきた。
ゆっくりと顔を覆っていた掛け布団を肩まで下ろす。
そのまま、太郎と次郎を伺うと、二人とも可愛らしい大きな瞳を瞼で隠していた、つまり寝ていたのである。
(チャンス!!!!)
太郎と次郎を起こさぬよう、息を潜め、ゆっくりと掛け布団を脱ぎ、気配を極限まで消してから、ベッドから音もなく足を下ろした。忍び足をさせながらゆっくりと太郎と次郎の横を通る。
そのまま目指すはドア。
この不条理な独房からの脱獄、それが今のラルクの目標だった
何としてでもカプセルホテルの秘密基地へ逃げ込み、昼間買った大量の聖書(青年誌)を貪り読むのだ。
あれを読まぬのは漢に非ず。
息が詰まるような暗闇の中、音を立てない絨毯が敷かれた床にも助けられ、ラルクはついに目標である客室のドアの前へとたどり着いた。
………勝った!これで俺は自由だ!!
勝利を確信しながら、ゆっくりとドアノブへと手をかけようとした、まさにその瞬間。
「「ラルクちゃ、どこいくの」」
すぐ真後ろから、完全に声を揃えた二つの舌足らずの幼子のような声が、彼の両耳元に直接響いた。
それに声にならない恐怖の吐息がラルクの口から漏れ、彼の心臓が跳ねた。
恐怖のあまりガタガタと歯を打ち鳴らし、震えながら恐る恐る振り返る。
「ひっっっ!?!?!?」
そこに広がっていたのは――遮光カーテンに遮られた真っ暗闇の空間で、ラルクの鼻先数センチの距離にある、太郎と二郎のドアップの顔面だった。
二匹の顔は真顔である。
率直に言って恐怖でしかない。
暗闇に二匹の丸く大きな瞳が、サーチライトのごとく怪しく光り、真顔も相まって、どこぞのホラー映画のようだ。
(実はこのもふもふたち、フェンリルである太郎と次郎は、ケットシーほどではないが、夜目が効き、その上で非常に索敵に役立つ驚異的な嗅覚持ちだ。
………つまり、結論から言うと、太郎と次郎、この二匹、寝たふりをしながら、ラルクが油断し、行動を起こす瞬間を、そしてバレて絶望するその結末をずっと楽しそうに待っていたのである。
…………辛辣な上にドSな二匹である)
「ひっ……! 頼む、ちょっとトイレに行くだけだから! 漏れちゃうから!」
真顔で見つめる二匹に言い訳するラルク。
しかしそれが通じるはずもなく。
「うちょ、おへやのなかに、おてあらい、あるって、しょうちゃ、あんないにょとき、いっちぇちゃ。
たろうもいっちゃ。
おちょと、ないない。」
「うちょつき、めっ。ラルクちゃ、まだ、はんちぇい、ないないね?」
そう言うと二匹して肉球を合わせ、ボキバキと鳴らしだした。
それにラルクは、顔を青ざめさせ、叫ぶ。
「う、うわああああああ! ごめんなさい! 寝ます! すぐ寝ますからその前足を引っ込めてぇぇぇ!」
最強のちびっ子看守兄弟による、容赦ない監視の前に、ラルクの脱獄計画は一瞬で塵へと帰した。
聖書(青年誌)を枕元に抱えたまま、ラルクは涙目で布団に猛ダッシュで潜り込み、シクシクと蛇蝎の涙を流す。
それを眺めながら、もふもふたちはため息を吐く。
別に、成人しているわけだし、趣味趣向をどうこう言う権利は誰にもないのだ。
犯罪は勿論、人様に迷惑かけなければ、どんなお宝を隠し持とうと、同志達で、急死した際、家族に見られたら死ねるデータが入ってるパソコン、スマホ、タブレットの破壊抹消の鉄の誓いを誓い合おうがいいのだ。
それは個人の自由である。
そんなことは太郎と次郎にも分かっている。
しかし、だ。
((ラルクちゃ、よんぢゃ、いきおいで、エルダちゃたちのとこ、とちゅげき、ちちょう…………))
そんなことがあれば、当然防犯システムと自分たちもふもふ部隊が出張るし、ホテル出禁だ。
何より、多分ラルクの命はない。
なんだかんだ言って太郎はラルクを気に入っているから、これからもホテルに来てほしいし、それを次郎もわかっているから協力しているのだ。
知らぬはラルクだけである。




