第十一話 それぞれの夜 part4〜「…………腹が、減った………」
草木も眠る丑三つ時。
女性陣とほぼ同時刻、ホテルの別エリアである、ビジネスフロアエリアでは、また別の厄介事が起きていたのである。
時間を巻き戻して見てみよう。
ビジネスフロアエリアのある一室。
真っ暗な部屋の中、ツインベットの一つの上に塊があった。
いや、塊ではない、誰かが布団に潜り込んでいるがゆえに、こんもりと盛り上がっているのだ。
………その中から、グゴゴゴ、ギュルルルルルルルルルルルルルという凄まじい音が聞こえている。
その布団にいるのは、コンビニスイーツを堪能し、夕食であれほどチャーシュー麺を詰め込んだ、あの吸引器、ガルである。
彼は自身に充てがわれた部屋で、凄まじい音を立てながら、腹を鳴らしていた。
…………この男、いくつかスイーツを後の楽しみにとっていなかったか?????
記憶違いだろうか、確かにコンビニでキャスター付きの棚に載せる面々にいた気がするのだが?????
ふと、テーブルの上を見てみれば、そこにはコンビニスイーツの残骸が山程置いてあった…………。
………………どうやら、もう食い尽くしたらしい……………。
数時間前、あれだけのチャーシュー麺を詰め込み、さらに大量のスイーツを平らげたというのに、この男のブラックホールのような胃袋はすでにそれらを完全に消化し終え、再び猛烈な空腹を訴えていたのだ。
ガルのお腹があの至極のチャーシュー麺の味を、そして甘味を激しく求めて止まない。
あのスイーツの素晴らしさを知ってしまったガルは、もう戻れなかった。
「…………腹が、減った………」
真っ暗な部屋で一人、大男が布団を被って、悲しそうに呟く。
誰かと同室でなくて良かったと、心の底からガルは思う。
でなければ、起こしてしまっただろうから。
久しぶりに満ち足りた腹に空腹はいつも以上に響く。
この時間に店は開いていない、さて、どうするか……………。
そんなふうにガルが、頭を巡らせていたその時、トコトコトコ、と小さな足音がして、ベッドのすぐ横の暗闇から、つぶらな二つの瞳がひょっこりと覗く。
この部屋の夜間お世話係として滞在していた、もふもふのシロだった。
「ガルちゃ……おなか、ちゅごい、グゴゴって、なっちぇるよ?
おへやの、ちゅいーちゅ、もう、ないないの?」
「……ッ!? シ、シロ、起こしてしまったか……っ!」
コテンと首を傾げながら、見透かしたようにいうシロに、ガルは顔を赤くした。
シロは「うーん」と小さな腕を組むと、呆れたような、しかしどこか嬉しそうな顔でガルを見つめた。
「ちかたにゃい、にゃあ。ガルちゃ、あにょ、あまいやつ、おかわり、ちたいの?
……じつは、シロも、おなかすいちゃ!
いっちょに、あにょ、こんびに、いこ!」
「お、お前もか……? しかし、こんな時間に店など開いてないだろう?」
夜半の日も跨いだこの時間、ガルの常識では開いているわけがないのだ。
あの店が。
しかし、そこは地球のコンビニ。
異世界の商店とはわけが違う。
「あいちぇるよ?こんびに。
じゅーっと、あいちぇるの。
おやちゅみ、ないないよ?
よりゅはね?ろぼと、いりゅの。
いちゅでも、かえりゅんだよ?」
「ろ、ろぼっと……? 何だそれは。」
「えっちょね、ひちょのかわりに、いりょいりょ、ちてくれる、おにんぎょう?」
「…………強力な自律ゴーレムのようなものか……!?」
ガルの常識では到底理解できない言葉だったが、シロの話を総合するに、どうやら夜間は人間がいない『無人』の状態であるらしい。
(無人……! ?
なのに、盗む者が誰もいないというのか……!?
いや、違うな。
ここの防犯技術は素晴らしい。
恐らく誰も盗むことができないほどの、防衛魔術か何かが、商店張り巡らされているのだろう。)
「ガルちゃ?どちたの?」
反応がないガルに再び首を傾げるシロ。
そんなシロを見て、自分の腹の音を聞き、ガルは白旗を上げた。




