第九話 実食part6〜 「………ここまで満ちたのは初めてだとは言ったが、満腹だとは言っていない。」
サラたち4人のいい食べっぷりと、絶賛の声を聞いて、残るエルフ姉妹――海老天うどんを注文したエルダ、冷やしうどんを注文したエルマの2人も、もはや限界だった。
「……私たちも、これ以上は我慢できないわね」
エルダがゴクリと喉を鳴らし、スプーンを手に取り、目の前にある海老天うどんの出汁をひと口啜る。
――その瞬間、エルダが目を見開き、全身に雷が落ちたように硬直した。
「な……っ、何……これ…………!?」
スープが舌に触れた瞬間、エルフの故郷を思い起こさせるような、知らないはずなのに、どこか懐かしい味がエルダの脳内へと駆け巡った。
今まで自分が飲んできた、ただ薄い塩と硬い肉を大雑把に煮込んだスープとは何もかもが違う。
これまで食べてきたスープの中で美味しいと感じたのは、ミーナの実家の定食屋のスープくらいだ。
あのスープが一番美味かった。
それなのに、これはなんだ?
馴染みのない風味だか、優しく繊細な味と旨味、上品なのに身体のひとつひとつに染み渡るような、そんなとても美味しいお出汁。
エルダは夢中になった。
「美味しい……っ! こんなの、初めて食べたわ!!」
「姉様、こちらのソースにつけるパスタのようなものもとても美味しいです!
ここまで、冷やしたものが用意出来るなんて………。
魔法残渣も感じないのに、どうしているんでしょうか………?」
とても麗しいエルマも、あまりの美味しさに、いつもの上品さを忘れて、はしゃいだように言って、キンキンに冷やされ、喉越しよいうどんの制作方法に首を傾げる。
そんな、エルダとエルマをそれとなく見ていたランクの脳裏に、ある言葉が浮かんでいた。
(…………今まで、生きててって、エルダさんとエルマさん、エルフだよな………?
確か俺のじーさんが若い頃からマドンナ的存在で、その時からA級クランだったって…………。
その前からちょくちょく冒険者業やってたらしいし、確かひいひいじーさん時も中堅で腕の立つ、エルフの姉妹がいたって………
って事は100年以上冒険者してたことになるよな?
え?2人は何歳…………。)
「「ア゙ァ?」」
(ヒェッ)
エルダとエルマが、声に出していないラルクの失礼な脳内逆算を察知し、極上の笑顔のまま絶対零度の殺気を放つ。
あまりの殺気にラルクは情けない声を出した。
「ど、どうしたんですか、エルダさん、エルマさん?!
凄い声ですよ?!」
「具合悪いんですか?!
なんかお顔が違うような………?」
ミーナが驚き、慌てて声をかけ、マイナも2人の変貌ぶりに目を丸くして問いかけた。
そんな2人の横で、サラとソラが額に手を当てて、呆れている。
「…………なんか、愚弟が余計なことをした気がするわ………」
「お姉もそう思う?私もそうかなって思ったんだよねぇ………………」
その様子にミーナとマイナが驚き、サラとソラが自身の弟を額に手を当てたまま、チベスナ顔で見つめるという、女性陣のテーブルがシュールな状況になった、その瞬間。
「はあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!?????ちょっ!!!おまっっっっ!!!はあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!?????」
男性陣のテーブルから、ひっくり返るようなガイルの驚愕の絶叫が響き渡り、女性陣の視線が一斉にそちらへと向いた。
ガイルが唖然としたまま、石像のように固まっている。
「ちょっと、ガイルどうしたのよ?!」
リーダーのあまりの声にサラが慌てて声をかけ、ガイルの視線の先を追う。
ガイルの視線の先、ガルの目の前には――これ以上ないほど綺麗にスープの一滴まで吸い尽くされた空の丼が、最初に吸引と言っていいほど食い尽くした一杯目の上に計五個、追加で重ねられて置かれていた。
実質、もう六杯も食べている。
………いつの間に食べたんだ………?。
そして、今しがた飲み干した7杯目をそっと器の上に重ねた。
ゴトッ。
「…………シロ、すまないが、お代わりを。8杯目も麺マシマシ、チャーシューマシマシ、大盛りで。」
「ガルさんいつの間に食ったんですか?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
声を上げた後、呆然とし固まるガイル、ガイルの声に視線をガルに戻したラルクが盛大に突っ込んだ。
それはこの場にいる全員の総意だろう。
女性陣の美味しそうに食べるシーンは少し時を戻した、つまり男性陣が食事をし、ガルの吸引具合にドン引きしたのと同じタイミングだったはずだ。
時間が進み、ガルから男性陣が目を離したのは、エルダとエルマのコメントを聞いて、ラルクがいらん年齢逆算をしだして、エルダとエルマの2人に殺気を浴びせられたからだし、その間も一分もない。
なのに、この人外吸引器、その一分の間に一切の手を止めることなく、誰にも気づかれず、吸引を繰り返し(今度はサイレントで。無駄に技術が上がっている)、密かに追加で6杯(計7杯)を綺麗に飲んでいたのだ。
ついさっき「…………ここまで、腹が満ちたのは初めてだ………」と満足げに瞳を輝かせたはずの男が、何食わぬ顔で8杯目の呪文を唱えている。
「お前、満足したんじゃねぇのかよ!!!!!」
「………ここまで満ちたのは初めてだとは言ったが、満腹だとは言っていない。」
正気に戻ったガイルが吠えるが、ガルは何食わぬ顔で言う。
「ガルちゃ、しゅごい!! 7はいめも、いっちゅん、だっちゃ!!
8ぱいめ、まちまちも、シロがちゅぐ、つくりゅ!!(フンス)」
テーブルの横では、ご満悦のシロが、大はしゃぎで短い手を上げて大張り切りで厨房へと戻ろうとしている。
(……ヤバい、吸引器も極まれりじゃん…………。)
(本当に、組み合わせ、ミスったな………)
裏のモニタリング室でお布団に包まりながらその光景を見ていたルナが、唖然とした顔で呟き、現場にいる祥は脱力しながら、心の中でボヤキ、深いため息を吐きながら、おでこを押さえていたのだった――。
(第九話 実食・完。)




