第九話 実食part5〜「…………マイナちゃ、たべにゃいの? じろ、がんばっちゃ。おいちいよ?」
さて、ミーナが出汁の味に興奮し、教えを太郎に請い、それにあっさりと太郎が出汁について説明することに驚愕する女性陣。
そんな女性陣の中でマイナも、ミーナのように、目の前でグツグツと沸き立つ鍋焼きうどんに、正確には土鍋に密かに興奮し、熱い視線を送っていた。
実は彼女の実家は、市民の使う鍋から冒険者の剣や防具まで、何でも請け負うアウステル国一の変わり者な金物屋なのだが、幼い頃から職人の父の横で、あらゆる金属や鋳造技術を見て育ってきたマイナにとって、目の前の料理はあまりにも異質だった。
(何、この材質………鉄じゃない…………)
金物屋である実家が扱う、あらゆる鉄や銅、魔導金属のどれとも違う。
火から下ろされているというのに、器そのものが熱を閉じ込め、ずっとグツグツと湯気を立て続けている鍋。
確かに実家が製作しているもの鍋でも同じ事は出来なくはない。
しかし、そうなるとこんなふうに布越しでさえ持つこと、あまつさえ運ぶなど、不可能だろう。
あのもふもふは、指がない手袋のようなものですんなりと運んでいた。
アウステル国の鉄はそもそも地球とは土台が違うのだ。
この国の鉄ではあんな薄い布ではでは持つことなど出来ない。
特別なものを使わないと。
(あの布が特別製なのかな?
んー……でもなんの魔法も扶助されてるように見えないし。エルダさんたちほどじゃなくても、私だってそれくらいはわかるし………。
なんで持てるのかなぁ………これなんなんだろう…………。)
思わず考え込むマイナ。
そんなマイナを見つめる目が一匹。
マイナをエスコートし、ヘッドスパマッサージをした、トラと並ぶほどのマッサージの腕前を持つフェンリル──二郎である。
「…………マイナちゃ、たべにゃいの?
じろ、がんばっちゃ。おいちいよ?」
そう言って、コテンと首を傾げた。
いや、本当に二郎は頑張ったのだ。
あの辛辣で蕎麦、うどん部門を仕切っていた太郎、その太郎は二郎の兄なのだが、その兄が、ケットシーたちに付きっきりにならざる負えず、スピードが落ちたケットシーをサポートしながら、具材が多い鍋焼きうどんを作り上げたのだ。
「マイナちゃ、おいちくたべちぇ、ほちくて、がんばっちゃ。」
「〜〜〜〜〜うん、食べるよ!!たべるよ、もふもふちゃん!!ありがとね!!!!!」
二郎の健気さに悶絶しつつもマイナはこれ以上は本当に冷めてしまうと、持っていたフォークでグツグツに煮込まれた熱々のうどんすくい、ハフハフと口へと運んだ。
――その瞬間、マイナの頭の中で何かが激しく弾けた。
熱い。けれど、鶏肉やシイタケ、そして玉子の濃厚な旨味が溶け出した出汁の旨味が、ハフハフと噛むたびに体中に染み渡っていく。
大変な太郎の代わりに、二郎が必死になって具材の旨味を閉じ込め、土鍋の中で完璧に調和させて煮込み上げた極上の熱々の出汁。
「美味しい……っ!
美味しすぎる!!!なにこれ?!
これ、具だくさんな素材の旨味が、この不思議な鍋…………「どなべ、っちぇ、いうんだりょ?マイナちゃ。」
そうなんだ!ありがとう、二郎ちゃん!!
その土鍋の中でこれ以上ないくらい引き出されてる……!
二郎ちゃん、私、こんなに身体の芯から温まって美味しいスープ、生まれた初めて食べたよ!!」
不思議な器への感動と、二郎くんが自分のために頑張ってくれた優しさ、そしてお出汁の美味しさに、嬉しそうにハフハフとうどんを夢中で頬張るのだった。
テーブルの横では、二郎が安心したようにウンウンと頷いて、嬉しそうに尻尾をパタパタと振っている。
(めちゃくちゃ喜んでる、二郎ちゃん……)
(………太郎もそうだけど、負担かけてごめんな、二郎…………。
太郎と一緒に、ボーナス弾むな…………。)
二郎の姿にほんわかするモニタリング中のルナ。
ほんわかする別室のルナと対照的に、現場でそれを見ていた祥は二郎、そして今日はラルクの監視にもふもふたちの指導と、何かと苦労かけるにボーナスをやることに決めた。
………確かに、今一番精神的負担がかかっているのは太郎である。
ぜひともボーナスをあげてほしい。




