第九話 実食part2〜 「も────!!!!のびりゅの!!!!! おはち、れんちゅう、あと、ちゅるの!!!」
その香りにもうたまらないという顔で、争うように席についた冒険者一同。
だが、目の前に並んだ丼を見た瞬間、10人の動きがピタッと止まった。
湯気や冷気をまとい、目の前にずらりと並んだ料理。
それは、さっき入り口のガラスケースの中で見て、本物だと勘違いした食品サンプル、それのまま――いや、それ以上に食欲をそそるものだった。
匂いと見た目に「ゴクリ…………」誰からともなく、激しく喉を鳴らして唾を飲む音が、静まり返った店内にハッキリと響き渡る。
もはや限界だった。
お互いの顔を見る余裕すらない。
カウンター内では、衛生のため(というか、よだれ防止のため)に着けていたマスクを外したもふもふたちが、短い手を前で組みながら、期待に満ちた(そしてちょっとドヤ顔の)瞳でじっと彼らの動向を見つめている。
そんなもふもふ達と冒険者たちの間を祥がすっと動き、各トレーに滑らかな手つきで何かを並べていった。
それは、冒険者たちにとっては見慣れない二本の木の棒――箸だった。
その横にフォーク、スプーンが置かれる。
「ショウさん、このフォークとスプーンの横に置いてある、これは……?」
ガイルが不思議そうに目を留めると、祥はニッコリと笑ってお辞儀をした。
「こちらの二本の木の棒は、オーナーや、私の故郷で使われている食事の道具です。
少々扱いが特殊ですので、皆様はどうぞ、使い慣れたそちらのカトラリーをお使いくださいね」
「は……?これがカトラリーの一種なのか???
この棒切れが?????」
祥の言葉に唖然とした顔でガイルが呟く。
他の冒険者一同も驚いたように祥を見た。
「ええ、その棒をこのように、手の指通しの間に入れ、はさんで、食べ物をつかむのですよ。」
祥はすっと、懐から一膳の箸を取り出すと、一切の無駄がない所作で、指の間に箸を挟み、そして、まるで自分の手の一部であるかのように、パチパチとリズミカルに鳴らしてみせる。
「すっげー!!俺もやってみよ!!!」
「いや、指つる!!指つる!!!!これで、挟むのか?!挟めるのか??」
レオンが祥の箸使いを見て驚きはしゃぐぎ、箸を手に取り、見様見真似で箸を使い始める。
その横ではすでに箸に挑戦していたラルクが悲鳴を上げて困惑していた。
他の冒険者一同も気になったのか、使い始め、困惑の視線を祥に向ける。
「………本当に、これで食べられるのかしら、ショウさん。」
「はい、使いこなせば、スープ以外のすべての料理をこれ二本で掴むことも、切ることも、口へと運ぶことができます。」
「マジか…………」
サラの言葉に祥が答えると、ガイルが顔を引きつらせた。
その姿をモニタリングしていたルナがしみじみと思い出を思い出し、呟く。
(あー………私たちは慣れたものだけど、難しいよね…………
私もちっちゃい頃、箸が使えるようになるまで、祥ちゃんがつきっきりだったなぁ。
なかなか覚えられなくて、大変だったんだよねー………。
祥ちゃん、箸使い覚えるの早かったし。
所作も綺麗だし、お手本通りって感じ。
私の箸のしつけ、祥ちゃんがしたようなもんだよなぁ
家族が教えるより、祥ちゃんが教えるほうが上手かったっけ。)
ちなみに祥が爆速で箸を使えるようになったのは、ルナに教えるポジションが欲しかったのに他ならない。
昔からルナの側にいるために涙ぐましい努力をしていたのである。
そんな祥の涙ぐましい、努力エピソードが裏にある思い出話を、思いだしているルナに祥は気づく事なく、好奇心旺盛な冒険者一同が箸使いに苦戦しているのを祥はニコニコと観察していた。
しかし、このままでは食事が冷めてしまうと口を開こうとした瞬間、祥と冒険者のやり取りを不満げに見ていた者たちが声を上げる。
「も────!!!!のびりゅの!!!!!
おはち、れんちゅう、あと、ちゅるの!!!」
「「「「あと、ちゅるの!!!!!」」」」
「ちゃめちゃうの!!!おいちく、にやくにゃるの!!!!!たべりゅ、みゃ!!!!」
「「「「たべりゅ、みゃ!!!!」」」」
食事を作ったもふもふたちである。
せっかくの料理が冷めてしまうと口を全匹膨らませて、冒険者たちをみており、かなりご立腹のようだ。
「あはは、ごめんね、もふもふたち。
申し訳ありません、おとめするのが遅くなってしまって。
皆様は今日が初めてですので、どうぞ無理をなさらず、フォークとスプーンをお使いください。」
祥のその言葉に、必死に箸を使えるようになろうとしていた冒険者たちは、顔を上げて、その時初めて、もふもふ職人たちの無言の圧力に気づき、慌てて箸を置いた。
そして、フォークとスプーンを手に取る。
「すまん、そうだよな………。
もふもふ達がせっかく作ってくれたんだ。
その努力を無駄にして、わざわざ不味くして食べるのは礼儀知らずだ。
早速いただこう。」
ガイルがそう言うと、極限の空腹状態だった10人の手が、ついにそれぞれの丼へと一斉に伸ばされた。




