第八話 調理編part1〜中華マスタートラとシロ(名前初登場)
「おーだー、みゃ!ガイルちゃ、りゃーめん、ラルクちゃ、ちゃーはんちぇっと、レオンちゃ、つけめん、ガルちゃ、おおもりちゃーちゅーめん!
………みんにゃ、おおもり?」
ガルとガイルと祥のやりとりを気にすることなく、エプロンをピシッと着こなしたトラが、小さな肉球でレジの画面をトントンと叩き、男性陣の顔を見回す。
その仕草と声はとても愛くるしい赤子のそれだが、画面を弄る手は残像が見えるほどの速さである。
「お、おう、そうだな、身体が資本の職についてるんでな………お願いしていいか?」
「おまかちぇ、みゃ!!」
そんなトラに引きつつも、ガイルがトラに同意すると、トラは自信満々に返事をした。
そして、女性陣の注文には、ラルクのお目付け役の太郎が答えているようだ。
「エルダちゃ、えびてんうどん、エルマちゃ、ひやちうどん、サラちゃ、ざるちょば、ソラちゃ、きちゅねうどん、ミーナちゃ、かけちょば、マイナちゃ、にゃべやきうどん!
がんばりゅ!!」
フンスと胸を張ると太郎はトラに声をかけ、早速行動を映し出した。
「トラちゃ、やりゅよ!」
「みゃ、まかちぇて、みゃ!」
小さな肉球同士がパチンと合わさった瞬間、もふもふ調理部隊の空気が一変、裏で控えていたもふもふ部隊の空気も変わった。
シュバッと音が鳴る勢いで、厨房にバラけるもふもふたち。
一匹のケットシー、シロ(ガルについていた子。彼に某二◯系の言い方を教えたのが彼であり、太郎と一緒にラルクを飛び蹴りしたのもこの子だ。)が現代日本の最新業務用ガスコンロに火をつけ、中華鍋を火にかけて油を引き、卵とご飯を入れて、中華鍋を煽り始めた。
その小さな身体と同じ大きさの中華鍋を小さな手、しかも片手で煽るシロに、冒険者たちは口をあんぐり開けて驚く。
驚く冒険者たちを置き去りにし、シロが己の身体と同じ大きさの中華鍋を片手で煽る横で、他のもふもふ達も、縦横無尽に厨房を駆け回り始め、踏み台を信じられない速度で飛び石のように飛び跳ねながら作業をする。
だが、これだけもふもふとした魔獣たちが高速で動き回っているというのに、不思議なことに毛が一本も舞うことも落とすこともなかった。
普段からダンジョンや遠征先で活動し、あまり衛生観念が発達してない世界の冒険者たちだ。
正直、料理に獣の毛が一本や二本入っていようが、彼らは気にしない。
だが――現代地球の常識を持つホテル経営側の2人は、そこが絶対に許せなかった。
(異物混入ダメ絶対。)
(ホテルだぞ?清潔に保って当たり前だし、飲食店の衛生管理を怠るわけないだろ。)
知らず知らずに同じようなことを考える2人。
そんな2人の脳内通り、もふもふ達が着ている制服やエプロン、三角巾は、ただの可愛い飾りではなかった。
ホテル備え付けの従業員専用制服であり、身に付けた魔獣の抜け毛やフケを一つたりとも外へ逃がさない、強力な浄化魔法が組み込まれているのだ。
これには二人とも度肝を抜かれたが、おかげで、もふもふ部隊が縦横無尽に厨房を駆け回り、激しく鍋を煽っても、空間は清浄にクリーンに保たれている。
そんな毛対策の地球的な裏事情など、異世界の常識を持っている彼らは考えもせず、冒険者たちはただただ、もふもふ達の神がかった手際の良さに圧倒され、呆然と立ち尽す。
そんな異世界間ギャップが起きている最中、もふもふたちは作業を続けていた。
トラが短い手足でテボを巧みに操って極太麺を大鍋に投入したかと思えば、太郎は信じられない速度でネギやチャーシューを均等に刻み(手袋着用)、シロは先ほどの中華鍋から黄金色のパラパラ炒飯をすでに皿へと盛り付けている。
中華は作り始めたら、早いとはよく聞くが、この空間の早さはそれから輪をかけて早いのではないだろうか。
本当に優秀なもふもふたちである。




