第四話 10人の冒険者とホテルオープン!part10〜「馬鹿野郎、こんな国家予算を積んでも買えるか分からん古代遺物級のもん、たかだか一般クランが買えるか!!!!」
異世界ギャップにチベスナ顔をしながらも、さらに祥が手元のボタンを切り替えると、今度はこの世界の王宮を遥かに凌駕する、巨大な鉄の豪華客船が、冷たい海の中で光を放ちながらゆっくりと沈んでいく、かの有名な沈没船の映画の名シーンへと切り替わる。
世界中の人々が涙した若き男女の恋物語に冒険者たちの瞳に涙が浮かぶ。
「ああ、あの青年と令嬢の、身分違いの恋………!!なんて切ないの……っ!!」
「ちょっと待って、何であんな巨大な鉄の塊が海に浮いていたの?
魔法の気配も何も感じない……。魔法無しでこんな物が……?
……っでも、ああ、今、考えられない、そんなことより、物語が良すぎて………彼女たちの恋を観ていたい………。
涙が止まらない……っ!」
流れてきた、至極の恋物語に女性陣はその映像のあまりの美しさと、あまりにも美しすぎる愛の物語に完全に魂を奪われ、テレビの前でボロボロと大粒の涙を流していた。
「……美しいな。
俺も色んな芝居を観てきたが、こんなに美しい物語は初めてだ。」
「………ああ、都市一番の恋物語よりも美しい物語だ。」
「あの無口で、頷くことしかしないガルさんがしゃべった?!ここに来るまでも口を開かなかったガルさんが?!しかも泣いてる?!?!」
「この小説で初めてだねー。」
「ラルクは失礼だし、レオン、お前は何を言ってるんだ????─まぁ、ガルの言う通りだがな……ううっ」
「兄貴は男泣きだねー、俺もウルッときちゃうなぁ。
やっぱり凄いな、この宿。
特にこのテレビ?ってやつ。
ねー、兄貴ー、これ俺たちの共同クランにも置こうよ。」
ガイル も女性陣やガルと一緒になって目を真っ赤にして感動の涙を堪え、それにレオンはほけほけと笑って言う。
その言葉にガイルの涙も引っ込んだ。
「馬鹿野郎、こんな国家予算を積んでも買えるか分からん古代遺物級のもん、たかだか一般クランが買えるか!!!!」
「ケチ。」
「誰がケチだ!!!!!」
(ケチ扱いで草。)
(この世界じゃ、テレビも古代遺物ものか。
まぁ、中世ヨーロッパ風な世界じゃそうだよな。)
(まぁ、でも)
((いい感じに、常識ぶっ飛ばせてるな。
このまま、3階連れてって、ダメ押しして、虜にして何としても、冒険者ギルドの後ろ盾が欲しい。))
2階の【ビジネス個室】という1つの小部屋だけで、アウステル国の常識が物理的にも精神的にも跡形もなく、粉砕されていくのを各々違う場所から眺めるルナと祥。
大混乱中の冒険者(レオンを除く)たちを、ダメ押しとばかりに、祥とモフモフたちの優雅なエスコートで一同は三階へ。
階段を上がった一同は、3階に一歩足を踏み入れた瞬間、もはや声も出なかった。
そこは、この世界の王宮並み、いやそれ以上の豪華絢爛な最新ハイブリッドホテルが誇る最上のビジネスホテルフロアである。
足を踏み入れた瞬間、冒険者たちの足が止まった。
廊下の全面に敷き詰められた深い濃紅の絨毯は、歩いても足音が一切しない。
こんな極上の布の上を歩くなんて………。
冒険者一同は心地よく沈み込む、絨毯の感覚にこれ以上歩くことを躊躇った。
「どうぞ、こちらへ。
この絨毯はお客様に心地よく歩いていただくために、あるものですから。」
そう祥が微笑みながら言うと、ほんの少し力を入れ、モフモフたちが冒険者一同の手を引く。
よちよち歩きをしながら(おきゅくちゃま、こっちみゃ!)(あんよ、らいじょーぶ。)と引っ張る赤ちゃん従業員たちに導かれ、恐る恐る贅沢な絨毯の上を進んでいく10人。
壁の縁や足元から柔らかに零れ落ちる琥珀色の間接照明が、王宮の謁見の間すら太刀打ちできない、圧倒的な大人の気品溢れる贅沢な空間を作りだしていた。
祥がある一つの部屋のドアを開いて見せる。部屋の奥には、歪み一つない巨大な一枚硝子の窓があり、そこからは茜色に染まりゆく美しい海が一望できた。
まるで額縁の中に本物の海を閉じ込めたかのようなその景色に冒険者一同は感嘆の息を吐く。
「なんて…美しいの………。」
「こんな美しい夕焼け初めて………!」
うっとりとする女性陣。
そんな女性陣と同じく、夕焼けに見惚れていた男性陣だったが、ふと部屋を見回し、驚愕の声を上げる。
「っなんだこれ……。何処の王様の私室だ?!」
ガイルが思わず声を荒らげたのも無理はなかった。
部屋の中央に鎮座する巨大なベッドには、シルクと見紛ってしまう程に滑らかで、シミひとつない純白のシーツが敷かれている。
触れても一切の引っかかりがなく、まるで若き乙女の肌のように滑らかな極上の布。
それに、何より異常なのはこの『広さ』だ。
この世界の豪華な部屋、はっきりいえば、王族の部屋は重厚なタンスや水瓶、数々の調度品で埋め尽くされているのが常識。
だがこの部屋は、壁掛けのテレビ、肌触りの良いソファーや品のいいテーブル以外に余計な家具が一切なく、洗練された空間がどこまでも贅沢に、広く、ゆったりと広がっている。
人間の動線を完璧に計算し尽くし、無駄な物を一切省く、機能性を重視しによって生み出されたその広大な空間は、王宮の寝室とは違う、圧倒的な気品と静寂を醸し出していた。




