第三話 最初のお客様は、期待の有能冒険者3クランpart2〜「んー??? これ何か生真面目な上級商人が文を考えて、死ぬほどズボラな人間が書いた、みたいな感じする。」
「………何よ……これ……。」
エルダが細い指先で紙に触れ、顔を驚愕に染めた。
「……信じられない。魔法の痕跡が一切ないわ。
それにこの漆黒の文字……手書きではない。
インクを上から乗せた形跡も、彫り込んだ跡もない。
まるで、最初から紙に文字が組み込まれていたかのように均一だわ」
姉の横から紙を見つめていた妹のエルマも笑顔を消し、冷や汗を流す。
「魔法の痕跡すら残さず、これほど整然とした文字を刻む技術……。
神代の古代魔術文字を扱う、未知の超魔法国家の仕業でしょうか……」
「おいおい、そんな真似ができる国が、あの孤島に拠点を築いたっていうのか……!?」
ガイルが戦慄に身を震わせ、彼のクランのメンバーは表情を険しくする。
彼らはギルドマスターと同じ結論にたどりついたのだろう、完全に国家規模の心理戦、あるいは宣戦布告の気配に彼らが纏う物はより剣呑なものとなった。
「へぇ〜、すっげー。ツルツルじゃん……」
その剣呑な雰囲気を破ったのは、ひょこっと背後から顔を出したガイルの弟レオンだった。
彼は差し出された手紙をのんきに、しげしげと眺める。
しばし見つめ、首を傾げた。
「んー???
これ何か生真面目な上級商人が文を考えて、死ぬほどズボラな人間が書いた、みたいな感じする。
……二人いる気がするんだよねー。
国主導じゃないでしょー。」
「……あ? 二人だと?」
ガイルが低い声で睨みつけるが、レオンはどこ吹く風で続ける。
「国主導でこんなあべこべなことしなくない?
ただのヤバいスキル持った一般人じゃね?
世界が違うんかって程、こっちの常識知らずだけどさぁ。
……あ、これ、俺にしか見えない魔力の残り香の話ね?ただの勘ってやつ?」
レオンには、本人すら「ただの勘」だと思っている、魔力の残差から書いた者の性格を読み取る天才的な才能があった。だが──。
「(ゴツッ!)……レオン、お前はまたそんなオカルト染みた野生の勘を……!
相手の高度な偽装工作に決まっているだろう! 紙に魔力の残差など一切ないとお前以外の全員が断言している!」
ガイルはレオンの頭を思いっきり小突き、それにレオンは口を尖らす。
「痛ってぇ!!!
いや、絶対ただのズボラが後ろに隠れてるって……。
何か女の子の魔力の匂いもするし、常識外れのカップル能力者じゃね?
………何か、恋の匂いもする。
ウチの相棒が発狂しそうだから、行きたくないなぁ。」
レオンがチラリと視線を向けた先では、同じルーキーズのメンバーで相棒のラルクが、不穏な鼻息を荒くして妄想の世界へ旅立ちかけていた。
「女の子の匂い……!レオンのように国家主導かどうかは分からんが、分かるぞ!美女の匂いがする…………!しかも最上級のな……、俺の美女センサーをなめるなよ !!しかも、今回はA級クランのエルダさんとエルマさんもいる………!!!何と、極楽……!!目指せ楽園!!」
と、気色悪く呟いていた。
その横では、同じクランの女子陣──戦士ミーナと回復術士マイナの二人が、冷え切った目で、自らのクランの男どもをまるで不燃ゴミか、名前を言ってはいけない頭文字Gの悪魔か何かを見るような目で見つめている。
さらにその視線の並びには、中堅クラン【アイアン】の女性陣であり、ラルクの実の姉たちであるサラとソラの二人も並んでいた。
「……へえ、国家任務の場で、A級クランの前で何が目指せ楽園よ。
この我が家の恥晒しが」
冒険者ギルド一二を争う大剣使いであり、ラルクの上の姉であるサラは、大剣の重い鞘を鳴らしながら、完全に有害なゴミを見る目で実の弟を睨みつけている。
次姉である、弓士のソラにいたっては、笑顔のまま、ミーナとマイナに向き直り、朗らかに口を開いた。
「ミーナちゃん、マイナちゃん。こんな粗大ゴミと一緒にクラン組ませちゃってて本当にごめんね?
任務中に島の魔獣の餌にでもなったら、お姉ちゃんたちが新しいまともな仲間を探してあげるからね?
というか、もう餌にしちゃおっか♡」
─────実の弟を見る目ではなかった。
完全に生ゴミを見る目で絶対零度の目を向けていた。
女子四人からの、この世の終わりみたいな総攻撃の目を向けられ、エルダも冷ややかな、心底ゴミを見るような目を彼らに向け、深いため息をついた。
「ガイル、あなたの弟のクランは任務を何だと思っているの。……ギルドマスター、ルーキーの戯言(と発情)はスルーしてください。私たちはいつでも立てます」
「あ、また重症扱いでスルーされたわー、でも、流石にラルクと同類扱いは勘弁だなぁ………。」
レオンが頭をさすって肩をすくめ、ラルクがブツブツと妄想を呟く中、ギルドマスターが厳かに頷いた。
「うむ。今回の任務は極秘、かつ迅速を要する。我が国が誇る最高峰の空の便、配達魔鳥『アルバトラス』の特別便、人が搭乗出来る最高級の便を手配した。
これに乗り、最速でその孤島へ向かい、拠点の正体を暴いてくれ。
我が国の未来は君たちに懸かっている……!」
「「「はっ!!」」」
──数時間後。巨大な配達魔鳥が持つ籠に乗り、大空へと飛び立つ十人の精鋭たち。
何が起きても良いように、結界を張り全員に精霊魔法による防御の術をかける、エルダとエルマ。
その後ろを守るのがガイルと盾師のガルだ。
「いつでも武器を抜けるようにしておけ!
任務はもう始まっている!!
罠は何処にあるか分からんぞ!!!」
「…………」
ガイルは風圧の中、周囲をギロギロと警戒し、彼を支える副官兼相棒のガルも油断なく周りを見つめる。
彼は無口だが、リーダーであるガイルを支え続け、クランの盾として守り続けた男だ。
そんな2人の後ろで、ルーキーズの女子枠ミーナやマイナは、未知の強敵への恐怖と緊張で手を握り合って、震えている。
「マイナ………私たち、大丈夫だよね……?」
「大丈夫よ、ミーナは強いもん。
もし、怪我しても私が治してあげる。」
「そうだよね?マイナの回復術すごいもんね。」
新人女性冒険者たちが励まし合う中、彼女たちのクランのリーダーのレオンだけは籠から魔鳥の背中へとよじ登り、羽毛のフカフカ感に包まれて爆睡し、女好きのラルクはまだ見ぬ美女へ鼻を伸ばして妄想にふけり、実の姉たちから、ゴミを見る目で見られていた。
────やがて、雲を突き抜けた視界の先、目的の孤島が見えてくる。そこは本来、狂暴な魔獣が跋扈するうっそうとした大自然の魔境──のはずだった。
「姉様、あれを……見てください!」
エルマの鋭い声に、全員の視線が島へと注がれる。
ジャングルの不自然に切り開かれた緑の中に、突如として現れたのは、一つの巨大な魔力石を削り出したかのような、継ぎ目のない滑らかで真っ白な巨大な障壁(コンクリート壁)。
そして、その建物の正面に刻まれた、見たこともない文字列。
【ファーストキャリア雪月花】
「あのような美しい魔法石に文字を刻める技術が………?」
あまりにも自分たちの常識とかけ離れた技術に、おおっと感嘆の声を上げるレオンと生きて帰れるか分からない恐怖と冷や汗を流している9人はついにその白い障壁の入り口らしき巨大なガラス(自動ドア)の前へと一歩を踏み出すのだった──。
(第3話・完 )
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