第三話 最初のお客様は、期待の有能冒険者3クランpart1〜「モニター宿泊依頼……?」
ここはアウステル国。
南国で気候も穏やか、貧富の差も少なく、王家も裕福で代々人格者と言われる、非常に平和でまっとうな大国である。
この大国の特徴と言えば、物流に一番強いという所だろうか。
配達人の質が良いこともあるのだが、一番の強みはそう、魔獣配達人の存在だ。
彼らはテイマー資格のある配達人にテイムされており、人々の生活を支えている。
その一部を紹介しよう。
まず、空の便。
大陸間や、遠く離れた主要港を繋ぐ「国際定期便」アルバトロス(大型・長距離便)。
数千キロを不眠不休で飛べる、アホウドリに似た大型の魔獣鳥だ。
防水加工された頑丈な革のトランクを、足や体にベルトで固定して運び、人々に荷物や手紙を届けている。
次に、速達便の シー・スワロー・エクスプレス(小型・特急便)。
アジサシやツバメに似た小さく非常に素早い魔獣鳥。
金属製の小さなシリンダー(筒)を足に括り付け、その中に手紙を入れて運ぶのだ。
その昔、海賊の襲撃や嵐の接近など、一刻を争う危機を知らせるメッセンジャーとして活躍し、人々を救ったとして、この地では幸福の鳥とされている。
最後に水陸両用、パフィン・ローカルライン(沿岸・潜水便)。
ツノメドリ(パフィン)に似た、カラフルで愛嬌のある魔獣鳥。
油を塗った防水の布袋を背負い運ぶ。
彼らは霧が深くて空を飛べない日や、「海底にある人魚の国」へ手紙を届ける唯一の手段として重宝されている。
さて次は海の便。
メガロ・ペリカン(水面・一時保管担当)
クジラほどもある巨大なペリカンで、その巨大なノド袋の中に、数日分の荷物や、時には小さな小舟ごと入れて運ぶことができる。
アロー・トビウオ(水面〜低空・超特急便)魔法の力で、水面を滑空しながら数キロメートルも飛び続けられる大きなトビウオ。
彼らは船から船へ、文字通り「矢」のような速さで手紙や小物を届け、天井の低い海の洞窟などへの配達が得意だ。
シェル・タートル(海底・重量物輸送担当)岩のように頑丈な甲羅を持つ、巨大なウミガメ。
彼らは甲羅に網やロープをかけ、沈没船のお宝や、重い鉱石を海底から引き上げて運ぶ。空の配達鳥が空から「あそこに沈没船があるぞ」と旋回して知らせると、ゆっくりと海底へ潜って回収に向かう非常に優秀な魔獣配達人だ。
ルミナス・ドルフィン(夜間・誘導担当)
体の一部がランタンのように発光するイルカ。
彼らは夜の海や、霧で何も見えない危険な岩礁地帯で、船や配達人、配達魔獣のために灯台のように進路を照らし支えている。
最後は陸の便。
ラピッド・カーラ(平地・超特急ランナー)ダチョウやロードランナーに似た、馬よりも速く走る巨大な魔獣鳥。
急ぎの荷物を背中のカバンに詰め替られると、配達場所へと爆走し、特急で荷物を届けるのだ。
ガルム・ウルフ(森・夜道・護衛担当)
彼らは賢く、俊敏で、闇の中でも目が利く大きな魔獣狼。
盗賊が潜む危険な森のルートを荷物を背負い、最速駆け抜ける、夜間配達魔獣だ。
ロック・ゴート(山岳・断崖絶壁担当)
太く頑丈な角と、どんな崖でも滑らない蹄を持つ大山羊。
彼らは険しい高山の孤村や断崖の砦など、ものともせずに荷物を背負って登り届けるという、なんとも頼もしい配達魔獣だ。
メガ・アルマジロ(砂漠・荒地・重量運搬担当)
トゲのある頑丈な甲羅を持ち、地面を掘るのが得意な巨大アルマジロ。
彼らは砂嵐が吹き荒れる砂漠地帯で、荷物を甲羅の中に格納して安全に運び届けるのだ。このアルマジロは荷物だけでなく人を避難させる事にも長けており、砂漠のダンジョンへ向かい遭難した冒険者を救助する事にも長けている。
このように様々な魔獣たちが協力してくれているおかげで、物流を制しアウステル国は皇国に次ぐ一大王国になれたのだ。
さて、その物流に強いアウステル国だが、この国はこの近辺の国や都市の冒険者ギルドの中でも、指折りの実力者が集まる冒険者ギルドが在る事も有名だ。
─────そこへ、一通の極めて奇妙な書簡が届けられた。
手紙を運んできたのは、近海の未開の孤島から飛んできた海の魔獣、アルバトロス。
その足には『プレオープン告知兼、モニター宿泊依頼』と書かれた、見たこともない上質な紙(※現代日本のコピー用紙)がくくりつけられていた。
「未開の孤島から、新しく宿を開いただと?
モニター宿泊依頼……?
彼処は人など住んでいない無人島のはずだが?
何もないあの島で、どうやって宿など………。
一体何が目的だ。
新手の魔獣の罠か、それとも、愚か者の悪戯か…?」
届けられた上質な紙と奇妙な依頼内容に、ギルドマスターは深く顔を顰めて警戒した。
(だが、海の配達魔鳥が正式に使われている以上、無価値な悪戯とも思えない。
もしや、我が国の領土で勝手をしている海賊が、何か良からぬことを考えているのか?
それとも、あの島を取りたい諸外国の牽制か………。
あの島の存在は非常にデリケートだ。
かつては宝の島と呼ばれ、我が国を含め、諸外国が皆取り合った。
その後、何もないと判明したが、領海が広がることを厭う国などない。
何とか、皇国に次ぐ地位をもち、皇国と親類関係にある我が国が取ったが………。
欲しがる国など何処にでもいる。
さて、どうしたものか…………)
アウステル国の誇る洋紙を遥かに凌駕する、見たこともない純白で均一な薄い紙。
国家を巻き込む陰謀の気配に、ギルドマスターの額に冷や汗が滲む。
領主に報告して、騎士を動かしてもらうのも手だが、無防備に国に属する騎士隊や調査員を動かせば、それこそ諸外国に「アウステル国が未開の島で軍事行動を起こした」と開戦の口実を与えかねない。
戦争など、馬鹿が儲けたいためにする事だ。
魔獣に対する防衛や国を守らんが為の防衛戦とは違う。
───ただ、力無き子供が苦しむだけの、金持ちの道楽のパフォーマンスに過ぎない。
そのようなことを起こす事は自分は許せないし、陛下も許しはしない。
熟考の末、ギルドマスターが下した決断──それは、国家の枠組みに縛られない自由な武力であり、なおかつ、罠の可能性を十分に考慮した上で生き残れる、ギルドが今一番に期待を寄せている実力派の冒険者たちにギルドの依頼を出して派遣し、拠点の正体を極秘裏に暴くことだった。
──コンコン、と執務室のドアが、一定の落ち着いたリズムで叩かれる。
「入れ」 ギルドマスターの低い声に促され、重厚な扉が開いた。
先頭に立って入ってきたのは、このギルドでも指折りの冒険者、A級ベテランエルフ女性2人組【ツイン・エルフ】のリーダー・エルダだった。
「失礼するわ、ギルドマスター。
【ツイン・エルフ】エルダ、エルマ。
中堅クラン【アイアン】、初級クラン【ルーキーズ】を率いて参上したわよ。
国家騎士隊ではなく、わざわざ、冒険者である私たちに依頼するなんて、一体どんな厄介事かしら?」
何百年も生きてきた最高位の精霊魔術師であるエルダは、ギルドマスターを前にしても一切物怖じしない、凛としたオーラを放ち、後ろでは、同じく最高位の精霊魔術師である、エルダの双子の妹が優しげな笑みを顔に浮かべているが、その瞳は油断なくギルドマスターをみつめている。
その2人に当てられたのか、はたまた、何かを察知したのか、中堅リーダーのガイルが、ピリピリと周囲を警戒して直立していいて、彼が率いるクランのメンバーもピリピしているようだ。
さらにその背後では、ガイルの年の離れた弟、レオンが同じクランの幼馴染たちに囲まれながら「ふわぁ……」とのんびりあくびをして、眠そうな目で、兄とエルフ姉妹を見る。
そんな幼馴染兼リーダーにクランのメンバーは呆れているようだ。
合計10人。
この冒険者ギルドの分けられたランクの中で、一番の腕利きを揃えるという最強の布陣。
────本当はS級冒険者も揃えたかったが、王家の依頼で遠方に出ているため仕方ない。
ギルドマスターは深くため息をつき、エルダたちの前に、あのアルバトロスが運んできた不気味なほど美しい純白の紙(コピー用紙)を、すっと差し出したのだった──。




