第15話 ダイニングバーともふもふバーテンダーpart4〜美酒テロその3【ミモザ】【ファジーネーブル】
「続きまして、ミーナ様には『ミモザ』を。」
ソラへの説明を終え、祥は一歩隣へと足を動かし、ミーナの背後に立って口を開いた。
名前を呼ばれ、自身の目の前に置かれたカクテルの名を告げられ、ミーナは瞳を輝かせる。
置かれたグラスは、バーの照明を浴びて、それ自体がトパーズの結晶のようだった。
細かな炭酸の泡がリズミカルに浮かび上がり、弾けるたびに、柑橘のフレッシュな香りが匂い立ち、グラスの中で移り変わるように、煌めいて表情を変えている。
「カクテル言葉は『快活』、そして『真心』。
いつもご実家の食堂で、真心を込めて、お客様を素敵な笑顔で接客されていたと、ここにいる方々から伺っております。
貴女のその眩しい笑顔に、これ以上なくお似合いの気高い一杯です」
「………… 綺麗…………!」
祥の言葉に照れつつも、ミーナはその宝石のように美しく、鮮やかなグラスを見つめた。
しばし、見つめたあと手に取り、そっと口つける。
その瞬間、口の中にオレンジの甘さと炭酸の爽やかさが弾け、広がる。
「んー!美味しい。
オレンジとこのシュワってする水、エールみたいな水って合うのね!
私、このシュワシュワ好き!!
それに、このステーキを一緒に食べると、口の中でとろけるステーキの美味しさとシュワってした喉越しがめちゃくちゃ合う!!
うちの食堂でも出せたら、エールが苦手な女も喜ぶのになぁ。」
そう言って笑うミーナ。
相変わらず、ごはんを食べている時でさえ、実家の食堂のことを考えてしまうらしい。
そんな彼女の言葉に、祥はふっと優しい笑みを浮かべた後、スッとマイナの方へと身体を向け、顔を引きつらせた。
「…………」
「………あの?マイナ様?」
「…………マイナちゃ?
…………まちゃなの………。」
じぃ~とグラスを見つめるマイナに、祥は若干引き気味に声をかけ、マイナについていたシャムがマイナを少し見つめた後、はぁ………とため息をつきつつ、またなのかとつぶやいた
「ショウさん………」
「………はい?」
「この透明なガラス、どう作るの?!
こんなに透明なガラス見たことないわ!!
昨日の鍋といい、ここの窓といい、食器といい、ショウさんの国ってどうなってるの?!?!?!」
「………マイナちゃ、はんのう、てんどん、みちぇるひと、あきあき…………みちぇくりぇる、かにゃ…………。」
「シャムちゃ、めた、ないない。」
「シャムちゃ、とめないの?」
シャムのため息交じりのひと言にシャムが突っ込み、クロが不思議そうに声をかけた。
それにシャムが遠い目をしながら、口を開く。
「…………とまらにゃいの…………、ここに、いりゅ、もふもふも、ひとも、こちぇい、ちゅよちゅぎ。
おはにゃし、じえんじえん、しゅしゅまにゃい。
さくしゃ、あたま、たいたい。」
「たいへんねぇ、さくしゃも。
みんな、こちぇい、ちゅごいもんねえ。」
「クロちゃもよ????
ぼくはちゅ、だいしゅき、れしょ……。」
そうクロに突っ込むシャム。
………………全く勘弁してほしいのである。
「とりあえず、冷たいうちに、カクテルを飲まれませんか?
私のわかる範囲内でしたら、全て説明致しますし、シャムも昨日、貴方についていた二郎も説明致しますから。」
コホンと咳払いをしつつ、祥は言う。
それにハッとした顔をして、顔を赤くして身を乗り出していた身体をもとに戻した。
「………ごめんなさい、私ったらまた…………。」
「いえいえ、それだけご実家を思っていらっしゃる証拠ですから。
マイナ様の視点はとても勉強になりますよ。」
そう言い、祥は微笑む。
昨夜の鍋に注目するのも、炊飯ジャーに興奮するのも、お昼のステーキの鉄板とステーキの味とエールが合うことに気づき、ドワーフとの取引を考えるのも、全て実家のため。
自身の家を盛り上げるためなのだ。
そのためにアンテナを張っている人間を、粗末に扱うものはここにはいない。
「ですが、マイナ様。
いつもご実家のために頑張られているのは、尊敬いたしますが、今だけは少しだけ、肩の力を抜いてみませんか?
まずはその、貴女のためにもふもふが作った一杯をお楽しみください。」
そう言って、祥が指し示したグラスの中で、カクテルは静かにその輝いていた。
バーの照明を吸い込んで、それは黄金色のオレンジから、底に沈む鮮やかな赤へと、美しいグラデーションを描いている。
まるで、夕焼けのような、鍛冶屋の炉の奥でパチパチと爆ぜる、あの美しい炎をそのまま閉じ込めたかのような、そんな美しい紅色だった。
「マイナ様には『ファジーネーブル』を。
カクテル言葉は『愛嬌』。そして――『内に秘めた燃えるような情熱』。
鍛冶屋の娘として、常に家を想ってアンテナを張り続ける、貴女の熱い情熱と愛嬌のある貴方にこそ相応しい、特別なカクテルです」
そう言って微笑む祥に、マイナは顔をさらに赤くして、今度こそ身を縮めた。
「じょ、情熱だなんて……っ」
そう言って慌てる、マイナだが、満更でもなかったのか、差し出されたグラスを両手でそっと包み込み、宝物を見るような目でその炎の色を見つめた。
そのまま持ち上げ、一口含むと、とろけるようなピーチとオレンジの甘みが広がる。
続いてお昼のステーキを口にいれると、ジューシーなお肉の旨味とカクテルのフルーティーな甘みが口の中で完璧に溶け合い、マイナはふにゃりと、頬を緩ませた。
「……おいしいっ……。甘くて、お肉と合って、なんだかすごくホッとする味…………。」
そう言って幸せそうに微笑みつつ、マイナはカクテルを美味しそうに飲み続けた。




