第十四話 昼食の極上和牛ステーキpart1〜 「トラは?呼んだんだろ? まだ来てないのか?」
「さて、こちらで、もふもふたちが、ステーキを焼かせていただきます。
どうぞ、皆様お座りください。」
場所を昨夜のフードコートに移した冒険者一同。
ステーキを焼く鉄板の前で足を止めた祥は、くるりと振り返り、鉄板の前のカウンター席へ冒険者一同を導く。
そこへ、調理の準備のために一度裏へと、はけていた、もふもふたちが昨夜着ていた、調理用の服と帽子、マスクをはめて準備万端に整え、やってきた。
だが、九匹────トラが足りない。
「トラは?呼んだんだろ?
まだ来てないのか?」
「ル…オーナー、こーら、こぼちた。
ふいちぇたんらけど、あわちぇて、ふいちゃから、またこぼちて、にじ、ひがい。
ちゃれにならない、れべる、なっちゃ………。
トラちゃ、ちゃちゅがに、へるぷ、はいっちゃ。
それ、やっちょ、おわっちぇ、ごうりゅう、いま、きがえちぇる。
…………おふとん、きれい、ないない…………。
だいさんじ。」
「…………アイツ、覚えてけよ…………。」
それに気づいた祥が声をかけると、テレパシーでトラと会話したシャムが、呆れたように教えた。
どうやら、雑巾で拭いている時にまたやらかしてしまったらしい。
そのために、布団が御臨終したようだ。
全てを察した祥が頭を抱え、呻くような低い声で呟く。
染み抜きetc、全て自分の仕事になるとわかっているからだ。
まぁ、ルナもやらない訳ではない。
実際、今、半泣きで必死に個室風呂で布団カバーを洗っている。
だが、素人の手洗いでは、おそらくカバーのシミは取れないだろうし、布団は羽毛布団。
水では洗えない。
結局、プロのクリーニング屋並みの祥が主体、もふもふたちでやることになる。
………ルナは祥のアイアンクローを免れないだろう。
それを察したルナは、カバーを洗いながら、半泣きのまま、絶望顔で途方にくれている。
(暴力は振るわな……いや、ちょっと暴力だけど、教育的指導範疇だし………良いけど……。
でも、教育的指導されるんじゃ………。アレ嫌なんじゃ、嫌じゃあ…………。)
そう呟くルナ。
南無三。
頭の中で、アレ、羽毛布団だろ。
ドライクリーニング………。染み抜き………シミとれるか?????
などと考えながら、祥は遠い目をする。
そんな祥にエルダは声をかけた。
「ショウ様、何かオーナーさんにあったのかしら?
何かトラブルあったなら、こちらも協力するわよ。」
そう言うエルダ。
その申し出は、完全なる善意だが、ほんの少しだけ、ここのオーナーの顔を拝みたいという気持ちがあった。
女としても、冒険者としても。
女としてはここにいる女性陣、冒険者ギルドの綺麗どころを、歯牙にも掛けなかった、この極上の男の想い人の顔を、拝みたい好奇心。
冒険者としては、この素晴らしいホテルを経営する傑物の顔を覚え、冒険者ギルドにきちんと報告しなければというプライドだ。
そんなエルダの考えを察した祥は、極上の笑みを顔に悠然と浮かべ、口を開く。
「お気遣い感謝します。
ですが、こちらの不手際ですので、こちらで対応致します。
お気持ちだけ頂戴します。
皆様にはこれより─────。」
「おまたちぇ!!!」
祥がスマートに断っている途中、他のもふもふたち同様、完全防備な調理服でトラが駆けつけて来た。
そんなトラに祥は微笑みから虚無の顔に表情を変え、遠い目をしつつも、聞かねばならないとトラに問いかけた。
「………トラ、シャムから聞いたけど、アイツのふとんは…………?」
「ごりんじゅう。」
トラがチベスナ顔のまま即答した。
それに他のもふもふたちも反応する。
「ちんだ????」
「クロちゃ、また、ちょんな………ちんだね、おふとん…………。」
「…………ちんでるね、おふとん…………。」
そう口々に言うともふもふたちは大きなため息をマスク越しに吐く。
だって、自分たちと祥がこれから、羽毛布団のコーラの染み抜きに駆り出される未来が確定したからである。
ルナが綺麗にするべきとは考えてない。
職人として技術を叩き込まれているもふもふとしては、素人は引っ込んどれと言いたくなるからだ。
「いちお、くりーにんぐ、はこんだ。
じかん、かかりゅ………。
……………このあと、よるまで、じかん、ないない、なった………よるごはん、どうちゆるの?
おもてなち、できりゅ?」
この後、羽毛布団のコーラの染み抜きをするのだ。
明日に回せば余計に取れなくなる。
時間との勝負。
何匹かが付きっきりになれば、今日の夜のホテルの通常業務や、おもてなしの段取りに大きな支障が出てしまう。
どうするべきかと心配そうに見上げるトラに、祥は一瞬だけ考え込むような顔をしたが、すぐに表情を戻し、口を開いた。
「………大丈夫。
多少、段取り変えなきゃ駄目だけど、
夜は俺と何匹かついてくれれば、なんとかなる。
そのかわり、鉄板で肉焼くとき、多めに焼いてくれるのと、バーテンダーに自信があるもふもふを残してくれ。」
「………ちょういうこと!!わかっちゃ、みゃ!!
まかちぇて!!!」
祥の言葉にハッとした顔をしたトラ。
そして力強く頷き、ドンと胸を前足で叩く。
そんなトラに祥は笑った。
「優秀なもふもふを持って幸せだよ、俺らは。
────さぁ、みんな持ち場についてくれ!!」
「あい!!!」
祥の宣言にもふもふたちが一斉に駆け出す。
それを見送り、また冒険者一同に振り返る。
「失礼いたしました。
途中で言葉を切ってしまって、申し訳ございません。
エルダ様、先程も申しましたが、お気になさらず。
こちらの不手際ですので、お気持ちだけ頂戴します。
これより皆様に、もふもふたちが焼く、我が祖国が誇る和牛。
極上のステーキをお楽しみいただければ幸いでございます。」
その言葉と共にジューッという食欲のそそる音と香しい匂いがあたりに漂った。




