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Poly Scape, Poly Time.  作者: 煙亭しっぽ
- Gate Keeper -

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5/10

記録出入区画第1管理ゲート - 1/2

 町の端には、常時霧のかかった川に渡された橋がある。橋の管理は市の管轄だが、通行管理は区役所にある。毎日24時間、ここで職員ゲートキーパーが “町が消去するもの” と “町に追加されるもの” の通行をチェックしている。


 正式名称は「記録出入区画第1管理ゲート」。町に出入りするあらゆるものを記録・管理するための関門である。橋の向こうは隣区の管理ゲートだ。ここを通り過ぎたものは、それがなんであろうと町は受け入れる。


 通称はのどぼとけ(・・・・・)。喉元過ぎればなんとやら──というわけだ。


 この橋を渡るのは物理的なモノだけではない。この町に新しく導入される制度・ブーム・言い回しなども、すべて一度ここを通る。町の管理システムの要の一つである。


 区役所のサイトにも一応ページがあるが、アクセス数はほぼゼロであると聞いている。住民にとっては税金やごみ収集に関する情報の方がよほど大事らしい。


 交代要員として出勤した私は橋のたもとにある小屋で、いつも通り端末にログインした。画面を切り替えると早速その日の通行予定一覧が表示される。


 出区:自治会広報紙・令和18年度版 / 出庫

 出区:市営バス新カラーリング案A / 却下

 入区:ご当地ゆるキャラ「サボ天」/ 試用

 入区:Z世代版言語フォーマット / 普及

 出区:“タイパ重視”という流行語 / 破棄


(なるほど、今日も順調にくだらない日になりそうだ。)


 心の中でだけ拍手を打ちながら、チェックボックスを一つずつ埋めていく。このゴミの羅列に比べれば、時折現れる変人たちの方がまだ真剣味を感じられる。


 変人──この橋を渡る人間たち。彼らの来訪は予定表には登録されていない。システム的にはイレギュラーとしてその場で処理される。私の仕事の一つだ。


 私の本来の仕事は、橋を渡るそれらが「本当にこの町にとって出入りすべきものか」を最低限の条件に照らして確認することだ。

 治安を悪化させないか。既存の制度と致命的に衝突しないか。明らかに誰かのための恣意的なルールではないか。その他諸々。


 たいていは上から降りてきた予定通りに進めるしかない。私の裁量で止められるのは精々、明らかにラリった申請くらいだ。

 例えば、去年の暮れには「町内全員の “しらふ時間” を週あたり5時間減らす」という謎の試案をここで弾いた。馬鹿野郎め。



 さて、仕事が始まっても早朝のこの時間にゲートを通るものは、通常ならば何もない。大抵は2時間ほど事務処理に終始するものである。

 だがこの朝は違った。仕事を始めて間もなく──まだ太陽が顔を出してから1時間と経っていない──のことだった。イレギュラーの登場だ。


 やって来たのは若い男で、足取りには怖気も不安も見られない。荷物はリュック一つという身軽さで、顔つきも妙に落ち着いている。夜明けも間もないこの時間からの出区は、経験上では引っ越しか夜逃げのケースが多いのだが。

 端末に表示された区民情報の要点に目を走らせてみる。


 区分:出区──確認。

 氏名:トノサキ──確認。

 職業:旅人──10分前に更新されている──確認。

 付記:帰還未定──確認。


 情報更新の時間差まで含めて考えると、仕事を辞めてすぐにここへ来たのだろうか。たまに居る手合いだ。今のところは問題ないように思える。


「おはようございます。早朝からの出区とは、お急ぎですか?」


「いえ、特には。ちょっと旅をしてみたくなったんですが、別に目的地もありませんので。それにしても...ここはすごい霧ですね。実は地元を出るのが初めてでして。こんな風になっているとは知らなかった。」


「私にとっては日常の景色ですが、向こう側から何がこちらへやって来るのか知れたものではありません。通行を許可します。足元にお気をつけてお進みください。」


 ありがとう、と言って出区者は歩き出し、しかしすぐに立ち止まって町の方を振り返った。彼の顔には町への惜別が見てとれた。旅人の典型である。


 ...だが、その表情がゆっくりと消えて、やがて困惑の色が取って代わられた。

 男の視線を追って自分も町に目をやると、川辺から這い出した薄霧の向こうで黒い塔が天に向かって伸びている。


「あの “煙突” が、どうかしましたか。」


「ええ、あれは煙突ですよね。ですけど.....あの煙突って一体、なんの煙突なんでしょうね。あんなに太くて長い煙突って...。」


 こいつ、やはり変人だったのか? 訳のわからないことを言いやがる。煙突は煙突だろうが。


「昔から町にある、ただの煙突──それだけのものですが。」


「いや、その、気にしたこともなかったんですけど、今になって何故だか急に.....。」


「まさか旅の予感・・だけでホームシックに?」


 男は少し驚いたような顔をした。それから照れ笑いで会釈して、改めて橋へと進んで行く。霧の中に踏み入ると、すぐに背中も見えなくなった。足音ばかりが少しの間だけ橋の上に残って。


 端末の項目をもう一度だけ確認して承認ログを保存する。帰還未定──というのは、正直に言えばここを通る出区者の半数がそうだ。だから特別に引っかかるものでもない。


 なのだが、なぜか今朝は少しだけ画面を閉じるのが遅れた。気のせいだろうか。


*/ Gate Keeper /

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