表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を失くしたハデス様 〜愛を知る必要はないと、ハデスは言う〜  作者: HARUHANA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/17

16.運命の実

 有限が無限になった悦びを、隠しきれない。

 限られた時間を生きると思った最愛の人が、同じ時間を永遠に紡いでいけるなど、神もなかなか捨てたもんじゃない。


「ハデス様、私……今日こそ冥府に行きます」


 冥界に降りれば、ベルの愛する花も光もない。自分は此処で生きていくと決めたのに、誰かに……ベルに背負わせる勇気は、まだなかったのだ。


 手を差し伸べ「おいで」と告げた。

 扉を使えば行き来も出来る。なにも、此処にベルを縛るつもりも閉じ込めるつもりもない。地上が良いなら地上で過ごせば良い。

 暗く見通せない世界に聳える山々、底の見えない河、どこからともなく吹く風……。それらを、ベルに受け入れてもらえるだろうか。


「ここが冥府……ハデス様、なんだか神秘的ですね」

「神秘的?」

「……あの、遠くに見える灯は何ですか?」

「あれは、人間で言う天国の扉だ。誰か少し開けたんだろう」

「天国、私も見れますか?」

「見たいのか?」

「見たいです!」


 繋いだ手の温もりに、自然と顔が綻んでしまう。

 誰が開けたのか、閉まりきっていない扉を潜り抜け、天国に足を踏み入れた。


「わぁ〜……不思議。太陽もないのに明るいなんて……それに、なんだか穏やかな気持ちになれるんですね」

「ここにいる魂は、ある程度の時間を過ごせば、また地上に帰る。新たな命となって生を得るのだ」

「それじゃ、始まりの国でもあるんですね」

「……そう表現するのは、ベルが初めてだ。ここは、いつだって死者の国だから」

「終わりがあるから、始まりがある。それは花も一緒です……綺麗に咲いても、いつかは枯れて。でも種を残して、また時がくれば芽を出すんです。だから、私がハデス様に惹かれたのは、きっと偶然ではないのかもしれません」


 死者を花で表現するベルは、アスポデロスを美しく歩いた。私の女神は、芯が強く綺麗な心の持ち主だと改めて実感する。


「ハデス様! ここに植物がありますよ? 何が育つんでしょう」

「――触れてみるか?」

「良いんですか? では、少しだけ……」


 ″大きくなぁれ″


 ベルの微かな声を聞いたのだろう。アスポデロスの気が一瞬揺らいだ。

 瞬く間に枝葉を伸ばし、私の背を優に超えた立派な木になった。赤い実が徐々に膨らみ、幾つものザクロが垂れたのだ。


「ザクロだったのか……」

「とっても美味しそうですね。食べても良いですか?」

「ベル、いけない! 良いか? その実を口にすれば冥府の住人となってしまう。地上で暮らし続けたいと願った時、それが叶わなくない……」


 ザクロは、契約・結びつき・不可逆性の象徴とされている。

 いつの日か、私のそばから離れたいとベルが願った時、その手を離してやれなくなってしまう。心のどこかで、まだ『何かを得たときではなく手にした時こそ、その価値を見失ってしまう』この言葉が燻る。私が見失わずとも、ベルがそうなれば私は――


「ハデス様、ごめんね……」


 そうして、ベルが私の目の前でザクロを頬張った。


「甘酸っぱくて、美味しいっ」

「ベル!? なんてことを――」

「ハデス様、私が冥府に来たいって言ったの、そんな甘い覚悟じゃないです。隣にいるって決めたのは、私。それじゃダメですか?」

「……心と言葉が伴わないのは、初めてだ。口では『食べるな』と言い、頭では逆を願った。ザクロの制約は、閉じ込めることじゃない。ベルがここに居たいと言った証明のようなもの、私はそう思っている」

「はい、私もそう思います」


 ベルが地上に出てる間は、寂しいと感じるんだろう。

 行かないでと、口にしてしまう日もあるかもしれない。

 だけど……どんな時も信じて待つと約束する。

 どうか、面倒だなんて思わないで欲しい。


「……愛しいベルが笑っていてくれるなら、私も笑っていられる。どんな涙も私の手が拭うと誓おう。ベル……私が間違ったなら伝えて欲しい。貴女のためならどんな事も直してみせる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ