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トレーシング・ユア・ワールド  作者: あやめ康太朗
第7章 家族

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    対面④

「ちなみに藍代くんは、いつどうやって中梛くんのこと気付いたの?」


 中梛との関わり方についての話が一通り終わった後、ふと創が尋ねた。それまで静かに成り行きを見守っていた藍代は、質問を受けて淡々と答えた。


「気付いたのは一か月前くらい。それまでは、みんなのことをあんまり見れてなかったから」


「見るようになって、気付いたの?」

「うん」


 藍代は、少し中梛の方に目を向けて、そして目を伏せた。


「――よく似てるな、って」



 よく似ている。

 光咲翠と、よく似ている。



 皆の視線が、一斉に、中梛に集まる。それに、彼はたじろいだ。


「んだよ」

「いや……」


 写真に写る幼少期の中梛は、翠と信じて疑えないほど翠とそっくりだったのだ。となると、今も同一人物と間違えるレベルに似ている可能性が高い。


 じっと、中梛の顔を観察する。


 確かに、言われてみれば翠と似ている気もする。元々端正な顔立ちだという印象だったから、見ていると次第に翠に見えてこないこともない。けれど、目の下から顔の輪郭までを覆う右頬のテープと、長い前髪で隠れた目元のせいで、上手く判断できなかった。


「……」


 真剣に、穴が開きそうなくらい食い入って観察する柚たち。気まずそうな顔でその視線を受けていた中梛は、その圧に負けて、大きくため息を吐いた。


「……分かったよ」


 そう言うと、中梛は渋々腕を動かした。


 後ろで無造作にくくっていた、少し長めの髪をほどく。


 目元を隠す長い前髪を、手であげる。


 もう片方の手で、右頬のテープを隠す。


 そして、見た人を震え上がらせて自然と目を逸らさせてしまうような、その鋭い目つきから力を抜く。


「……」


 次第にあらわになっていくその姿。彼の持つ、本来の姿。


 目を疑うような光景に、言葉を失う。



 不良少年じゃない。


 目の前には、息を飲むほど美しいあの『天使』と同じ顔が、彼女ならおおよそしないであろう仏頂面で、そこに存在していた。



「……本当だ」


 夢でも見ているような心地で、柚はつぶやいた。


 似ている、なんてレベルじゃない。

 違うのは、瞳と髪の色だけと言っていいくらいだった。変な言い方になるけれど、同じ絵を違う色で塗ったというか、同じ人物の色違いというか、そういう次元だった。


「何で気づかなかったんだろう……」


 ここまでくると、それが純粋に疑問だった。どうして気付かなかったのだろうか。



「やっぱり、頬っぺたのテープの印象が強いからかな」


 創が興味深そうに言った。


 確かに、彼の顔を見るとき、まず目が行くのは右頬の大きなテープだった。圧倒的な存在感を放つそのテープが、彼の顔自体への印象を薄めている。


「前髪で目も結構隠れてるし、そういうので全体的に顔が隠れているのもあるだろうな」


 創に応じて、真剣に議論を始める勝元。それに続いて、徐々に調子を取り戻しつつある櫟依が言った。


「そもそも雰囲気が違うじゃん。あの光咲翠だよ。似てるかも、なんて思うのがまず無理じゃない?」


「それにムラサキ、何か見ちゃいけないみたいな空気出してるから、じっくり見ることもできなくて気付きにくいのかもね」


 悪気がありそうでなさそうな声で、天瀬が言った。


 彼のまとう雰囲気とその目つき。触れてはいけないような、刃物のような鋭い空気は、彼を直視することを躊躇わせるほどだった。彼の人柄を知った今でも、あの強い目で見つめられると、視線を逸らしたくなってしまう。そのせいで、彼の顔に注目が集まりにくいのかもしれなかった。



「お前ら、黙ってりゃ好き勝手言いやがって」


 顔と髪から手を離して、元通りの見た目になると、中梛が少し不機嫌そうな顔をした。それに、天瀬は「ごめんね」と笑った。


「でも、実際どうなの?」

 謝った直後だというのに、天瀬は尋ねる。


「翠ちゃんと似てること隠すために、前髪とかテープで隠したりしてる? 雰囲気も、翠ちゃんっぽくないのを自分で敢えて作ってるとか。ちょっとくらい意識でしょ」


「……まあ」


 少し歯切れ悪く、中梛は答えた。


「隠そうとしてないって言ったら嘘になる。けど、このテープも雰囲気だとかも、元々は違う目的のためだ」


「そうなんだ。元々目が大きいのに細めてるのも、やっぱりその目的のためにわざと?」

「わざとというか、目的のために初めは意識してやってたら、自然とそうなったって感じだ」

「なるほどねー」


 天瀬は、興味があるのかないのか分からない声を出した。相変わらず遠慮がない。



 つまりは、意識的でも無意識的でも、色々な要素が合わさって、中梛の顔に向けられる注意が散らされていた、ということのようだった。ここまで翠と似ている顔を隠すにはそれでは足りない気がするけれど、それだけ印象や思い込みというものは強力なのだろう。


 それに、人の顔なんて、案外ちゃんと認識できていないものだ。突然、本人がいない状態でその人の似顔絵を描け、と言われたら、ある程度近しい相手でも難しいだろう。



「それでは、結局のところ」


 一華が改めて尋ねた。


「それだけ似ているということは、中梛さんとその光咲翠さんは、生き別れの姉妹かもしれない、みたいなことでしょうか」


「まあ、そんな感じだ」


 中梛が頷いた。以前、父親と二人暮らしだと言っていたから、もしかしたら両親の離婚で離ればなれになったのかもしれない、と思った。


「柚、連絡先はさすがに交換してないよな」

「あ」


 勝元の言葉に、そうかその手があった、と柚は気付く。


 スマホを持ち始めて日が浅いため、連絡先交換、という文化が柚の中にまだ根付いていない。完全に失念していた。


「ごめん、忘れてた」

「……交換が頼める状況ではあったんだな」

「……あ、うん」


 確かに、芸能人とちょっと会ったくらいでは連絡先交換まではいかない。勝元としては絶対ないことを何気なく聞いただけだっただろうに、何か、カマをかけられたみたいになってしまった。



「烈」


 そのときふと、藍代が呼びかけた。名前を呼ばれた天瀬は、露骨にテンションを下げて「何?」と言った。


「スマホ貸して」

「え、嫌だけど。自分の使えば?」

「僕のスマホだとできないから」


 突然そんなことを言い出した藍代に、天瀬は怪訝な眼差しを向けた。手を差し出す藍代の真剣な顔を見て、天瀬は訝しげな顔のまま、自分のスマホをその手にトンと載せる。


「何すんの」

「光咲さんと連絡を取ろうかと思って」

「は?」


 何を言っているんだ、という目をする天瀬を横目に、藍代は中梛の方に近づいていった。そして、柚に手招きする。


 何をするつもりだろう。柚は藍代に従い、彼の傍まで移動する。それを確認すると、藍代は天瀬のスマホを持った手を斜め上に伸ばした。


「撮るよ。二人とも、こっち見て」

「え?」


 急な自撮りに、訳が分からないまま、柚は慌ててピースをする。中梛も、よく分からないまま写真に入り込んだ。


 パシャ、とシャッター音。


「うん、いい感じ」


 撮れた写真を確認して、藍代はつぶやいた。そして、そのスマホで、今度はSNSのアプリを開く。



 画面を覗き込む。表示されているのは、光咲翠の公式アカウントだった。



「この写真をDMで送れば、多分大丈夫」

「え、まさか、光咲翠のアカウントに直接送ろうとしてる?」


 驚いた顔で、天瀬は慌てて画面を覗き込んだ。


「何でオレのでやるわけ」

「僕のアカウント、母親が管理してるから」

「いや、そういうことじゃなくて」


 天瀬は、画面の操作を続ける藍代に、少し呆れた顔を向ける。


「だって光咲翠だよ。オレのアカウントじゃ、さすがに見られないんじゃない?」

「大丈夫。いつどんな連絡が来てもいいように、マネージャーさんが全部チェックしてるから」

「何でそんなことまで知ってんの?」


 そんな天瀬の驚きは無視して、藍代は入力を続ける。諦めた天瀬は、不満げな顔で藍代の様子を見守った。



 しばらくすると、彼は指の動きを止めた。



『お久しぶりです。藍代昴琉です。友人のアカウントを借りて連絡をしています。このような連絡方法になってしまい申し訳ありません』


『あなたに会いたがっている知り合いがいます。返信をお待ちしています』



 丁寧に打ち込み終わった文章を送信する。文章がトーク上に移動する。


「……」


 芸能界から一度姿を消し、つい最近復帰を発表した話題のアイドル・藍代昴琉を名乗る人物からの、藍代昴琉とは関係がなさそうな一般の高校生のアカウントを使用したメッセージ。


 写真があるとはいえ、さすがに胡散臭すぎる。本当に大丈夫だろうか。



「返信来るかな」

「来るよ。絶対に」


 心配を口にした柚に、藍代はきっぱりと言い切った。



「光咲さんも、ずっと会いたがっていたから」

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