第3章 [23]
晩夏月に入ると、サティアナのもとにアーサー第二王子主催の【剣術探究会】から開会の通達が届いた。
この、略して【剣究会】への在籍は会員制とし、アーサーの側近を通じてアーサー本人への申請およびアーサー本人による承認が必要となる。
サティアナの様にアーサー本人からの勧誘で在籍となる者もいるにはいるらしい。
活動内容は剣術と体術の研究といったところであるが、アーサーが以前サティアナに語ったように、彼の様に身体の小さめな剣士がいかにして戦うかを求め己の剣術を研鑽するという所に重きを置いた活動であるため、基本的にはアーサーと同じ様な体格の男子、および女子の剣士が在籍者となっていると言う事である。
なのでそれほど在籍数は多くない。
更に言えば、アーサーとしてはあまり在籍数を増やさず、人目を気にせずに自分自身がサティアナから教えを請いたいと思っているのだった。
サティアナとしても、自宅以外での稽古場所が定期的に確保出来るのは有難かった。
サティアナのクラスメイトではナギア・レンジが申請・承認され会員となっていたので、サティアナは彼女と共に稽古場に指定された場所へ向かった。
場所は、アカデミー裏門近くの運動場である。
周囲の場所から一段下がった所にあるその運動場は、それほど大きくはないが砂地と草地が半々に分かれてきちんと整備されており、何かの運動を行う場所の様にサティアナには見受けられた。
「こんな所もあったんだね。知らなかったなぁ〜。」
「良いところだね!」
シャルロッテを馬車まで送り届けてから来たため、約束の時間まであまり余裕が無かったので、運動場にはすでに10人ほどの生徒達が集まっていた。
「サティアナ、知ってる人いた?」
「うん、2人ほどいるね……。」
「ん?どうしたのサティアナ…緊張してるの?珍しいね!」
「なんだかね、あはは…ナギアは知ってる人いる?」
「私はひとりいる!黄旗隊でお世話になった先輩!ちょっと行ってくるね!」
そう言うとナギアはサティアナの隣から走り去った。
ひとりきりで集団の端に立っていたその生徒のもとへ向かって来たナギアに気づくと、その先輩もナギアを笑顔で迎えた。
そんなふたりの姿を少し遠くで歩きながら見守っているサティアナの視界には、こちらへ向かって歩いてくる美人の姿が入った。
少しうつむきがちに、特に表情もなくサラサラの髪を耳にかけながらこちらへ向かって来る。
ラウラ・ポリッシュである。
サティアナの胸は鼓動を速くするばかりであった。
確実に自分へと向かって来るラウラにどの様な言葉をかけるべきか、はたまた走り寄った方が良いのか、サティアナは全く決められないままラウラと会話出来そうな距離まで来てしまった。
もう初めて視線を合わせた時の様には涙は出ない。
だが、言葉を絞り出すことも出来そうになかった。
なので、きちんと立ち止まり、ただ会釈をした。
「ごきげんよう、デュアルホルダーさん。」
「ご、ごきげんよう、ポリッシュ先輩。」
「ラウラでよろしくてよ。」
「はい。では、ラウラ先輩…」
ラウラの名前を言葉にした瞬間、サティアナは恥ずかしくてたまらなくなり、早口でラウラに告げた。
「ら、ラウラ先輩、では私の事もサティアナとお呼び下さい!」
「デュアルホルダーさんと呼ばれたくないの?」
「それでは長いですし、出来れば…」
「わかったわ。ではサティアナさん。」
「あの、よろしければ、その、サティアナとお呼び下さい。クラスの皆もそう呼ぶので。」
「そう…サティアナ?」
自分の名前を呼ぶラウラに向かってできる限りの笑顔で何度も頷くサティアナであった。
ちなみに、このとき頭が真っ白だったサティアナはこの事をあまり覚えていないのである。
――――――――――
予定時間になるとアーサー王子がオルシュ・テンパーを伴い運動場に現れた。
「皆、良く来てくれた。今日は記念すべき日だ。皆にも礼を言いたいと思う。さて、いきなりであるが、私には個人的に会得したいと思っている剣術がある。それを初回の今日は皆にも見てもらいたい。そして自己紹介がてら皆の感想を教えて欲しいと思っているのだが、どうだろうか?」
「賛成の者は拍手を!」
アーサー王子の投げかけの後オルシュが王子の言葉を補足すると、御前に集っていた者達は一様に拍手をした。
「では、皆からの拍手ももらったので始めようか。」
「アンハードゥンド君、前へいいか。」
オルシュから名を呼ばれたサティアナは軽く一礼すると皆の前へ出た。
サティアナを横に置いて、アーサーがサティアナを皆に紹介し始めた。
「彼女はサティアナ・アンハードゥンド。北方の辺境を守護する英雄の末裔であり、公にはされていないが、彼女自身デュアルホルダーである。彼女はその誇り高き魂に負けない様、幼い頃から武術と魔法の訓練と研鑽を重ねて来た。その過程において、素晴らしい剣術の稽古型を作り上げたのだ。彼女の型を偶然見る機会があり、私はその一度で彼女の剣舞に執心してしまった。私はこの通り身体があまり大きくないが、彼女の稽古型を会得すれば、今よりも強くなれるだろうと確信している。そんな彼女の型稽古を、これから披露してもらおうと思う!」
「…それでは僭越ながら始めさせていただきます。」
サティアナは照れくさい感情を押し殺し、自分の剣を抜き、最初の型を構えるのだった。




