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第3章 [22]

 ―――――


 人知れず苦戦しているシャルロッテの向かい側で、サティアナは考えていた。



(今までは、一連の流れで練った霊気をまとめるところまでしていたけれど、今日は少し趣を変えてみよう。)


 カーティスからの助言を思い出し、サティアナはその日【練る速さ】に着目してみることにした。同じ様な修行ばかりしているとどうしても行き詰まってしまう。たまには趣向を変えてみるのも良いかも知れない、と。



 まず、自分の中に潜り、霊気の糸口を探す事。

 これはもう結構すんなり出来る様になっていた。


(ここから更に時間を短縮するとしたら。…そうだな、糸口の場所を決めておけると良いのね。潜った先に霊気の糸口がすぐ在れば良い。もしくは、糸口のそばに潜る?そんな意識かしら?)


 そんな事が出来るのかどうか、サティアナは早速検証してみることにした。何度も何度も繰り返し潜る。潜っては糸口を探し、繰り返す事で少しずつコツをつかもうとしていた。

 何度も何度も繰り返し潜る事は、それだけで精神を削る。現実世界に戻った瞬間に、それは疲労感として体現されるのだった。


(うん…本当に何となくだけど分かってきたような気がする。でも、けっこう疲れたから少し休もう。……潜る前から糸口の場所が分かっていればいいんだけどなあ。)


 あれこれと考えながら休憩をとっていると、辺りが異様な雰囲気に包まれた瞬間神殿内の祭壇が光り、それとともにサティアナは意識を失った。


 神殿内にいたクラスメイトと教師たちは、過去に同じ様な事を経験していたので皆一様にサティアナを見守っていたが、サティアナがまるで操り人形の様に起き上がったのを見た瞬間、全員が少なからず警戒態勢に入ったのだった。


 瞼を閉じたまま、ゆらゆらと不自然に歩き回るサティアナをその場の全員が遠巻きにして見ていた。すると、ピタリと歩を留めたサティアナは主担任であるアアレックス・レイズの方を向き話し出した。


「『――みな、そう警戒するものでないぞ。』」



 どことなく脳に直接語りかけて来るような声を聞いた者は皆体が固まる。サティアナは次にシャルロッテの方を向くと、彼女に話しかけた。



「『――そこな王女よ、我がすこし、お前に()()()()()と云うものをくれてやろう。』」



「は…い…?」

 シャルロッテは固まったままの声帯を何とか動かした。



「『――王族とは、実に哀しいのう。だれもお前に説くことが出来なんだ。代わりに我が、説いてやろう。』」



 教師たちは目を見開き、シャルロッテは少し悲しい顔をした。



「『――よいか、お前。王女を、捨てよ。今はそれが邪魔しておる。捨て去った先にある魂、つまり、己との対話である。むずかしかろう。だが、あの御方がお前を選んだのだ。やり遂げるよりあろうまい。』」



 シャルロッテは藁をも摑む思いで必死に聞いた。

 一言一句忘れぬ様に。



「『―――ふむ、良いぞ。その気概が今まで無いのじゃ。さて我はもう往く。こやつが起きたら水を飲ませてやれ。』」



 そう言うと、サティアナはその場にゆっくりと寝転がった。


 しばらくして副担任のミッシェル・アニールがサティアナに近づき、上半身を抱き上げるとサティアナは目覚めた。



「―――あれ?私、寝て…?」



「サティアナ、大丈夫ですか?おそらく神が貴女に降りていたのではないかしら。」



「なるほど、そうでしたか…。あの御方、何かをなさったのですか?」



「ええ…そうねぇ…。シャルロッテ様に、()()()()()をくれてやる、と仰せでしたわ。ふふふ。」



「おせっかい…?何のことです?…ああ…それにしても、アニール先生、とても良い香りがしますねぇ…」


 上半身を抱き上げられうっとりしているサティアナを抱き上げる手を解くと、アニール先生は言った。



「まったく…その様子ならもう平気ですね。さあ、お水を飲んでください。」



 去り際の神に言われた通りに、アニール先生はサティアナに水筒を差し出した。



 サティアナはそれを受け取ると、ごく、ごく、ごくと勢いよく水を飲んだ。

「ふう…美味しい!」



「具合はどうですか?」



「はい、お世話をおかけしました。もう大丈夫です。」


 立ち上がって、体を動かすサティアナを見て教師たちは安堵したのであった。



「サティアナさん、先ほどの君には神が降臨されていたと言う事で良いか?」

 レイズ先生がサティアナに問う。


「はい。おそらく私の主でありましょう…あの御方はなんと?」

 サティアナが聞き返す。するとレイズ先生は珍しい事に少しばかり返答を濁した。


 その様子を見て、シャルロッテが代わりに話し出した。


「貴女の神は、わたくしの不安を払拭しようとなさってくだされたのです。…わたくしが王女である事に囚われ過ぎており、それが修行の障害となっているのだと…。今一度、良く思案しなければいけませんね。神のおっしゃられた意味を。サティアナも一緒に考えてくれますか?」



「はい!もちろんです、シャル様。」



 サティアナは笑顔でシャルロッテに告げたのだった。












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