08 スキル
バンプは二度目の戦闘を終え、初めてのレベルアップを果たした。
これは、普通ではありえない事である。
レベル1から2に上がるまでには、最低でも10匹のゴブリンを倒さなくてはならない。
ようは、殺し合いを10回しなくてはならないのだ。
このテイマー学園に入学する者たちは、子供の頃から何らかの戦闘術を学んでいるが、実戦については大半が未経験である。
そのためパーティを組んで、パーティの戦力の半分以下に相当する、ゴブリンの群れを狙う。
たとえば10人のパーティなら、5匹以下のゴブリンといった具合に。
そうすると、比較的安定して勝利を得ることができるのだが、勝利時の経験値の分け前も減り、ひとりあたりでゴブリン0.5匹ぶんとなってしまう。
いくら安全な戦いができるとはいえ、レベル2になるためには、20回もの戦闘をこなさなくてはならないのだ。
しかしバンプの二度目の戦闘では、たったひとりで5匹ものゴブリンを倒した。
『連続殺傷』のボーナスも入って、一気にレベルアップ……!
しかも、レベルアップ時の身体の輝き方が、1レベル上昇のそれではなかった。
もしや、一気に複数レベルアップ……!?
バンプはポケットをまさぐって、ポケットにある学生証を取り出す。
木目の向こうに浮かび上がっていた、レベルは……。
『4』っ……!
一気に、3レベルもアップ……!?
でもバンプは、にわかには信じられなかった。
彼はテイマー学園に入学してからというもの、さんざん酷い目にあってきたので、疑心暗鬼になっていたのだ。
そこでバンプは、『休憩所』に行って確かめてみることにした。
休憩所とは、『ゴブリンの森』内に複数設置された安全地帯のことである。
そこには装備品や軽食を売る店があり、簡易医療施設や休憩スペースもある。
『学外功績』をあげるために励む生徒のための、憩いの場所であった。
ちなみにではあるが、休憩スペースについても格差がある。
上位ランクのテイマーは、高級ラウンジの中。
中位ランクのテイマーは、簡単な屋根つきのフードコート。
下位ランクのテイマーは、野ざらしのベンチ。
例によって最下位ランクであるバンプの居場所などどこにもないのだが、行かざるを得なかった。
なぜならばここには、『ステータス・クリスタル』があるからだ。
『ステータス・クリスタル』というのは、自分やペットの状態を確認できる水晶玉のこと。
その他にも、レベルアップ時に獲得できるスキルポイントを使って、ペットに技能を覚えさせることができる。
休憩スペースの一角にずらりと並べられた、台座に乗せられた水晶玉たち。
そこにはすでに先客の生徒たちがいて、水晶玉を撫でまわしながら瞑想に耽っている。
バンプも空いている台座に近づくと、ちょうど腰の高さくらいにあるボーリング玉のような水晶玉に手を置いた。
そして目を閉じる。
瞼の裏に、伝映じみた映像のようなものが浮かび上がってきた。
それは、自分の全身のホログラムのようで、身体の中心を軸にしてゆっくりと回転している。
横には文字があって、現在のステータスが示されていた。
バンプ・シルヴァーリーフ
ランク G
レベル 4
――やっぱり、間違いじゃなかった……!
バンプは心の中でつぶやいた。
そして、やはり自分のやり方は間違っていなかったんだと実感。
いままでに費やした『斧を研ぐ』時間は無駄ではなかったんだと、久しく忘れていた嬉しさがこみあげてくる。
――この調子でいけば、3ヶ月でレベル9になるのも夢じゃねぇ……!
バンプは今すぐにでもここを飛び出して、ゴブリン狩りを再開したい気持ちでいっぱいになった。
しかしはやる気持ちを抑え込み、水晶玉の表面を手のひらで撫でる。
すると映像は横にスクロールして、今度はペットのステータスになった。
無名
動物界 昆虫網 アリンコ科
アイアンメイデン
『無名』というのはバンプが名前を付けていないため、そういう表示になっている。
名前表示の下には、ペットの分類と、種族名が書かれている。
――『アイアンメイデン』……!
最希少種のアリンコじゃねぇか……!
途端、バンプの頭の中には、あふれんばかりの『アリンコ情報』が蘇っていた。
彼は、幼少のころにアリンコに夢中になり、図書館のアリンコ関連の本を、手当たり次第に読みあさった時期がある。
まわりからは、『アリンコ博士』と呼ばれるほどの知識量にまでなっていたのだが……。
それが兄のチャンプの耳に入ってしまい、
「カァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! 『脆弱は敵』ッ!! 脆弱なる者のことなど、頭の隅に置くことすらまかりならんッ!! いまから俺様が、貴様の頭の中に巣食う、『アリンコ』を追い出してやるッ!!」
と、顔の形が変わるくらいまで殴られてしまったことがある。
もちろん殴られたところで、知識を追い出すことなどできようはずもないのだが……。
バンプはそれ以来、アリンコのことを頭の奥底に封じ込め、口にすら出さなくなってしまった。
そして長き時を経た、いま……。
『アリンコ』たちは息を吹き返すように、這い出してきて……。
バンプの脳内を、アドレナリンのごとく、駆け巡ったのだ……!
彼の頭の中には、『アリンコ図鑑』という本で見た、『アイアンメイデン』の項目があった。
もうソラで暗唱できるほどに何度も読み返した、その内容はというと……。
――アイアンメイデン。
アリンコの一種であるが、目撃例はほとんどなく、最希少種のひとつ。
女王のみの種で、働きアリは存在しない。
すべてのアリンコを従えることができ、他の種類のアリンコを女王ごと支配する性質がある。
技能を得ることにより、有翅となることができる。
……初めてコイツを見たときに、アリンコにしては大きめだと思っていたが……。
コイツ、女王アリだったのか……。
しかも女王アリの中でも『女帝』と呼ばれるほどの、アイアンメイデンだったとは……!
バンプは驚きつつも、水晶玉を操って、アイアンメイデンの技能一覧を開いてみた。
所持スキルポイント 4
キャリアー(0)
働きアリの運搬能力を強化する
ストライダー(0)
働きアリの行動能力を強化する
バイト(0)
働きアリの大顎を強化する
フォーミックアシッド(0)
働きアリの蟻酸を強化する
ウォーターレジスト(0)
働きアリの水耐性を強化する
ウイング(0)
自身に羽根を生やす
スキルポイントというのは最初に1ポイントが与えられており、レベルアップごとに追加で1ポイントずつ増えていく。
そのポイントを割り振ることにより、技能の獲得が可能となる。
技能の項目名の横にある、括弧の数字は、現在費やされているスキルポイントである。
バンプはこのスキルツリーを初めて開いたこともあって、スキルポイントは手付かずで、まだすべての項目が0ポイントだった。
バンプは技能についての感想を漏らす。
――さすがは『女帝』と呼ばれるほどのアリだけあって、ほとんどが働きアリの技能ばっかりだな。
自分に作用するのはひとつしかないうえに、羽根を生やすって……。
となると、働きアリを得なきゃ意味ないんだが……。
いくらアリンコとはいえ、2匹目のペット飼い慣らすのは、今のレベルじゃ無理だろうな。
テイマーというのは、『孵化の儀式』で孵ったペットとは、最低でもレベル9までは付き合わなくてはならない。
レベル9になると『飛翔の儀式』が受けられる。
そこではいくつかの選択をしなくてはならないのだが、与えられたペットと決別することもできるのだ。
その場合、別のモンスターを自身で調教することで、新たなる相棒とすることができる。
ただし、レベルは1に戻るうえに、ペットとしての基礎能力は、卵から孵ったものより劣るとされている。
逆に決別せずに、与えられたペットと付き合っていくと決めた場合は、そのペットが生涯の相棒となる。
そしてレベルが上がることにより、追加のペットを調教できるようになるのだが……。
それはどんなに弱いペットであっても、最低でもレベル50からとされている。
しかしバンプの場合は、追加のペットが得られたとしても……。
アリンコが、たったの1匹増えるだけ……!
……そう、バンプ自身も思い込んでいた。
しかしふと、技能一覧の項目が、まだ下のほうにもあることに気付いた。
水晶玉を下から上に撫であげて、スクロールさせてみると……。
プラトーン(0)
制御できる働きアリの数を増やすことができる




