02 アリンコ
「おうっ!」
威勢のいい返事で、祭壇への階段をドスドスと駆け上がったのは……。
シルヴァーリーフ家の次男、『ダンプ・シルヴァーリーフ』。
大柄な身体に坊主頭で、幼い頃はガキ大将であったであろうことが容易に想像できる粗暴な風貌。
特注サイズの制服のポケットから取り出した、ダチョウの卵くらいの大きな卵を、ボールでも扱うように祭壇にゴトンと置いた。
卵にはすでに、一筋のヒビが入っている。
このヒビこそが、『テイマー学園』に入学するための資格のようなものであった。
聖堂主の口から、静かなる祈りの言葉が紡ぎ出される。
すると、ひとつだったヒビ割れから、植物が根を張るように細かいヒビが生まれる。
やがて、パズルのピースがこぼれ落ちるように、卵の殻がパラパラと剥がれ落ちはじめた。
そして、次の瞬間、
……パァァァァァァァァァァァーーーーーーーンッ!!
弾けるように、鈍色の輝きが飛び出した。
祭壇の下で注目していた少年少女たちは、声を揃える。
「あっ、あれは……!」
同時に、ダンプ少年の頭上にあった水晶板に、生まれ出でた存在がアップで映し出された。
それは、鋼鉄の鎧をまとったかのような、小型犬くらいのサイズの、サイのような動物。
水晶板にはテロップのような文字が現れていた。
『アイアンライノ』 ランクD
ざわめきが走る。
「す、すげえっ! いきなり『アイアンライノ』かよっ!?」
「パワーなら最強クラスのモンスターじゃねぇか!」
「さすがシルヴァーリーフ家の次男だけあるぜ!」
「決めた! 俺、ダンプ様の子分になる!」
ダンプ少年自身も結果には満足だったのか、大きく頷いていた。
生まれたばかりの『アイアンライノ』を持ち上げ高く掲げて、壇上から見せつける。
「どうじゃ! これがワシのアイアンライノじゃ! ワシはこいつで、この学園のてっぺん取ったる!」
拍手と野太い歓声が巻き起こる。
すでに新入生の男子たちの心は、すっかりわし掴みにされているようだった。
「それでは次に、シャンプ・シルヴァーリーフ君」
次に聖堂主から呼ばれたのは、またしても噂の3人組のなかのひとり。
「はい」
落ち着いた返事とともに、祭壇への階段を、将来を約束された花形スターのように静々とのぼりつめたのは……。
シルヴァーリーフ家の末っ子、『シャンプ・シルヴァーリーフ』。
細身の身体に、透き通るような白い肌にサラサラの長髪を沿わる、中性的な美少年であった。
特注デザインの制服のポケットから取り出した、白くて丸い卵を、チェスの駒のように祭壇にコトリと置く。
祈りの言葉によって、そこから生まれ出でたのは……。
『ティアラスネーク』 ランクD
ダイヤモンドをちりばめた女王の王冠のような、美しい白蛇であった。
まだ子供なので、つぶらな瞳で実に愛らしい。
シャンプはその蛇を腕に沿わせ、王冠のように頭に乗せた。
そして新たな王となったかのように、下々の者たちに向かって、
「ダンプ兄さんが力でこの学園を支配しようとするのなら、僕は美しく優雅に、この学園を手に入れてみせる。みんな、この僕のために力を貸してほしい」
拍手と黄色い悲鳴が巻き起こる。
すでに新入生の女子たちの心は、すっかり絡め取られているようだった。
「それでは次に、バンプ・シルヴァーリーフ君」
三番目に聖堂主から呼ばれたのは……。
噂の3人組のなかの、最後のひとりであった。
「ああ」
あまりやる気のない返事。
最後の少年は、銀色の無造作ヘアーをボリボリと掻きむしり、気だるそうな様子で登壇する。
次男のような特出した力強さも、末っ子のような絶世の美しさもない。
しかし注目度においては、他の兄弟を遙かに凌駕していた。
「おい、アイツが……!」
「シルヴァーリーフ家の三男……『バンプ・シルヴァーリーフ』……!」
「今回入学した三兄弟のなかで、いちばんの天才だそうだ!」
「ああ! テイマーとしてかなりの能力があるらしいぞ!」
「ってことは、卵から出てくるのも、相当なモンスターに違いないな!」
「ああ、シルヴァーゴースト超えもあるかもしれない!」
「シルヴァーゴースト超え!? ああん、素敵っ!」
「わたしもバンプ様のペットになりた~いっ!」
新入生すべてから羨望のまなざしを集めながら、バンプは胸ポケットから取り出したピンポン球のような卵を祭壇に預けた。
祈りの言葉の間、新入生たちは何度も固唾を飲んでいた。
瞬きをも忘れ、ヒビ割れていく卵をじっと見つめていた。
他人の卵には興味のなさそうだった次男と末っ子も、この時ばかりは釘付けになっている。
みなの期待が最高潮にまで達したところで、卵がパカンとふたつに割れた。
「ああっ!?」と驚愕が起こり、水晶板には卵の半片をアップで映し出される。
「な、なんだ……!?」
「なにも、入ってないぞ……!?」
「ま、まさか……!? あれは、『インビジブル』っ!?」
「ええっ!? 目に見えないから野良では捕まえることができず、卵から手に入れるしかないっていう、伝説の超レアモンスター!?」
「や、やべえっ!? もしそうなんだったら、もうシルヴァーゴーストどころじゃねぇ! ランクもDどころじゃねぇぞっ!? 一気に生徒会役員の仲間入りじゃねぇか!」
聖堂は騒乱に包まれた。
聖堂主も信じられない様子で、目を見開いている。
奇跡ともいえるガチャを引き当てたというのに、バンプは当たり前のように、それどころか少し物足りないかのように、肩をすくめていた。
「まあ、俺くらいの天才テイマーになれば、伝説のレアモンスターのほうから仲間にしてくれとすがってくる。これはほんの、序の口みたいなもんだ」
余裕しゃくしゃくで振り返った彼の眼下で、驚愕が噴出した。
誰もが引きつった顔で、水晶板を指さしている。
「お、おい、見ろよっ!? あ、アレ……!?」
「きゃあああああっ!? な、なにアレっ!?」
皆の様子がおかしかったので、バンプはいぶかしげに祭壇のほうに振り返り、仰ぎ見る。
水晶板に映し出された卵の殻から、米粒くらいの小さくて黒いのが、ちょこんと顔を出しており……。
その上に被さっていたテロップには、なんと……!
『アリンコ』 ランクG
驚愕と羨望に彩られていた、テイマー学園の入学式。
しかしいまや、嘲笑と侮蔑に塗り替えられていた。
「あっはっはっはっ! アリンコだって! アリンコだって!」
「ぎゃはははははっ! ようは、ただのアリじゃねぇか! モンスターですらねぇ! ただの虫けらだ!」
「いひひひひひひっ! しかもGランクだなんて初めて見た! Fランクが最低だと思ってたのに、まだ下があったなんて!」
「ぐははははははっ! そりゃそうだろ! アリンコなら、最弱のモンスターでも簡単に踏み潰せるからな! 最弱のさらに下だから、超最弱だっ!」
「うははははははっ! アリンコを下僕にしてるヤツなんて見たことないから、超レアには違いないぜ!」
ひとしきり晒し者になったあと、バンプは新入生たちの一番後ろ、聖堂の隅っこに追いやられた。
この学園では、所持しているモンスターによってヒエラルキーが構成され、扱いが変わる。
先ほどまでは、名門テイマーの家柄ということで最前列だったのだが、Gランクのモンスターを引き当てた途端、扱いは地の底に落ちた。
このことに一番喜んでいたあのは、列の最後尾にいる、Fランクモンスターを引き当てた生徒たち。
「へへ、Fランクなのは覚悟してたが、まさかそれより下ができるとはな……」
「上位のヤツらの特権だった『イジメ』が、まさか俺たちにも手に入るとは……」
「ああ、なんたってこの学園では、下位ランクのヤツは上位のヤツに何をされても、文句は言えないんだからな……」
「これからシルヴァーリーフ家のヤツらにムカついた時なんかは、アイツでウサ晴らしできるから、最高だぜ……!」
わざと聞こえるほどのニヤニヤ笑い。
急転直下のバンプはわけがわからず、ただただ震えるばかりであった。




