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15 蟻の門渡り

 このクラスの番長、プギーマンはマッチ開始早々、見えないアッパーカットをくらったみたいに飛び上がり、



 ……ズダァァァァーーーーーーンッ!!



 巨体をしたたかに、床に打ち付けていた。

 そして股間を押えたまま、釣り上げられたばかりの魚みたいに、激しく身体をわななかせる。



「プギャアアアアーーーーーーッ!? いでえいでえいでえいでえ!? いでえよぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!?!??」



 毒を飲んだセイウチのごとく暴れ回るプギーマンに、相棒のウリボウも困惑しきり。

 ペットは主人からの命令がなければ、なにもできないのだ。


 それでもなんとかしようと、彼は主人の元へと駆け寄り、顔を舐めて正気に戻そうとするが……。

 主人の転がりに巻き込まれ、いっしょになってゴロゴロしている。


 リングの外のクラスメイトたちは唖然としていた。



「な、なにが起こったの……!?」



「ゴミ野郎が手を握りしめたとたん、プギーマン君が苦しみはじめた……!?」



「まさか本当に、魔法を使ったっていうのか!?」



「でも詠唱がぜんぜん無かったわ! 詠唱がない魔法なんてありえないでしょう!?」



「でも、見て見ろよ、ゴミ野郎の手をっ!」



 誰かの一言で、かざしているバンプの手に視線が集中する。

 バンプは期待に応えるかのように、軽く握った拳に、グググ……! と力を込めると、



「プギャアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?!?」



 連動するかのごとく、エビ反りになるプギーマン。

 クラスはよりいっそうざわめいた。



「や、やっぱり……! アレが、ゴミ野郎の技なんだ!」



「ええっ!? 拳を握りしめたら股間が痛くなるだなんて、いったいどんな技なのよ!?」



「わ、わからん! わからんけどきっと、プギーマンは掴まれてるんだ……!」



「掴まれてるって、なにを!?」



「き……キ○タマを……!」



 その一言に、女子の間に「キャーッ!?」と悲鳴が駆け巡る。

 男子はまるで我が事のように、顔を歪めていた。


 ……さて、タネ明かしはするまでもないだろう。


 バンプはプギーマンとの挑発合戦の間に、密かにアリンコたちを、潜入させていたのだ。


 プギーマンの、いや、男としてもっとも大切な……。

 もうひとつの『心臓』ともいえる、器官に……!


 それでも、一匹に二匹ならたいしたことはない。

 しかし、小隊(プラトーン)クラスの数となると、ひとたまりもない……!


 番長の股間は、まさに『蟻の門渡り』となっていたのだ……!


 激痛のあまり、顔が赤くなったり青くなったりしているプギーマン。

 ドスンバタンとのたうち回っている彼に向かって、バンプは言った。



「どうだ、ブタマン野郎。降参か?」



「プギイイッ!? だっ……誰が! 誰がテメェみたいなゴミ野郎に、降参なんか……!」



「そうか、ならもっと苦しめ」



 バンプがグッ、と拳に力を込めると、



「プギャアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」



 まるで鞭で打たれているかのように、悶絶するプギーマン。



「やせ我慢もいいが、これ以上続けると、一生ダメになっちまうぞ」



 ……ググッ!



「ヒグブギャァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?!?」



 ビビクン! とブリッヂで激しくのけぞるプギーマン。

 それは勢いのあまり、宙に浮いてしまうほどであった。


 しかもそれがトドメとなってしまったのか、ピクピクと痙攣し、虫の息となってしまう。


 バンプは拳の力を緩めると、しゃがみこんで……。

 彼にだけ聞こえるように、そっとささやきかけた。



「……よし、お前の辛抱強さに免じて、ひとついいことを教えてやろう。痛みから逃れるには、まずその痛みを確認するのが大事なんだ。痛いところをしっかり観察すれば、対策もわかるからな」



 その一言で、茫洋としていた番長の瞳に、光が戻る。

 両の眼を、カッ! と見開くと、



「プギッ! マッチの最中に敵に塩を送るとは、バカなヤツめっ! 技の正体がわかれば、テメーなんざ怖くもなんともねぇぜっ!」



 プギーマンはさっそくズボンをずり降ろし、パンツに手をかけようとしたが、



「キャアアーーーーーッ!?」



 黄色い悲鳴によって遮られてしまった。

 プギーマンは激痛のあまり忘れていたが、ようやく思い出す。


 いまリングの外には、大勢のクラスメイトがいて……。

 自分の情けない姿を、これでもかと見られていることに……!



「プギーマン君がいきなり、ズボンを脱ぎはじめたわ!?」



「それだけじゃないわ! パンツまで脱ごうとしてる!」



「いくら痛いからって、マッチの最中に脱ぎはじめるだなんて……恥ずかしくないのかしら!?」



「痛いのにかこつけて、なにか変なことをするつもりなのよ!」



「やっ、やだぁ、最低っ!?」



 プギーマンはすっかり『女の敵』になっていた。



「プギイッ!? ち、違うんだ! これは……!」



 彼は弁解しようと、ズボンを脱いだままアワアワと女子たちに這っていく。

 そのビジュアルは、まさに『変態』……!



「おいおい、お前の相手はそっちじゃないぞ、こっちだ」



 バンプが再び、『締め付け』を再開すると、



「メゴガギブギャァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?!?」



 地獄の痛み、ふたたびっ……!

 それは男の尊厳を、理性を吹っ飛ばすほどのものであった。



「プギッ!? プギッ!? プギイイイイイイーーーーーーーーーーーーッ!?!?」



 彼は焼けた鉄板の上に素足でいるかのように、狂った踊りを踊りながら……。

 最後の砦であったパンツを、薄皮のような理性とともに、力まかせに引きちぎってしまった……!


 悲鳴が交錯するなか、白日の元に晒されたのは……。

 風船のように膨れ上がった、男の象徴……!


 そしてとうとう、決壊してしまった。



「グルブギャヘムギギェグリュゴギュブリュビギィィイィッィイッィィィーーーーーーーッ!?!?」



 彼は暴走機関車のように暴れ出し、教室はパニックに。

 逃げ惑うクラスメイトのなかで、バンプは肩をすくめていた。



「おい、ブタマン野郎。あそこにいいものがあるぞ。あそこに飛び込んだら、腫れもおさまるんじゃないか?」



 痛みと屈辱、そして頭に血が上りすぎて、視界がぼやけているプギーマン。

 耳もキンキン鳴りっぱなしで、もはや彼には誰からの助言かも判別がつかずにいた。


 しかも、バンプが指さしていたのは、教室の外の中庭にある、池……!


 もはや正常な判断ができなくなってしまったプギーマン。

 オーバーヒート寸前のエンジンのような絶叫をあげ、池めがけて一直線。



「ゲルギュバルギュギャッ! プギュルギリギュギャアギュアッ!! ピギィィイッィイィーーーーッ!!」



 ……ガシャァァァァァァーーーーーーーンッ!!



 教室の窓ガラスをブチ破ってもなお止まらず、赤い布を目にした牛のように、そのままダイブっ……!



 ……ドッ、パァァァァァーーーーーーーンッ!!



 高くあがる水しぶき。

 中庭のまわりにある校舎の窓から、よそのクラスの生徒たちも、何事かと一斉に顔を出していた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 他の作品と違って主人公が悪意を持って相手を倒すのが良いと思います [気になる点] 相手の急所を遠慮なく狙っていくスタイルは嫌いじゃないです [一言] 主人公が手を降さないで勝手にざまぁされ…
[一言] 女子の敵に認定された上に他クラスに醜態を見られたのなら自主退学しそうですね。うり坊を取り上げられてからの強制退学もあるかな。
[一言] ああ、玉がやられたんだな……ブ『タマ』ン野郎のタマが……はい、ある……
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