16 飛翔
「プギイイイッ!? 助けてくれぇぇぇぇーーーっ! 俺は泳げないんだぁーーーーーっ!!」
中庭の池に飛び込んでしまい、アップアップと溺れるプギーマン。
バンプのクラスメイトたちは窓際に集い、快哉を叫んでいた。
「見ろよ! プギーマンのやつ、溺れてやがる!」
「あんなにイキがってたクセに、まさか泳げないとはなぁ!」
「そのうえ股間を丸出しにするなんて、最低ね!」
「クラスの恥ってのは、ああいうブタ野郎のことをいうんだ!」
「その点、バンプくんは違うよなぁ!」
「そうそう! ブタ野郎から私たちを救ってくれたのよ!」
「ブタ野郎と戦ってるときのバンプくん、カッコ良かったなぁ!」
「今日からこのクラスのリーダーは、バンプくんだ!」
いまだリングの中に佇んでいたバンプを、わあっ! と取り囲むクラスメイトたち。
「……お前ら、手のひらクルックルだな……」
バンプはすっかり呆れた様子だったが、クラスメイトたちはおかまいなし。
「よぉーし、クラスのヒーロー、バンプくんをみんなで胴上げしようぜ!」
クラスのお調子者が音頭を取ると、みんなしてバンプを持ち上げようとする。
「そういうのはいいって。それよりもお前ら、言ったことを忘れるなよ?」
「えっ? 言ったこと、って……?」
それからしばらくして始業のチャイムがなり、担任の教師がクラスに入ってきた。
事なかれ主義で有名な彼は、バンプへのイジメも登校拒否も黙認してきたのだが……。
目の前にあった光景には、さすがにギョッとなってしまう。
「お前ら、なんでみんなして、地べたに座ってんだ……!?」
バンプのクラスにはもう、机や椅子などという格差はない。
みなが床に直接座っていて、なぜか正座をしている。
なかでも、クラスをシメていたプギーマンは、特に異質であった。
彼は全身ずぶ濡れで、ひたすら身を固くして「ウッウッ」と嗚咽を漏らしていた。
そして担任教師は、さらなる異質に気付く。
いつもは空白だった教室のど真ん中にいる、ひとりの男子生徒の存在を……!
その男子生徒だけが、あぐらをかいており、不敵な上目遣いで教師を見ていた。
教師はひきつった笑いを返す。
「き、キミは、バンプ君……! よ、ようやく登校する気になったんだね、よかったよ!」
「先生、どうやらご心配をおかけしたみたいで……でもこの通り、今日から復帰させてもらいました。それで俺がクラスのリーダーになったみたいなんで、この通り、みんなも俺に合わせてくれたみたいです」
「そ、そうなのか……。ど、どうやら、みんなとは仲良くなれたようだね。で、でも、ほどほどにするようにね……ハハ……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからしばらくして、ついに『飛翔の儀式』の日がやって来た。
『孵化の儀式』と同じく、一同に集められた新入生たち。
彼らはランクの高い者順に並んでおり、名前を呼ばれた者から登壇する。
そして、聖堂主向かって宣言するのだ。
『ソリスト』『アサンブル』『ケストラー』『アボーション』のうちのひとつを。
いずれも、自分はどんなテイマーになるのか、という宣言である。
『ソリスト』というのは、ひとつのモンスターに特化したテイマー。
これを宣言した場合、現在所有しているペットと同種のモンスター以外はテイミングできない。
ようは、モンスター1種限定のスペシャリストになるということである。
スペシャリストになった場合、そのモンスターの力をより引き出すことができる。
単体での能力は多種をテイミングするテイマーより高くなり、専用スキルも得られる。
『孵化の儀式』で孵ったモンスターが、特に強力な場合に、この宣言をする者が多い。
例をあげると、バンプの兄であるチャンプが『ソリスト』である。
つぎに『アサンブル』。これは種族を限定したテイマー。
たとえばオオカミ系のモンスターを所有しているテイマーがこの宣言をすると、オオカミ系というカテゴリに限り、新しいペットをテイミングすることができる。
『孵化の儀式』で孵ったモンスターがいまいちだったとしても、同じ種族の上位に強力なモンスターがいる場合、この宣言をする者が多い。
そして『ケストラー』は、一切の限定をしないテイマー。
自身の技量があれば、真逆の属性や種族のモンスターを同時に操ることができる。
弱点を補いあえるモンスターたちをテイミングできれば、いちばん攻守のバランスが良い。
しかしモンスター固有の能力は、前者のふたつに比べていちばん少ないので、特徴のないテイマーともいえる。
最後は『アボーション』。
これは『孵化の儀式』で得たモンスターの所有権を破棄し、別のモンスターから直すというものである。
これは言うまでもなく、『孵化の儀式』で孵ったモンスターがハズレだった場合の、やり直し用。
テイマーとしてのレベルは1に戻り、別のモンスターは自分でテイミングしなくてはならない。
今回の新入生たちの中でも、何名かはこの選択をしていた。
最低である『Fランク』のレッテルを貼られた者たちは、特に。
そして、『飛翔の儀式』に参加した多くの者が思っていた。
アイツも、そうであろうと……!
『飛翔の儀式』は終盤を迎え、いよいよ最後のひとりとなった。
「それでは、バンプ・シルヴァーリーフ君。前へ」
しかし、返事はなかった。
「バンプ君? いないのですか? いたら返事をして、登壇しなさい」
すると、一拍遅れた返事のように、
……ズバァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
聖堂の入り口の扉が、蹴破るように開け放たれた。
外から差し込む光とともに立っていたのは、影。
それは、比喩ばかりでもなかった。
コツコツと大理石の床を鳴らして入ってきたのは、フードつきの黒いコートに、黒いワイシャツ、黒いズボン。
全身黒づくめの、あの少年であった。
死神のような装束の腰からは、二本の大型ナイフの柄が飛び出ている。
そのナイフは、刀身の途中で、くの字型に曲がっていた。
それは単体で見れば、ブーメランのようであったのだが……。
二刀を構えている姿は、まぎれもなくある生き物の部位を想像させた。
そう、『アリンコの大顎』っ……!
等身大アリンコのような少年は、ゆっくりと階段をあがり、聖堂主の前に向かった。
聖堂主は驚きを隠せなかったが、コホンと咳払いをひとつして、厳かに口を開く。
「……バンプ・シルヴァーリーフ君。女神の前で、宣言するのです。あなたはどのようなテイマーになって、これから『飛翔』するのかを」
バンプはくいっと唇を吊り上げ、不敵な笑みをつくる。
くいっと親指を立てて、虚空を示していた。
よく見るとそこには、虫が浮いていた。
それは一寸ほどの、ちいさな虫であったが……。
女王のような風格を持って、空にはばたいていた。
「俺は……コイツと……。『アイ』と生きていく……! コイツとともに、この学園の、てっぺんを取ってやる……!」
このお話はここで完結とさせていただきます。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました!




