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13 ひさびさの登校

 バンプの人生の目標に、新たなる項目が加わった。



『シルファを、チャンプの手から取り戻す』……!



 シルヴァーリーフ家の長男、チャンプは女を人間と思っていない。

 自分専属になったメイドに犬の首輪をさせ、普段は鎖まで付けて引き回しているあたり、ペット同然だと思っているのだ。


 それは、強者を重んじ弱者を蔑み、男尊女卑を旨とするシルヴァーリーフ家の家訓に沿っている考え方ではあるのだが……。

 バンプはどうしてもそれが受け入れられなかった。


 妹のリップも名目上はメイドだったのだが、バンプは誰も見ていないところでは家事を手伝ったりもしていた。

 女に命令する以外の言葉を掛けるなどもっての他とされていたのだが、幼なじみのアクシオンとも気さくに話した。


 今は勘当同然の身であるので、もう人目を気にする必要もない。

 親兄弟になんと言われようとも、自分の考えを貫き通すことを決めたのだ。


 アリンコが好きであるように……。

 女は男と同じ、人間であると……!


 ずっとメイドとして仕えてくれたシルファを……。

 ひとりの人間として自由にしてやりたいと、誓ったのだ……!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 バンプは次の日に、久しぶりに学園に登校した。

 ワンたちに絡まれた際に、マッチを受けてくれたら登校する、という約束を守ってのことだ。


 実に三ヶ月ぶりに訪れたクラス。

 ツギハギだらけの制服で現れたバンプは、クラスでも注目の的だった。


 例によってバンプの席はなく、床に直接座る形だったのだが……。

 大きく違っていたのは、周囲にいた数名のクラスメイトたちも、直接床に正座していた。


 そのクラスメイトというのは、言うまでもないだろう。

 そう、ワンを始めとする、バンプにマッチで敗れた者たち……!


 先日のマッチには観客はいなかったが、ランキングが変動したことにより、学園には負け犬たちの噂があっという間に広がった。


 さんざん(ゴミ)ランクだと馬鹿にされてきた、最底辺の生徒に敗れてしまったのだ。

 しかも、6対1という、圧倒的に有利な条件で……!


 そんな恥の上塗りのような負け方をした者たちに、この学園での居場所はない。

 ワンたちはクラスの恥さらしとして、かつてバンプが受けたような過酷なイジメに晒されていたのだ。


 顔や身体はすでに腫れあがってアザだらけ、バンプほどではないものの制服はボロボロ。

 へんな汚液にまみれてウッウッと嗚咽を漏らすワンたちの真ん中に、バンプはあぐらをかく。


 バンプの座席は負け犬たちの中心にあったので、そこに座るしかなかった。

 もはや絡むつもりもなかったのだが、彼らはさっそく泣きついてきた。



「あっ……兄貴ぃぃぃっ……!」



「なっ、なんだよ。お前らに兄貴呼ばわりされるいわれはないぞ」



「でもワンたちは決めたんだ! これからは、兄貴についていくって! ランクが下の者は上の者に、負けた者は勝った者に従うのが、この学園のルール……! でなきゃ俺たち、この学園じゃもう生きていいけねぇよぉぉぉ~!」



 涙と鼻水でベタベタの顔で擦り寄られ、バンプはたまらず押し返す。



「ああもう、くっつくんじゃない! わかったから好きにしろ!」



「兄貴っ! 兄貴ぃぃぃぃっ! もう一生、ついていきやすぅぅぅぅっ!!」



「こんな事なら、バカ正直に来るんじゃなかった……」



 それは、完全に予想外の出来事であった。

 バンプは久々の登校において、またしてもイジメの洗礼があると思っていた。


 しかしターゲットは、すでに移っていて……。

 まさかいきなり舎弟が6人も増えようなどとは……。


 夢にも思っていなかったのだ……!


 バンプはワンたちを押し返しながら、ポケットから学生証を取り出す。


 魔法文字で刻まれた項目たちに視線を落としていくと、



 マッチランキング 1994位



 以前見たときは2000位だったものが、たしかに上昇していた。


 自分より下位の6人は、今しがた舎弟となった6人であろう。

 数がピッタリ合う。



 ……ドガッ!



 不意にそのひとりが、腹に蹴りを入れられ、「ヂュウゥゥ……」と崩れ落ちた。



「プギイッ! このクラスも、落ちぶれたもんだ……! ゴミがこんなに増えるとはなぁ!」



 バンプがハッと顔をあげると、そこには……。

 制服の上に、山賊じみた毛皮をまとった、いかにもガラの悪そうな生徒が立っていた。



「きゃいんっ!? きゃいいいいんっ!? プギーマンさん、もう、勘弁してください! これ以上蹴られたら、死んでしまいますぅぅ……!」



 雷を怖がる子供のように縮こまるワンたち。

 プギーマンと呼ばれた少年は、ペッとツバを吐きかけると、



「プギッ! お前らはもう蹴らねぇよ。リアクションがワンパターンでつまんねぇんだよ。でもちょうど蹴り甲斐のありそうなヤツがいるじゃねぇか」



 プギーマンはフンッと鼻息を荒くしながら、バンプを睨みおろす。


 バンプはその顔を忘れるはずもなかった。

 なにせ初日にさんざん蹴られたのだから。



「……プギーマン? お前、そんな名前だったのか。てっきりブタマンって名前かと思ってたぜ」



「プギイッ!? なんだと、テメェっ!?」



 瞬間湯沸し器のように、すぐさま顔を紅潮させるプギーマン。

 ワンたちが慌てて止めに入った。



「わ、ワンッ!? や、やめてくだせぇ兄貴っ! プギーマンさんは、このクラスをたった三日でシメちまったお方なんです! 兄貴が敵うような相手じゃねぇ!」



「チュウッ! そ、そうです! それにプギーマンさんのバックには『ダンプ組』が付いてるんでチュ! 目を付けられた、大変なことになるでチュ!」



 それはバンプにとっては、聞き捨てならない一言であった。



「……ダンプ組?」



 『ダンプ組』とはまぎれもなく、バンプの兄であるダンプが頭を張っているであろう、学園内組織……!


 妖精使いたちが『妖精騎士団(フェアリー・セイバー)』というグループを作るように、この学園の生徒たちはこぞって組織を作る。

 組織化することで学園内での力を誇示し、さらなるランク上昇を狙うのだ。


 新入生が入学したばかりの今、学園はまさに、群雄割拠……!

 あらゆる組織が乱立し、戦乱の様相を呈していたのだ……!


 バンプはもちろんそんなものには興味はなかった。

 しかし……。


 身内の名前を出されては、話は別。

 これから乗り越えなくてはならない、壁を前にして……。


 おめおめと引き下がるわけには、いかなかったのだ……!



「おい、ブタマン野郎……! 俺と、『勝負(マッチ)』しろ……!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 次の目標はクラスを締めてダンプの牙城を崩してダンプを下位に落とすのかな。
[一言] 豚マンってwマジうけるw しかしやられた奴らいつの間に舎弟になったんだ……。 まあ、味方が増えたら心強いに越したことないけどさ。
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