27.道すがら
笑宅から一宅へ行くまでのお話です.
あ、やっと戻ってきた.
息切れまでしているけど….
「お帰り.」
「あ、うん. ただいま.」
どうしたんだろう.
何か、スッキリした顔してる?
「行こうか、笑ちゃん.」
「それなんだけど…. 私、犬島の家には泊まらない.」
「え? どうして?」
「迷惑かけたくないし….」
「じゃあ、今日はどこで寝るの?」
「野宿しようと思って….」
「はぁ!? ダメに決まってるだろ、女の子が野宿なんて!」
いつになく強い口調で犬島が声を荒げる.
どうしてそんな風に怒るんだろう.
犬島に迷惑かけるわけでもないのに.
これも…好き、って気持ちに関係あるのかな.
「だって、寝袋とか、懐中電灯とか、カップ麺とかお湯とか…他にも色々持って来ちゃったし.」
「それでこんなに大荷物になったの? 呆れた.」
「…ごめん.」
「俺ん家行こう. 嫌がっても連れて行くから.」
「…犬島に犯されるー.」
「∑ばっか//! そんなことしません//!」
真っ赤になってる.
真に受けちゃってるところとか、面白い.
からかいがいがある.
もうちょっとからかってみよう.
「本当に襲わない? 我慢、出来るのか?」
「で、出来るよ//! そんな狼じゃないですー//」
「私の寝るときのズボン、結構短いんだけど….」
「何でこんな寒い時期に短いの穿くの//!?」
「犬島のこと、誘惑したいから….」
「∑っ…//!」
頬を撫でて見上げてみる.
っていうか尋常じゃないくらい赤いんだが!!
あんまりからかうのも可哀想だよな.
「あの犬島?」
「あ、今はこっち見ないで//!」
口元を隠し、顔を背けられた.
今更嘘だなんて言えない空気感になってきた.
…いいや. このまま本気で言ったってことにしておこう.
口元隠してる犬島可愛いし.
「犬島が落ち着いたら帰ろうか.」
「誰のせいだと思ってんの…//」
「私?」
「当たり//」
これで原因が私じゃなかったら、ちょっと嫌だ.
なんて、柄にもないことを考えてしまった.
さっきの、お互いに告白し合った緊張感はどこかに行ったな.
「はー….」
「落ち着いた??」
「うん、だいぶ.」
「じゃあ、行こうか.」
「はーい.」
2人並んでゆっくり進む.
心持歩幅を小さくしている犬島は、普段よりゆっくり歩いてくれてるんだろう.
やっぱり、優しい.
「?」
不意に、温かいものが私の左手を包んだ.
目線を下へやって分かった. 私の左手を包んでいたものは、犬島の右手だったみたいだ.
「犬島?」
「手、繋ぐのはいいでしょ?」
「うん、いいけど….」
「これ、恋人繋ぎって言うんだよ.」
「∑こ…っ//!? 離せっ//!」
「やだ. 恋人なんだから、いいじゃん.」
「ん…// そう、だけど//」
恥ずかしいだろ、こんなの.
恋人って皆こんなことしてるのか?
だとしたら、アレだな. 皆もう日本人離れしたコミュニケーション能力だな.
今どきの若者は….
何て言ってみたりして.
「にーこーちゃん!」
「うわっ!?」
気がついたら目の前に犬島の顔があった.
近い近い近い.
「っ近いバカ//」
「ぼーっとしてる笑ちゃんが悪いんだよ?」
「そういうもんかな….」
「そういうもんだよ.」
ふふ.
犬島はいつものように、楽しそうに笑う.
この顔、好きだなぁ.
よく見ると整ったアイツの顔.
整っているから、笑った顔も当然可愛い.
いいなー.
「さ、着いたよ.」
「もう??」
それはもうあっという間に.
半信半疑だったが、目の前にある家の表札には見間違えることのない『犬島』の文字.
時計を見ると、家を出てから30分経っていた.
そんなに歩いてたのか.
「あ、親御さんに渡す菓子折り忘れた.」
「そんなのいいよ. 変なところで律儀なんだね、笑ちゃんて.」
「一晩お世話になるのに手ぶらってダメな気がする.」
「何だかんだで真面目なんだね.」
「何を言ってるんだ. 元より大真面目な人間だぞ、私は.」
「はいはい、寝言は寝てから言わなくちゃね.」
私の言葉を軽く受け流し、犬島は扉を開けてくれた.
何て自然な動きなんだ. 紳士っぽいな.
「いらっしゃい、笑ちゃん. 犬島家へ.」
「お邪魔します.」
少しずつ、緊張が高まっていく.
初めて泊まる男の子の家.
これから一晩、どんなことが私を待っているんだろう.




