12.好き
お腹がいっぱいで有頂天になっている時.
気分が上がりますよね.
美味しご飯を沢山食べて上機嫌の犬島くん.
彼は、上機嫌になると爆弾を投下していく癖があるようです.
「はー、美味しかった!!今日は御馳走様でした!」
寒空の下、笑ちゃんと笑ちゃんのお母さん以外は猫乃家を振り返った.
お母さんは、ニコニコしながら“また来てね”と言って手を振ってくれた.
「猫乃先輩、御馳走様でした.」
「美味かったぞ.」
「どういたしまして.」
魚津さんと小鳥くんも、笑ちゃんと3人で、和やかに挨拶を交わしていた.
挨拶が終わると、もうお開きの空気.
俺、こういう雰囲気苦手なんだよね.何だか寂しくって.
日曜の夕方の気分に、少しだけ似てる.
「じゃあ、これで.」
もう一度、笑ちゃんのお母さんにお礼を言って歩き出す.
魚津さんや小鳥遊くんとは別の道だから、帰りは1人だ.
ちら、と笑ちゃんを見る.
視線が完全にぶつかったが、笑ちゃんは気まずそうに目を逸らした.
今日はいろいろ急展開だったし、どうしたらいいのか分からないんだろう.
これ以上いろいろして、複雑な気分にさせたくない.
焦らなくても、笑ちゃんはきっと俺のこと受け入れてくれるから.
だから大丈夫.
そう自分に言い聞かせて、笑ちゃんに声をかけないまま道を進んだ.
次第に、魚津さんの大きな笑い声も聞こえなくなっていった.
ああ、あんな大きな声が聞こえないってことは、本当に皆帰っちゃったんだな.
「はぁ――.」
息が白い.
「がお――.」
小さい頃は、こうやって白い息を光線に見立てて怪獣ごっこをやったんだっけ.
懐かしいなぁ.
小さい頃は、確か好きな子なんていなかったんだよな.
特別な“好き”がよく分からなくて.
そのまま中学生になって、成長して.
そりゃあ、女の子と付き合った経験だって人並みにはあるし、告白をしてくれた子もいた.
それなりに経験は積んできたつもりではいるんだ.
「あ――.」
こうして考えると、自分から好きになったのは笑ちゃんが初めてなんだよなー.
どうして、こんな風に好きになれたんだろう.
好きになって、人生で初めて告白して、人生で初めてフラれて、体験したことないくらい切なくて悲しくて.でも、諦められないくらい好きで.
今日の笑ちゃんの話を聞いて、ますます幸せにしたいと思った.
「こら、犬っころ.」
「∑うっへぇい!!?」
背中に衝撃が走った.と同時に耳に心地いい声が聞こえてきた.
俺の胸の辺りまでしかない小さな身体で体当たりしてきたのは、案の定俺の良く知るお姉さん.
勝ち気で、負けず嫌いで男勝りで、でも寂しがり屋でパッと見やんちゃそうな、
本当は優しくて可愛い人.
「変な驚き方.」
「うん、全然気づかなかったから.」
寒い中、ここまで走ってきたのか鼻と頬っぺたが赤くなってた.
「…赤くなってる.」
「ん、」
頬っぺたを、両手でそっと包んであげる.
小さな顔.やっぱり冷たい、赤くなった頬っぺた.
「どうしたの??俺、何か忘れ物でもしてた?」
「これ、寒いから.」
そういって、笑ちゃんはふわふわした白い布を俺の首に巻きつけた
「マフラー??」
「うん.私のじゃ短いかもしれないけど.我慢して帰れ.」
「いいの?笑ちゃん寒くない??」
「もう一個あるから平気だ.」
「ありがと.じゃあ、ありがたく借りるね.」
それで、ここまで走ってきてくれたのか.
こういう所、優しいんだよなぁ.
「それだけ、だから.」
「うん、ありがとう.」
「それじゃ、気を付けて.」
「家まで送るよ.」
「大丈夫.一人でも帰れるし.」
「そっか、分かった.」
「それじゃ、」
「また明日ね.」
別れの言葉を交わして、笑ちゃんは来た道をゆっくりと歩き出した.
小さな背中が、どんどん遠くなっていく.
「笑ちゃん!!!」
不意に、声がかけたくなって.俺は少し大きな声を出した.
小さな背中が、驚いたように振り返る.
何が言いたいのかも決まっていない.
でも、ひとつだけ確かなことがある.何度伝えても、足りないことを.また君に.
「だ――――い好きっ!!」
「∑//!?」
思わず口から出た言葉は、言い慣れた好きという言葉.
遠いからよく分からないけど、彼女の肩が小さく跳ねたような気がする.
「……ば―――――か!!!」
少し間を置いて聞こえてきた声は、恥ずかしそうに困惑していた.
とりあえず、この想いが伝わっていることは確からしい.
憎まれ口を叩きながら、それでも俺の言葉を聞き、受け止め返事をくれる笑ちゃん.
そんな君が、俺は好きで好きで仕方ないんだ.




