15.第三章 健一 エピソード6
「多香子、あのね、お父さんのSNSのパスワードがわかったの」
そう前置きして、私は再びソファーの横に腰かけた多香子に、それまでのことを話した。もちろん、あの『masa』と呼ぶ女性とのことも。
最初は黙って話を聞いていた多香子だったが、やはり夫が女性とやりとりしていた話になると、表情を強張らせた。それから俯いて、テーブルの上に置いたままになっていたグラスをぼんやりと見つめている。だけど、不意に何かを思いついたのか、目を丸くして言った。
「ねぇ、お母さん、そのSNS、私に見せてくれない?」
とっさに身構える私。あの生々しいやりとりを、できれば多香子には見せたくなかったから。
「でもね……」
渋る私に、多香子は「私なら、気にしないよ。いいから見せて」と、身を乗り出すように懇願する。
「でもね、やっぱり……」
「いいから見せて。何かわかるかも知れないから」
「わかるって、何がわかるって言うの……」
私はついに根負けした。棚の上に置いていたスマホを手に取ると、そっと多香子に差し出した。多香子が、何かを見つけてくれることを祈りつつ。
画面をスクロールしているのか、多香子の指の動きにつられて、視線が動いているのがわかる。眉をひそめたかと思うと、次の瞬間には納得したように頷いてみたりと、多香子の表情が時間の経過とともに変化していくのが見て取れた。その様子を、まさに固唾をのみながら見守るだけの私。
そうやって、どれほどの時間が経っただろうか。ふと、多香子がスマホの画面から顔を上げたかと思うと、そのままゆっくりと戸棚の上の夫の遺影に視線を向けた。
「ねぇ、お母さん……」
私は、どきっとして、肩を大きく上げた。
「どっ、どうしたの、多香子。何か、わかったの?」
「お父さんって、お母さんにとって、どんな人だった?」
何かを思いつめたように訊く多香子に、私は、
「えっ、突然、どうしたのよ。うん、そうね……ひとことで言えば、優しい人だったわ。少し頼りないところもあったけど、お父さんなりに私たち家族のことを大切にしてくれていたと思う」
と、徐々に落ち着きを取り戻しながら答える。多香子の意図がわからなかった私は、多香子の横顔に目を遣ったが、なぜか多香子は頬を赤らめて、穏やかな表情を浮かべている。
「それなら、お母さんが言った通りだと思うよ。お父さんは、優しくて家族思いで、でもちょっと不器用なところがあって……」
「えっ、一体どう言うこと?」
多香子は夫の遺影から視線を外すと、ニッコリ微笑みながら、私の方を向いた。
「それは、こういうこと」
それだけを言って、私に夫のスマホを返してきた。
まるで、多香子の言っていることがわからなかった私は、「ちょっと読んでみて」と多香子に促されるままに、スマホの画面に視線を落とす。そこにはこんなやりとりが、表示されていた。




