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第19話 正解を書いた名無しが、一番信じてもらえない



『E級だから違う、って結論』


『本当にそれでいいのか?』


『もし』


『魔力値そのものが低いんじゃなく』


『低く見せる方法があるとしたら?』


 その書き込みを見て。


 探索者掲示板は。


 一瞬だけ静かになった。


63:名無しの探索者

どういう意味?


64:名無しの探索者

魔力偽装?


65:名無しの探索者

そんなスキルあったっけ


66:名無しの探索者

認識阻害装備とか?


67:名無しの探索者

測定器騙す意味ある?


68:名無しの探索者

E級に居座るメリットなくね


69:名無しの探索者

陰謀論始まった


70:名無しの探索者

さすがに考えすぎ


71:名無しの探索者

でも待て


72:名無しの探索者

トップ5全員があの男に集まってたのは事実だぞ


73:名無しの探索者

国外S級もなんか話してた


74:名無しの探索者

救助者説は?


75:名無しの探索者

E級には無理


76:名無しの探索者

結局そこに戻るの草


 そこへ。


 例の書き込みをした人物が。


 もう一度現れた。


77:名無しの探索者

魔力は常に外へ漏れてる


78:名無しの探索者

何それ急に授業始まった


79:名無しの探索者

黙って聞け


80:名無しの探索者

上位探索者ほど漏出量も多い


81:名無しの探索者

それはそう


82:名無しの探索者

なら逆に


83:名無しの探索者

漏出を極端に抑えれば


84:名無しの探索者

測定値まで低く見える可能性は?


 数秒。


 そして。


85:名無しの探索者

ない


86:名無しの探索者

即答草


87:名無しの探索者

無理無理


88:名無しの探索者

人体でそんな制御できたら苦労しねえよ


89:名無しの探索者

魔力学かじった大学生だろ


90:名無しの探索者

机上の空論


91:名無しの探索者

仮にできても数秒じゃね?


92:名無しの探索者

常時とか絶対死ぬ


 そのレスだけは。


 かなり正しかった。


 ◇


「先生」


「ん?」


「これ見て」


 翌日の午後。


 俺の部屋。


 陽菜がスマートフォンを差し出してきた。


「掲示板?」


「うん」


「俺あんまり見ないぞ」


「今日は見て」


「はい」


 画面。


 昨夜の書き込み。


『漏出を極端に抑えれば』


『測定値まで低く見える可能性は?』


「…………」


「あ」


「先生?」


「近い」


 部屋が。


 一瞬で静かになった。


 玲華。


 紫苑。


 陽菜。


 沙夜。


 澪。


 そして今日は蓮司までいる。


「先生」


 玲華がゆっくり聞く。


「近い、とは?」


「俺がやってるやつ」


「…………」


「漏出抑えてるから」


「先生!」


「何?」


「声!」


「ここ俺んちだけど」


「そうでした」


 玲華が周囲を見回す。


 完全に過敏になっている。


「でも」


 紫苑が画面を覗く。


「この人、圧縮までは辿り着いてない」


「そうだね」


 陽菜も頷く。


「単純な漏出抑制だと思ってる」


「なら問題ない?」


 俺が聞く。


「問題あります」


 澪が即答した。


「なんで?」


「悠真先生」


「はい」


「世の中には」


 俺を見る。


「一つ分かると、次も調べる人がいます」


「俺もそうだけど」


「だから怖いんです」


「…………」


 なるほど。


 言われてみれば分かる。


「投稿者」


 沙夜が口を開いた。


「まだ追えていない」


「黒羽さんでも?」


 蓮司が聞く。


「掲示板側の匿名化が強い」


「そこまでやる人?」


「分からない」


 陽菜が画面をスクロールする。


「でも今のところ」


 コメント欄。


『無理』


『妄想』


『小説の読みすぎ』


『E級最強説は草』


「ほとんど誰も信じてない」


「ならいいじゃん」


 俺が言うと。


 五人から。


 一斉に見られた。


「何?」


「先生」


 玲華。


「こういう時」


「うん」


「その呑気さは長所なのか短所なのか分かりません」


「褒めてる?」


「半分だけ」


「そうですか」


 ◇


「でも」


 蓮司が腕を組んだ。


「一個疑問なんだけどよ」


「何?」


「先生の測定値って」


 最近。


 蓮司も自然に先生と呼ぶようになった。


「圧縮解いたらどうなるんだ?」


「…………」


 五人。


 ぴたりと止まった。


「蓮司」


「何だ?」


「それ」


 紫苑が睨む。


「私も聞きたかった」


「聞いてないのか?」


「先生が一パーセント緩めたところまでは見た」


「ああ」


「それだけで私の通常戦闘時より出力が大きかった」


「…………」


 蓮司が俺を見る。


「一パーセント?」


「たぶん」


「じゃあ全部解いたら?」


「知らない」


「は?」


「やったことないから」


 今度こそ。


 全員が固まった。


「先生」


 玲華。


「今」


「うん」


「何と?」


「全部解いたことない」


「十二年間?」


「ない」


「一度も?」


「必要ないし」


 紫苑が立ち上がった。


「ちょっと待って」


「はい」


「じゃあ先生自身も」


「うん」


「自分の全魔力量を知らない?」


「正確には」


「…………」


「そう」


 また静かになった。


「悠真さん」


 陽菜が笑顔を引きつらせる。


「それ、もっと早く言ってほしかったな」


「聞かれなかったし」


「出た!」


「何が?」


「先生の一番怖いやつ!」


 最近よく言われる。


「教官」


 沙夜。


「全解放」


「うん」


「しないで」


「する予定ないけど」


「絶対」


「分かった」


「特に人のいる場所」


「はい」


 澪も。


「悠真先生」


「何?」


「もし身体に異常が出たら?」


「それも分からない」


「…………」


「十二年圧縮した状態が普通になってるから」


「では」


「うん」


「急に全部戻す方が危険かもしれません」


「そうかも」


「そうかも、ではありません!」


 澪に怒られた。


「じゃあやらない」


「はい」


 一番嬉しそうに頷いた。


 ◇


「で」


 陽菜が掲示板を見る。


「この人への対策どうする?」


「放置でいいんじゃない?」


「先生はそう言うと思った」


「下手に反応すると逆に怪しいです」


 玲華。


「私も放置がいいと思います」


 紫苑も頷く。


「勝手に否定してくれてるしね」


 実際。


103:名無しの探索者

仮に魔力隠せるとして


104:名無しの探索者

なんで12年E級やってんだよ


105:名無しの探索者

それ


106:名無しの探索者

S級なれば金も名誉も手に入る


107:名無しの探索者

トップ5美少女とも合法的に仕事できるぞ


108:名無しの探索者

最後が本音だろ


109:名無しの探索者

そんな力あって隠す奴いねーよ


110:名無しの探索者

結論:ただのE級


「…………」


 俺は画面を見る。


「合ってるな」


「どこが!?」


 紫苑が叫んだ。


「ただのE級」


「そこじゃない!」


「公式には」


「もう!」


 紫苑が頭を抱える。


 陽菜は笑っている。


「でもさ」


「ん?」


「この107」


『トップ5美少女とも合法的に仕事できるぞ』


「うん」


「今もうトップ5全員ここにいるよね」


「…………」


 玲華。


 紫苑。


 陽菜。


 沙夜。


 澪。


 確かに。


「別に仕事してないけど」


「そこじゃないよ!」


「?」


 女の人の話は。


 時々分からない。


 ◇


 午後十一時三十一分。


「今日は八十五階」


「一人で?」


 玲華が聞く。


「うん」


「昨日のこともあります」


「救助?」


「はい」


「だから今日は一人」


「なぜ?」


「何かあった時」


 手帳を持つ。


「誰か連れてると帰るの大変だろ」


「…………」


「一人なら俺だけ気をつければいい」


 玲華が少し不満そうにする。


「先生」


「何?」


「それ」


「うん」


「十二年間ずっとそうだったんですか?」


「何が?」


「誰かを巻き込まないように」


「いや」


「……」


「単純に一人の方が気楽だから」


「…………」


 陽菜が吹き出した。


「玲華さん、いい話にしようとして失敗した」


「笑わないでください」


「先生らしいけどね」


「じゃ行ってくる」


「はい」


「気をつけて」


「連絡」


「何かあれば」


「必ず」


「はいはい」


 玄関を出る。


 最近。


 行ってきますを言う相手が増えた。


 ◇


 午前零時十二分。


 《奈落》第八十五階層。


「さて」


 昨日。


 エリックを見つけた地点。


 血痕はもう残っていない。


「今日は続き」


 左ルート。


 一歩。


 また一歩。


 地図を埋めていく。


 二十分。


 三十分。


「……?」


 新しい扉。


 大きい。


「ボス部屋かな」


 手帳。


『85階・左最奥』


『大型扉』


 開けない。


 まず周囲を見る。


「床傷」


 扉の前。


 細い傷。


 何か。


 出入りしている。


「…………」


 耳を澄ます。


 音。


 ない。


 魔力探知はしない。


 三十七体来る。


「今日は」


 扉へ手を掛ける。


 少しだけ。


 開ける。


 隙間。


 中。


「…………」


 暗闇。


 その中央。


 巨大な何かが。


 呼吸している。


「でかいな」


 扉を閉める。


 手帳。


『大型魔物一体』


『詳細不明』


『本日戦闘しない』


「よし」


 帰る。


 初見。


 情報なし。


 時間も午前一時を過ぎている。


 戦う理由はない。


「明日から観察だな」


 昨日より。


 また一つ。


 分かった。


 ◇


 同時刻。


 掲示板。


147:名無しの探索者

例の匿名また奈落85入った


148:名無しの探索者

毎日だな


149:名無しの探索者

国外S救助した翌日も行くのかよ


150:名無しの探索者

体力どうなってんだ


151:名無しの探索者

ところで昨日のE級は?


152:名無しの探索者

もういいだろ


153:名無しの探索者

ただのE級


154:名無しの探索者

だな


155:名無しの探索者

例の魔力隠してる説の奴消えた?


156:名無しの探索者

いる


157:名無しの探索者

一つ訂正する


158:名無しの探索者

何?


159:名無しの探索者

漏出を抑えているだけでは


160:名無しの探索者

測定値17までは下がらない


161:名無しの探索者

ほら妄想だった


162:名無しの探索者

解散


163:名無しの探索者

違う


164:名無しの探索者

もし本当に17まで下げるなら


165:名無しの探索者

抑制じゃ足りない


166:名無しの探索者

外へ出る魔力を止めるだけじゃなく


167:名無しの探索者

体内で


168:名無しの探索者

圧縮している


 その一言。


 《圧縮》。


 玲華たちが見れば。


 間違いなく顔色を変えただろう。


 けれど。


 掲示板の反応は。


169:名無しの探索者

はいはい


170:名無しの探索者

圧縮(笑)


171:名無しの探索者

魔力潰してどうすんだよ


172:名無しの探索者

漫画の読みすぎ


173:名無しの探索者

できたとして何秒だよ


174:名無しの探索者

三秒で吐くわ


 誰も。


 信じなかった。


175:名無しの探索者

もし


176:名無しの探索者

それを十二年間


177:名無しの探索者

ずっと続けている人間がいたら?


178:名無しの探索者

いねえよ


 たった四文字。


 それが。


 今夜一番正しい書き込みだった。


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