第18話 E級男、掲示板で一晩だけ時の人になる
『【緊急】奈落前でトップ5全員がE級男を囲んでるんだが』
1:名無しの探索者
現地いる
2:名無しの探索者
何それ
3:名無しの探索者
トップ5って誰まで?
4:名無しの探索者
天音玲華
九条紫苑
白石陽菜
黒羽沙夜
水城澪
5:名無しの探索者
全員じゃねえか
6:名無しの探索者
だから全員って言ってる
7:名無しの探索者
E級男は?
8:名無しの探索者
知らん
9:名無しの探索者
若くはない
10:名無しの探索者
二十代後半くらい?
11:名無しの探索者
装備めっちゃ地味
12:名無しの探索者
何で囲まれてんの
13:名無しの探索者
それが分からん
14:名無しの探索者
国外S級の救助と関係ある?
15:名無しの探索者
あるっぽい
16:名無しの探索者
待て
17:名無しの探索者
国外S級救助したの誰だよ
18:名無しの探索者
同行者非公開
19:名無しの探索者
……まさか
20:名無しの探索者
いやいや
21:名無しの探索者
E級だぞ?
22:名無しの探索者
さすがにない
午前三時。
俺の知らないところで。
ものすごい勢いで話が進んでいた。
◇
「先生」
「はい」
「今日は」
玲華が真剣な顔で言った。
「真っ直ぐ帰ってください」
「そうするつもりだけど」
「寄り道禁止です」
紫苑。
「コンビニも駄目」
「牛乳ないんだけど」
「明日私が持っていく」
「いや買わせてよ」
「駄目」
「なんで?」
陽菜が周囲を見る。
「悠真さん」
「うん」
「今、かなり見られてる」
「そうだな」
奈落入口。
救護班。
ギルド職員。
探索者。
全員ではないが。
かなりの人数がこちらを見ている。
特に。
俺の探索者証。
『E』
そこへ視線が集中していた。
「先生」
澪が俺の袖を摘む。
「上着」
「ん?」
「探索者証、隠してください」
「ああ」
上着を閉じる。
「これでいい?」
「はい」
沙夜は。
さっきから無言で周囲を見ている。
「沙夜?」
「写真」
「撮られてる?」
「六人」
「そんなに?」
「今七人」
「増えた」
陽菜がすぐスマートフォンを取り出した。
「一回だけ私から出す」
「何を?」
「公式投稿」
「いいの?」
「何もしない方が危ない」
少し考え。
素早く文字を打つ。
「こんな感じ」
見せてくる。
『本日の《奈落》での救助活動について、現地にいた探索者個人の特定・撮影・追跡は絶対にやめてください。救助者本人は公表を希望していません。ご協力お願いします。』
「俺、救助者って公表してないけど」
「だから名前は出してない」
「なるほど」
「あと」
陽菜が俺を見る。
「絶対コメント欄見ないでね」
「見ないよ」
「本当に?」
「SNSほぼ見ないし」
「……こういう時だけ助かるなぁ」
どういう意味だ。
◇
「黒瀬」
担架から。
エリックが俺を呼んだ。
「はい」
「すまない」
「何が?」
「さっき」
「ああ」
トップ五の話か。
「別にいいよ」
「だが」
エリックが周囲を見る。
「俺が余計なことを言ったせいで、注目されている」
「そのうち飽きるだろ」
「…………」
「何?」
「お前」
「うん」
「本当に気にしないんだな」
「何を?」
「名誉とか」
「別に」
「俺を救ったと公表すれば」
「うん」
「少なくともE級のままではいない」
「そうだろうね」
「なら」
「でも面倒だろ」
「…………」
「取材来る」
「来るな」
「知らない人に話しかけられる」
「来るだろう」
「昼間も攻略のこと聞かれる」
「…………」
「嫌だな」
エリックが。
しばらく俺を見ていた。
「変な奴だ」
「今日二回目」
「だが」
少し笑う。
「借りは必ず返す」
「別にいらないよ」
「俺が嫌だ」
「そう?」
「ああ」
こういうところは。
トップ探索者らしい。
◇
「黒瀬さん」
今度はギルド職員。
「はい」
「少しだけよろしいでしょうか」
「何ですか?」
「国外S級探索者エリック・ヴァン氏の救助について」
「はい」
「正式な救助記録を残す必要があります」
「名前出る?」
「非公開指定可能です」
「じゃあそれで」
「即答ですね」
「はい」
職員が困ったように笑う。
「ただし」
「?」
「八十五階層から救助されたという事実自体は、システム記録として残ります」
「それは仕方ない」
「そして」
少し声を落とす。
「同行者が《午前零時の攻略者》ではないかと、すでにかなり噂になっています」
「俺、それそんな有名なの?」
職員が固まった。
「……ご存じなかったんですか?」
「最近知った」
「…………」
「何?」
「いえ」
この反応も最近多い。
「黒瀬さん」
「はい」
「一つだけ」
「何です?」
「救助者欄」
端末。
『氏名非公開』
「このままで本当に?」
「お願いします」
「……承知しました」
決定。
俺の名前は公表されない。
それでいい。
◇
午前三時十五分。
ようやく。
奈落を出る。
「じゃあ帰る」
「私も行きます」
玲華。
「なんで?」
「護衛です」
「俺を?」
「はい」
「先生に護衛いる?」
陽菜が笑う。
「今日は別の意味です」
紫苑が周囲を見る。
「人除け」
「ああ」
確かに。
さっきから。
少し離れたところを。
何人かついて来ている。
「沙夜」
「うん」
「何人?」
「五」
「減った?」
「二人はギルド職員」
「じゃあ実質三人か」
「先生」
澪が言う。
「実質三人でも多いです」
「そう?」
「多いです」
「じゃあ」
陽菜が帽子を深く被る。
「今日は分散しよ」
「どうやって?」
「まず玲華さんと紫苑さんが別方向」
「私たちが?」
「有名人だから囮」
「言い方」
「私も別方向」
「陽菜さんも?」
「うん」
「沙夜さんは?」
「消える」
「便利だな」
「澪ちゃんは」
「悠真先生と一緒に」
「それ却下です」
玲華が即答した。
「なぜですか?」
「なぜでもです」
「では私が」
紫苑。
「もっと駄目です」
「何でよ!」
「じゃあ」
陽菜が笑う。
「悠真さん一人で帰れば?」
「それが一番普通じゃない?」
「…………」
全員。
黙った。
「先生」
玲華。
「何?」
「それが一番自然でした」
「でしょ」
「……不本意ですが」
「何が?」
よく分からない。
◇
俺は一人。
普段通り。
古いアパートへ帰った。
追跡者は。
途中で沙夜が何とかしたらしい。
「ただいま」
誰もいない部屋。
装備を外す。
手帳。
開く。
『85階・左ルート』
『国外探索者一名発見』
『本日攻略中止』
「……」
少し考えて。
追記。
『救助成功』
「よし」
今日は。
前へ進めなかった。
でも。
まあいい。
「人一人連れて帰れたし」
昨日より。
知っている道が役に立った。
それで十分。
布団へ入る。
午前三時四十八分。
「寝よ」
そのまま。
数分で眠った。
◇
その頃。
掲示板。
38:名無しの探索者
白石陽菜から注意投稿きた
39:名無しの探索者
特定禁止
40:名無しの探索者
やっぱあのE級関係者じゃん
41:名無しの探索者
救助者本人って書いてないぞ
42:名無しの探索者
でもタイミング的に
43:名無しの探索者
奈落から出てきた時
国外S級の近くにいたE級は一人だけ
44:名無しの探索者
画像ある?
45:名無しの探索者
貼るな
陽菜が特定やめろ言ってる
46:名無しの探索者
珍しく民度ある
47:名無しの探索者
でも気になる
48:名無しの探索者
E級が八十五から人背負って戻れるわけない
49:名無しの探索者
途中で受け取ったとか?
50:名無しの探索者
それが一番自然
51:名無しの探索者
だよな
52:名無しの探索者
救助隊から引き継いだ一般探索者じゃね
53:名無しの探索者
じゃあトップ5が集まった理由は?
54:名無しの探索者
偶然
55:名無しの探索者
五人全員偶然は草
56:名無しの探索者
でもE級だぞ
57:名無しの探索者
魔力も低かったって現地民が
58:名無しの探索者
なら違うだろ
59:名無しの探索者
《午前零時の攻略者》がE級なわけない
60:名無しの探索者
それな
61:名無しの探索者
俺らちょっと盛り上がりすぎたな
62:名無しの探索者
解散
そして。
スレッドの勢いは。
少しずつ落ちていった。
結局。
大半の探索者が。
同じところへ落ち着いた。
『さすがにE級は違う』
目の前に。
答えがあったのに。
◇
翌朝。
探索者ギルド。
「よし」
神崎蓮司は。
掲示板を閉じた。
「何がよしなの?」
隣の陽菜が聞く。
「先生の正体、バレなかった」
「……神崎さん」
「何だよ」
「いつから完全にこっち側になったの?」
「うるせえ」
「この前まで『E級が先生なわけない』って」
「昔の話だ!」
「三日前くらいだよ?」
「昔だ!」
紫苑が呆れた顔。
「でも」
「うん」
「今回だけは助かったわね」
玲華も頷く。
「先生がE級であること自体が、正体を隠してくれました」
澪。
「皆さん」
「?」
「悠真先生を弱いと決めつけています」
「そうね」
「少し腹が立ちます」
「分かります」
玲華が真顔で頷く。
沙夜だけ。
スマートフォンを見る。
「でも」
「何?」
「一人」
「一人?」
「まだ調べてる」
全員の顔が変わる。
「誰?」
「不明」
「何を書いてるの?」
沙夜が画面を見せる。
『E級だから違う、って結論』
『本当にそれでいいのか?』
『もし』
『魔力値そのものが低いんじゃなく』
『低く見せる方法があるとしたら?』
「…………」
静かになった。
「投稿者は?」
玲華。
「匿名」
「追える?」
紫苑。
「試す」
陽菜の表情から。
笑顔が消える。
「この人」
「うん」
「かなり近いところまで来てる」
澪が小さく息を呑む。
そして。
蓮司が。
ゆっくり腕を組んだ。
「……先生」
「?」
「今日も普通に奈落行くんだろうな」
「行くでしょうね」
玲華が答える。
「なら」
蓮司が。
少しだけ笑った。
「今度は俺たちが」
「先生の邪魔にならないように」
「秘密を守る番か」
その夜。
《午前零時の攻略者》を追う掲示板に。
初めて。
かなり正解に近い人物が現れた。




