第15話 トップ5全員、六位の弟子入りに反対する
「先生」
神崎蓮司が。
改めて。
俺へ頭を下げた。
「俺にも」
真っ直ぐこちらを見る。
「弟子入りさせてくれ」
その瞬間。
俺の左右から。
ものすごく冷たい空気が流れた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
一位。
二位。
三位。
四位。
五位。
五人全員。
蓮司を見ている。
「えっと」
蓮司が顔を上げる。
「何だよ」
玲華が一歩前へ出た。
「反対です」
「早えよ!」
紫苑。
「私も反対」
「理由くらい言え!」
陽菜。
「うーん」
「白石」
「ごめん。私もちょっと反対かな」
「お前まで!?」
沙夜。
「不要」
「一番短え!」
最後。
澪。
「私も反対です」
「水城まで!?」
蓮司が俺を見る。
「先生!」
「俺に言われても」
「こいつら何なんだよ!」
「最近よく分からない」
「先生が分かってねえのかよ!」
玲華が静かに口を開く。
「神崎さん」
「何だ」
「そもそも」
俺を指す。
「先生のことを昨日まで疑っていましたよね?」
「それは謝る」
「E級だから違う」
「…………」
「魔力十七だからあり得ない」
「…………」
「何度も言いましたよね?」
「悪かったって」
「私は最初から先生を信じました」
「いや、お前は半年追い回してたからだろ」
「追い回してはいません」
「似たようなもんだ!」
紫苑も腕を組む。
「しかも」
「今度は何だよ」
「先生って呼んだ回数」
「は?」
「私たちより圧倒的に少ない」
「そこ!?」
「重要よ」
「何が!?」
陽菜が指を折る。
「玲華さんは先生」
「はい」
「紫苑さんは先生か師匠」
「最近は先生が多いわね」
「沙夜さんは教官」
「うん」
「澪ちゃんは悠真先生」
「はい」
「私は悠真さん」
「……で?」
全員の視線が蓮司へ。
「お前は?」
「…………」
「ほら」
「何がほらだ!」
蓮司の顔が赤くなる。
「俺は男だぞ!」
「先生も男性です」
玲華。
「それがどうしたの?」
紫苑。
「男同士でも先生って呼べるよ?」
陽菜。
「普通」
沙夜。
「問題ありません」
澪。
「全員うるせえ!」
完全に遊ばれている。
「まあまあ」
「先生は黙っていてください」
「はい」
またこれだ。
◇
「とりあえず」
俺は全員を見る。
「本人が教えてほしいって言ってるんだから」
「先生」
玲華。
「はい」
「本当に弟子にするんですか?」
「別にいいだろ」
「ですが」
「蓮司、ちゃんと練習するし」
「…………」
「昨日九十三回やってたぞ」
紫苑が蓮司を見る。
「九十三?」
「ああ」
「何を?」
「攻撃前の魔力漏れ」
「成功は?」
「…………」
「神崎?」
「四回」
「…………」
紫苑の表情が少しだけ変わる。
「四回」
「悪いかよ」
「いいえ」
今度は。
さっきほど冷たくない。
「むしろ」
「何だよ」
「九十三回続けたのは悪くないわ」
「……おう」
玲華も少し考えている。
「先生」
「うん」
「神崎さんは」
「うん」
「先生に言われたことを、途中で投げ出しませんでしたか?」
「投げてない」
「文句は?」
「言ってた」
「おい!」
「でも続けてた」
「…………」
「だから教えていいと思ってる」
玲華が黙る。
沙夜が蓮司を見る。
「努力できる」
「ああ」
「なら」
俺を見る。
「教官が決めればいい」
「黒羽!」
「事実」
澪も少しだけ表情を和らげた。
「悠真先生が決めたなら」
「うん」
「私は従います」
陽菜が笑う。
「あ、二人折れた」
「私は最初から先生の判断を尊重しています」
玲華。
「さっき反対って言ったじゃん」
「それとこれは別です」
「便利だね、その理屈」
「陽菜?」
「何でもないです」
残る紫苑。
「…………」
「九条さん?」
「紫苑でいい」
「じゃあ紫苑」
「一つ条件」
「何?」
紫苑が蓮司を見る。
「先生の邪魔しないこと」
「しねえよ」
「先生の夜の攻略に勝手についていかない」
「許可取る」
「先生の住所を他人に言わない」
「言わねえ」
「先生の秘密を漏らさない」
「当たり前だ」
「先生の部屋に泊まらない」
「泊まらねえよ!」
「ならいいわ」
「最後の必要だったか!?」
「念のため」
「何の念だよ!」
陽菜が笑っている。
「じゃあ」
俺は蓮司を見る。
「改めて」
「おう」
「よろしく」
「……!」
蓮司が。
少しだけ嬉しそうな顔をした。
「ああ」
そして。
頭を下げる。
「よろしくお願いします」
一拍。
「先生」
「…………」
五人。
静かになった。
「何だよ」
蓮司が嫌そうな顔をする。
陽菜がにやっと笑う。
「ちゃんと言えたじゃん」
「うるせえ!」
「もう一回」
「言わねえ!」
「先生って」
「白石!」
「先生」
沙夜。
「教官」
「そこは違うだろ!」
澪まで少し笑っていた。
◇
「じゃあ今日から正式に」
翌日。
訓練施設。
「百回」
「……やっぱ百回か」
「嫌?」
「やる」
蓮司がすぐ構える。
昨日と同じ。
右拳へ魔力を集める。
ただし。
攻撃はしない。
集める。
戻す。
肩へ漏らさない。
「一」
「…………」
「二」
「…………」
「三」
五人もいる。
「なあ」
「何?」
「何でこいつらまでいるんだ?」
「私たちも見学です」
玲華。
「ライバルの成長確認」
紫苑。
「配信ない日だから暇」
陽菜。
「教官の観察」
沙夜。
「悠真先生の指導を見るためです」
澪。
「最後二人、俺見てねえだろ!」
「集中」
「はい!」
反射で返事した。
「今」
「っ」
七回目。
漏れた。
「右肩」
「分かってる」
「力むな」
「分かってる!」
「分かってたら漏れない」
「ぐっ……」
後ろ。
紫苑が小さく笑った。
「懐かしいわね」
「何が?」
「私も同じこと言われた」
「魔力漏れ?」
「そう」
「先生って」
陽菜が言う。
「ランキング上位の自信壊すの好きだよね」
「好きでやってないぞ」
「毎回一発で欠点見つけるじゃん」
「あるもの言ってるだけ」
「それが怖いんだって」
蓮司は黙って続ける。
二十。
三十。
「今」
三十一。
「成功?」
「成功」
「よし」
三十二。
失敗。
三十三。
失敗。
三十四。
成功。
「……!」
「二回目」
「おう!」
嬉しそうだ。
四十。
五十。
六十。
今日は。
昨日より明らかに成功が増えている。
「蓮司」
「何だ?」
「昨日家帰ってからもやった?」
「…………」
「やったな」
「少しだけ」
「何回?」
「百二十」
「…………」
俺は手帳を閉じた。
「やりすぎ」
「でも!」
「手痛いだろ」
「…………」
「見せて」
「平気だ」
「見せろ」
「…………」
右手。
指先。
少し震えている。
「ほら」
「このくらい」
「今日は五十で終わり」
「もう六十三だぞ!」
「じゃあ終わり」
「まだできる!」
「駄目」
「先生!」
「休むのも練習」
「…………」
「昨日言っただろ」
「昨日より一歩でいい」
「……」
蓮司が拳を見る。
「でも」
「焦って手壊したら明日ゼロだぞ」
「…………」
「今日は成功何回?」
「……九回」
「昨日四回」
「…………」
「倍以上」
「…………」
蓮司が。
ようやく拳を下ろした。
「分かった」
「素直でよろしい」
「その言い方腹立つな!」
「紫苑も言ってた」
「一緒にすんな!」
「何よ!」
また騒がしくなった。
◇
「次」
俺は五人を見る。
「誰の番だっけ」
「私です」
沙夜が即答。
「黒羽さんだったな」
「沙夜でいい」
「じゃあ沙夜」
「うん」
「前回は隠密時の魔力」
「直した」
「もう?」
「少し」
「見せて」
「分かった」
沙夜が。
一歩下がる。
「…………」
消える。
前回より。
確かに分かりにくい。
「すげえ」
蓮司が周囲を見る。
「もう俺、全然分からねえ」
玲華。
「私もです」
紫苑も魔力感知。
「いないみたい」
陽菜。
「カメラ越しでも無理だと思う」
澪も。
「気配がありません」
俺は。
静かに周囲を見る。
「……」
前回。
完全隠密時。
魔力が少し濃くなった。
それは消えている。
足。
移動時。
下半身へ集まっていた魔力も。
かなり薄い。
「…………」
「教官」
どこからか声。
「どう?」
「かなり分からなくなった」
「本当?」
「うん」
少し。
嬉しそうな気配。
「でも」
「?」
「左後ろ」
沙夜が現れる。
「…………」
全員が俺を見る。
「何で分かったんです?」
玲華。
「今度は魔力じゃない」
「では?」
「髪」
「髪?」
沙夜が自分の黒髪へ触れる。
「動く時」
「うん」
「風」
指差す。
「カーテンちょっと揺れた」
「…………」
沙夜がカーテンを見る。
「それだけ?」
「あと埃」
「埃」
「床の埃が動いた」
「…………」
静かになった。
陽菜が。
ゆっくり俺を見る。
「悠真さん」
「何?」
「それもう人を見る技術じゃないよ」
「そう?」
「黒羽さん本人じゃなくて周り見てるじゃん」
「本人見えないから」
「そういう問題じゃない!」
沙夜は。
しばらく床を見ていた。
「……なるほど」
「次から少しゆっくり動けば?」
「違う」
「何が?」
「風を出さない」
「できるの?」
「試す」
「そっち!?」
陽菜が驚く。
「普通、髪まとめるとかじゃない?」
「それもする」
「全部直す気だ」
「教官が見つけたから」
沙夜の目が。
また少しだけ輝いている。
「楽しい」
「良かったな」
後ろ。
蓮司が。
俺と沙夜を交互に見ていた。
「先生」
「ん?」
「一つ聞いていいか」
「何?」
「お前」
「うん」
「黒羽の隠密」
「うん」
「破れるのか?」
「今のところは」
「…………」
蓮司が頭を抱えた。
「それでE級?」
「まだ言う?」
「言いたくなるだろ!」
◇
訓練後。
六人で外へ出る。
「先生」
玲華。
「明日は私の番です」
「その次私」
紫苑。
「私その次!」
陽菜。
「私は?」
澪。
「順番だとその次」
「分かりました」
沙夜。
「私は今日終わった」
「うん」
「でも明日も来る」
「なんで?」
「見たい」
「何を?」
「教官」
「…………」
最近。
本当に人が増えた。
「先生」
蓮司が隣を歩く。
「俺は?」
「何が?」
「明日」
「手休めろ」
「訓練なし!?」
「見学なら」
「……分かった」
素直だ。
その時。
陽菜が何気なくスマートフォンを見る。
「ん?」
「どうした?」
「掲示板」
「何かあった?」
「《午前零時の攻略者》のスレ」
陽菜の表情が。
少しだけ変わった。
「これ」
「何?」
スマートフォンを見せる。
『【午前零時の攻略者】正体候補まとめ』
『最近、奈落周辺で目撃情報増えてる』
『トップ勢も深夜に動いてる』
『玲華』
『紫苑』
『陽菜』
『黒羽も最近奈落にいるらしい』
『水城まで深夜行動増えたって』
『トップ5全員じゃん』
『偶然?』
『いや』
『これ』
『全員同じ人物に会ってるんじゃね?』
「…………」
全員。
静かになった。
「まずい?」
俺が聞く。
「かなり」
陽菜が即答。
玲華の表情も険しい。
「先生」
「うん」
「しばらく」
玲華が周囲を見る。
「全員で先生のところへ集まるのは控えましょう」
「え」
紫苑。
「それ必要?」
「必要です」
「でも」
「特定されます」
「…………」
陽菜も頷いた。
「最近ちょっと目立ちすぎたね」
沙夜。
「監視も増えている」
「分かるの?」
「三人」
「いつから?」
「さっき」
「それ早く言って!」
「敵意ない」
「それでも!」
澪が俺の袖を少し摘む。
「悠真先生」
「ん?」
「家」
「うん」
「変えた方がいいかもしれません」
「引っ越し?」
「はい」
「面倒だな……」
その一言で。
五人。
顔を見合わせた。
「先生」
玲華。
「何?」
「住居については」
紫苑。
「私たちに任せて」
「え?」
陽菜。
「それ危ない気がするなぁ」
沙夜。
「候補を探す」
澪。
「安全な場所が必要です」
「いや」
俺は嫌な予感がした。
「普通の部屋でいいからな?」
「「「「「分かっています」」」」」
絶対。
分かってない気がする。
蓮司だけが。
少し離れたところから。
「…………」
五人を見ていた。
「先生」
「何?」
「引っ越すなら」
「うん」
「家賃」
「?」
「とんでもねえことになるぞ」
「…………」
俺も。
そう思う。




