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午後六時十三分、止まった時計は未来を刻み始めた ― 波間で拾った青い小箱がつないだ十一人目の記憶 ―  作者: 乾為天女


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第1話 波間で拾った青い小箱の中身

 雨は、夜のあいだに町じゅうの音を洗っていったらしい。


 朝六時を過ぎた水緒町には、いつもより遠くまで見通せるような静けさがあった。商店街のアーケードからは水滴が落ち、軒先の植木鉢は濡れた土の匂いを立てている。川のほうからは、ごうごうという低い音が途切れず届いていた。


 貫人は自転車の前かごに豆腐店の保冷箱を載せ、河川敷沿いの道を走っていた。


 「昨日は屋根の下へ入れてくれて、ありがとうございます」


 信号待ちで、彼は自転車のハンドルを軽く叩いた。前夜、配達の帰りに雨脚が強くなり、商店街の倉庫で一晩預かってもらった自転車である。自転車は当然ながら返事をしない。


 返事がなくても、言っておいたほうがいい。人でも道具でも、助けてもらった事実は変わらないと、貫人は思っていた。


 水緒川は普段よりずっと太く見えた。河川敷の遊歩道は立入禁止の黄色い柵で塞がれ、茶色い水が階段の半ばまで迫っている。流木や草の塊が、川面を速い足取りで通り過ぎていった。


 貫人は黄色い柵の手前で自転車を止めた。


 何か青いものが見えたからだ。


 増水した水が柵の向こう側へ寄せては引くたび、手のひら二つ分ほどの青い箱が、枯れ枝の間から現れては沈んだ。角ばった形は菓子箱より重そうで、取っ手のようなものも見える。


 「落とし物……ですよね」


 もちろん、川へ尋ねても返事はない。貫人は周囲を見回した。


 柵を越える気はなかった。茶色く濁った水は、深さも流れの速さも隠している。それでも、次の波が来れば、箱は枝から外れて川の中央へさらわれる。


 貫人は自転車の荷台から荷締めひもを外した。次に、道の向かいにある釣具店のシャッターが半分開いているのを見つけた。


 「朝早くにすみません。長い棒を貸していただけませんか」


 店主の矢口は、寝起きの髪を帽子で押さえながら顔を出した。


 「魚なら今日はやめとけ。川に食われるぞ」


 「魚ではなく、箱です。私は柵のこちら側にいます」


 「箱に食われても知らんぞ」


 矢口はそう言いながら、店の奥から清掃用の長い火ばさみを持ってきた。三メートル近くある。貫人は自転車のスタンドへ荷締めひもを結び、火ばさみの持ち手を固定した。


 ちょうど通りかかった制服姿の中学生が、何をしているのかと足を止めた。


 「箱を取ります。危ないので柵より前へ来ないでください」


 「おじさん一人だと棒がぶれるよ」


 おじさん、と呼ばれたことには触れず、貫人はうなずいた。中学生には荷締めひもの端を持ってもらう。矢口が後ろから自転車を押さえた。


 「せえので引きます。手伝ってくださって、ありがとうございます」


 「まだ取れてないぞ」


 「先に言っておいたほうが力が出ます」


 火ばさみの先が枯れ枝をかき分ける。箱の取っ手へ届いたかと思うと、水が膨らみ、棒ごと強く横へ持っていかれた。


 「右!」


 中学生が叫んだ。貫人は腕を伸ばし、火ばさみを右へ振る。金属の先が取っ手へ入り、鈍い手応えが返った。


 「今です」


 三人でひもを引いた。


 青い箱は泥水を吐きながら柵へぶつかり、火ばさみの先から外れかけた。貫人は片膝をついたが、柵より前には出なかった。矢口が自転車を引き、中学生がひもを手繰る。最後の波が箱の底を押し上げ、青い塊が柵の下をくぐって舗装路へ滑り込んだ。


 三人は同時に息を吐いた。


 「ありがとうございます。矢口さんも、君も」


 「朝倉です」


 「朝倉君、ありがとうございます。それから、自転車も」


 貫人がハンドルへ頭を下げると、朝倉は目を丸くし、矢口は帽子のつばを上げた。


 「おまえ、とうとう自転車と会話するようになったのか」


 「会話は成立していません。お礼を伝えただけです」


 引き上げた青い箱は、見た目以上に重かった。


 表面は琺瑯らしく、濃い青の下からところどころ鉄の色がのぞいている。蝋を染み込ませた布が二重に巻かれ、黒いゴムひもで縛られていた。水の中を長く漂ってきたようには見えない。布は濡れていたが、箱の内側までは水が入っていないかもしれなかった。


 角には、数字と文字を組み合わせた刻印があった。


 MS―LP―08。


 留め金は錆びて固まり、無理にこじれば蓋そのものが歪みそうだった。


 「警察へ持っていくか?」


 矢口が聞いた。


 「落とし物として届けます。ただ、中に名前があるか確認できれば、早く持ち主へ返せます。開けるなら、壊さない人に頼みます」


 「そんな人、この朝っぱらから起きてるのか」


 「琴葉さんは起きています。時計店の人は朝が早いので」


 「おまえの知り合いは町じゅうにいるな」


 「配達先が多いだけです」


 貫人は保冷箱を先に届けたあと、青い箱を後ろの荷台へ固定した。


 自転車へまたがると、腰の奥に鈍い疲れが残っているのを感じた。前夜は帰宅が遅く、眠ったのは二時近かった。それでも今日は通院の付き添いが二件、買い物代行が三件、商店街の荷物運びが一件ある。


 できる、と貫人は思った。


 できないと言う前に動けば、大抵のことは終わる。終わったあとで礼を伝えれば、角も立たない。


 彼は濡れた道へ漕ぎ出した。


 琴葉の店は、商店街の外れにある小さな時計店だった。看板には「瀬戸時計修理」とあり、古い振り子時計が描かれている。開店前だったが、ガラス戸の向こうでは明かりがついていた。


 貫人が戸を叩くより早く、中から声が飛んできた。


 「鍵、開いてるよ。両手がふさがってる」


 中へ入ると、琴葉は拡大鏡を額につけ、小さな腕時計の部品をピンセットでつまんでいた。髪は後ろでひとつに束ねられ、作業台の周囲には歯車やドライバーが整然と並んでいる。


 「おはようございます。開店前にすみません」


 「貫人が開店時間を気にしたこと、あったっけ」


 「迷惑をかけた回数は数えています」


 「それは怖いから数えなくていい」


 琴葉は拡大鏡を上げ、荷台から運び込まれた青い箱を見た。


 「川から拾った?」


 「どうして分かるんですか」


 「床に水の道ができてる」


 貫人が振り返ると、入口から作業台まで、ぽつぽつと泥水が続いていた。


 「拭きます」


 「先に箱。水が中へ入ってたら時間との勝負だから」


 琴葉は布を外し、留め金を横から眺めた。細い竹べらで泥を取り、錆の色を確認する。次に箱の底へ指を滑らせ、角の摩耗を爪でなぞった。


 「これ、昨夜誰かが閉じて川へ落とした箱じゃないね」


 「長く水の中にあったんですか」


 「逆。長く水の近くにはあったけど、水の中にいたのは短い。琺瑯の欠けに古い土が詰まって、その上へ新しい泥が薄くついてる。布も日焼けしてるのに、芯までは腐ってない」


 「では、長いあいだどこかに隠されていて、昨夜の雨で流れた」


 「たぶん。留め金は力任せにやると折れる。持ち主に怒られたくなければ、三十分ちょうだい」


 「ありがとうございます」


 「まだ開けてない」


 「先に言っておいたほうが力が出るそうです」


 「誰に教わったの」


 「今朝の私です」


 琴葉は呆れたように笑い、箱を作業台の保護布へ載せた。


 貫人は床を拭き、店先の椅子へ座った。携帯電話を見ると、配達依頼が一件増えている。すぐに引き受けると返そうとして、指が止まった。


 青い箱の中身を確認し、警察へ届けるまで少なくとも一時間はかかる。


 予定を組み替えれば、できる。


 そう思った瞬間、琴葉が作業台から言った。


 「貫人、今日も詰め込んでるでしょ」


 「通常どおりです」


 「その返事をする日は、通常より多い」


 「大丈夫です」


 「聞いてない。多いかどうかを聞いたの」


 貫人は返事の代わりに、携帯電話を伏せた。


 琴葉はそれ以上追及しなかった。細い油を留め金へ差し、温めた布を当てては冷ます。錆の隙間へ針を入れ、わずかずつ動かしていく。


 やがて、かちり、と小さな音がした。


 「開いた」


 蓋はまだ持ち上げなかった。琴葉は箱の角に刻まれた記号へ目を止めた。


 「MS―LP―08……これ、どこかで見た」


 「測定番号のようですね」


 「祖父の古い図面にあったかも。水緒生活性能データ区域」


 その名を口にしたとき、店の空気が一段冷えたように感じられた。


 性能データ区域。川沿いに残る十棟の空き家を、町の人は数字町と呼んでいる。子どもの頃、立入禁止の柵の向こうに、巨大な銀色の時計が見えたことを貫人も覚えていた。


 「今度、解体される場所ですよね」


 「うん。町が倉庫用地にするって」


 琴葉は作業台の引き出しから古い紙片を取り出し、刻印を書き写した。


 「役場に確認したほうがいい。勝手に開ける前に、この番号が町の所有物かどうかも見てもらおう」


 貫人は町役場の防災資料室へ電話をかけた。


 十分ほどして、恵唯が店へやってきた。


 淡い灰色のシャツに紺のパンツ。雨上がりにもかかわらず、靴のつま先に泥ひとつついていない。片手には透明な資料袋、もう片方には付箋が何色もはみ出したファイルを抱えていた。


 「所在を確認する前に触らないでください、と電話で言いましたよね」


 「留め金は開けましたが、蓋は開けていません」


 琴葉が答える。


 「開錠も触ったうちに入ります」


 「壊さないために触ったの」


 「壊れていないことは、開ける前には確定できません」


 「朝から元気だね」


 「元気ではなく、確認しています」


 恵唯は箱の刻印を見た途端、言葉を止めた。


 ファイルを開き、黄色い付箋のついたページをめくる。そこには、箱と同じ形式の番号が並んでいた。


 「MSは水緒町、LPは生活性能。末尾の〇八は八号棟です」


 「町の所有物ですか」


 貫人が尋ねると、恵唯はすぐには答えなかった。


 「判断できません。区域内の設備は町へ譲渡されていますが、個人の生活用品は別です。この箱が設備備品か、住民の私物かを確認する必要があります」


 「八号棟に住んでいた人は?」


 「瀬川澄江さん。当時五十二歳、仕立て屋。公式記録上は単身居住です」


 「公式記録上は、という言い方をしたね」


 琴葉が聞くと、恵唯はファイルを閉じた。


 「三十二年前の洪水資料には欠落があります。電子記録が停止した午前六時九分から、再起動した六時十二分まで。手書きの補足資料も一部見つかっていません」


 「解体まで、あとどれくらいですか」


 「今日を一日目として、十日目の朝からです。町が発注済みです」


 貫人は青い箱を見た。


 箱は何も訴えない。それでも、川へ流れ出るまでの三十二年間、誰かが見つけるのを待っていたように貫人には見えた。


 店の戸が開いた。


 「おはようございます。注文の時計、受け取りに来ました」


 黒いシャツ姿の和馬が入ってきた。水緒町で葬祭店を営む男で、琴葉の店へ古い置き時計の修理を頼んでいたらしい。


 和馬は作業台へ近づき、青い箱の前で立ち止まった。


 「これ、どこにありました」


 「川です」


 貫人が答えると、和馬は箱へ手を触れず、耳を澄ませるように少し顔を傾けた。


 「水の音がします」


 「川から拾ったからね」


 琴葉が言う。


 「そういう音じゃない」


 和馬の声は真面目だった。


 恵唯が半歩、箱から離れた。


 「何が聞こえるんですか」


 「濡れた布を、ゆっくり絞っている音。それと……」


 和馬は眉を寄せた。


 「順番が逆だ、と」


 店内の振り子時計が、七時を告げた。


 重なる鐘の音に、誰もすぐには言葉を返せなかった。


 最初に息を吐いたのは恵唯だった。


 「霊感を資料の根拠にはできません」


 「根拠にしろとは言っていません」


 「では、言わないでください」


 「聞こえたことを、聞こえなかったことにはできない」


 二人のあいだへ硬い沈黙が落ちた。


 貫人は、どちらにも礼を言う場面ではないと判断した。こういうときに「ありがとうございます」と言うと、琴葉から怒られる。


 「蓋を開けましょう」


 代わりにそう言った。


 「町の備品かは確定していません」


 恵唯が答える。


 「所有者を知るために、中の名前を確認します。四人で立ち会い、写真を撮り、触れた順番も記録する。警察にも連絡します」


 「先に警察です」


 「電話します」


 貫人はその場で交番へ連絡した。事情を説明すると、危険物ではないことを確認したうえで、所有者を特定するため中身を動かさず撮影し、後ほど届け出るよう言われた。


 恵唯は電話の内容を時刻とともに書き留めた。


 琴葉が手袋を着け、ゆっくりと蓋を持ち上げた。


 古い布と金属の匂いが立った。


 中には、透明な樹脂で包まれたカードが重ねて入っていた。青い糸で補修された腕時計のような機械。真鍮の鍵。白黒写真。そして、折り畳まれた一枚の紙。


 琴葉はまず箱全体を撮影した。恵唯が配置を図へ描く。和馬は少し離れ、貫人は携帯電話で交番へ送るための写真を撮った。


 「カードは十枚」


 恵唯が数える。


 「仕切りは十一枚分ある」


 琴葉が箱の内張りを指で示した。


 細い布の仕切りが等間隔に縫い付けられている。そのうち最後の一枠だけが空だった。何かが抜け落ちたというより、最初から空間だけを残して作られたように見える。


 恵唯は手紙を開いた。


 紙は黄ばんでいたが、青いインクの文字は読めた。


 「数値ではなく、歩いた順に読んでください。空いている一枚を、なかったことにしないでください。十一人目を、今度こそ町に帰してください」


 琴葉が写真を持ち上げた。


 十棟の住宅を背景に、靴が一列に並んでいる。革靴、作業靴、布靴、細いパンプス。人の顔は一人も写っていない。


 「十一足ある」


 和馬が言った。


 恵唯が写真を受け取り、最初から数え直した。途中で一度止まり、もう一度数えた。


 「十一です」


 「八号棟は単身居住だったんだよね」


 「十棟すべて、一人ずつの測定契約です。公式居住者は十人。洪水時の避難完了者も十人」


 「でも、靴は十一足」


 一足だけ、写真の端で泥に半分埋まっていた。小さく見えるが、子どもの靴ではない。よく使い込まれた低い革靴だった。


 貫人はカードの一枚へ目を落とした。


 表にはパンの印があり、細かな文字が並んでいる。


 「朝四時。パンを百二十個焼く人の足は、眠気より先に床の冷たさを覚える」


 続きには、右足をかばうこと、荷車の音で近所の犬が起きること、配達先で湯気の立つ茶を出してもらったことが書かれていた。


 数値ではない。


 歩いた人の息づかいが、紙の向こうに残っている。


 「これは性能測定の資料ではありませんね」


 貫人が言った。


 「少なくとも、町へ提出された正式資料にはありません」


 恵唯の指先が、手紙の端を強く押さえていた。


 琴葉は腕時計のような機械を、光へかざした。文字盤には普通の時刻目盛りのほか、小さな押しボタンと記録窓がある。針は六時十二分で止まっていた。


 「時計じゃない。時刻を合わせて、短い音か信号を残す機械かもしれない」


 そのとき、朝日が雲の切れ間から差し込んだ。


 機械のガラスが光を跳ね返し、白い筋が店の天井を走った。恵唯がまぶしそうに目を伏せる。光は振り子時計の文字盤をかすめ、壁に掛けられた古い水緒町の地図で止まった。


 「眩しい時計」


 琴葉がつぶやいた。


 「何ですか」


 「性能データ区域の中央に、大きな鏡面時計がある。祖父が設計した時計。あれも三十二年前から止まってる」


 恵唯は資料袋から洪水当日の設備一覧を取り出した。


 指で行を追い、顔を上げる。


 「停止時刻は、午前六時十二分」


 青い小箱の中の小さな針も、六時十二分。


 十棟に対して、十一足の靴。


 十枚のカードに対して、空いた一枠。


 三十二年前の記録から消えた、三分間。


 貫人は箱へ向かい、思わず頭を下げた。


 「ここまで無事に届いてくれて、ありがとうございます」


 琴葉が横目で見る。


 「箱は配達を頼んでないよ」


 「ですが、途中で流されず、ここまで来ました」


 和馬は青い箱を見つめたまま言った。


 「でも、ここへ来たがっていた感じはします」


 恵唯だけが、また一歩下がった。


 貫人はその様子を見て、笑いそうになった。笑ってよい場面か迷い、結局、声には出さなかった。


 携帯電話が震えた。追加の配達依頼だった。


 いつもの彼なら、迷わず引き受けていた。


 けれど貫人は、青い小箱の中へ残された十一人分の気配を見た。誰かが歩いた道を、誰かが記したカード。空いたままの一枠。


 今日、自分一人で抱え込めば、この箱の届け先を見失う気がした。


 貫人は依頼主へ電話をかけた。


 「申し訳ありません。今朝は予定外の確認が入りました。十時以降なら伺えます。急ぎでしたら、別の配達員を紹介させてください」


 言い終えると、胸の奥が落ち着かなかった。


 断ったわけではない。助けを頼んだわけでもない。ただ、自分だけで全部を終わらせる時間を手放した。それだけで、ずいぶん大きな選択をしたように感じた。


 電話の向こうは、あっさりと了承した。


 「ありがとうございます」


 今度の礼は、いつもより少しだけ軽かった。


 恵唯は資料を閉じた。


 「明日、性能データ区域へ入る許可を取ります。八号棟と中央広場を確認します」


 「私も行く」


 琴葉が即座に言う。


 「祖父の図面を持っていく。鍵が大時計のものなら、差し込み口だけ確認したい」


 「勝手に回さないでください」


 「回さない。壊れ方を見るだけ」


 「私は、聞こえた場所を確認します」


 和馬が言った。


 恵唯は露骨に困った顔をした。


 「聞こえた、という表現は調査記録に書きません」


 「書かなくていいです。俺が覚えています」


 三人が貫人を見る。


 「私は」


 貫人は、自転車へ戻る予定と、通院の付き添いと、買い物代行を頭に並べた。


 どれも大切だった。だが、明日の午前だけなら調整できる。


 「皆さんの荷物を運びます」


 「調査に来るんじゃなくて荷物係なの?」


 琴葉が笑う。


 「動ける人が動きます。それと、私も十一足目が誰のものか知りたいです」


 青い小箱の蓋は開いたままだった。


 空いた一枠へ、朝の光が細く落ちている。


 その空白は、何も入っていないはずなのに、十枚のカードより重く見えた。



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