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第九話 休憩時間

 アナウンスがあるので試合がドンドン進んでいる。リングが複数あるのか、結構な試合数がある。六十四試合があったので最低でも百二十八人は出ている。


 なのに焼きそばの屋台は人があまり来ない。二皿食べる人間もいない。美味しくないのか残す人もいる。

 屋台の焼きそばなんてそんなもの、と思っているのか客からのクレームはない。


 お昼過ぎには人通りが止まったので、休憩に入った。職員食堂を使用できるとの話だった。職員食堂に行くと、入口で給仕に呼び止められる。


「混んでいるから食堂は入れない。試合進行と関係ないスタッフはあっちで弁当を貰って食ってくれ」


 ただなら弁当でもいいか。弁当配りしているスタッフから幕の内弁当をもらう。急ごしらえのイート・インで食事にする。


 イート・インも混んでいた。車の誘導係や、売店スタッフ、清掃員も弁当を食べている。瓦の隣に痩せた女性と太った女性がいて二人の会話が聞こえてくる。


「試合は凄いわね。ここまで盛り上がるとは思わなかったわ。でも、一回戦で日本がバングラディシュの選手に負けたのはちょっとがっかりね」


「バングラディシュの選手も次の試合でモンゴルの選手に負けてたわ」


 開催地の選手が初戦敗退は運営としてもがっかりだ。日本の選手が一人しかいないのかわからない。どんな競技でどんなルールかも知らない。でも、大会では日本は弱いらしい。


 二人の話は続く。

「日本の選手は候補がもう一人いたっていうから、そっちが出てたら違ったかしら」

「Bクラスだから初戦で負けた選手と差はないかもね」


 試合をしていない人間だから好き勝手に言っている。健闘した選手を褒めてあげてもいいのではないだろうか。


 二人の女性は食事が終わったのか席を立った。すぐに、他のスタッフが座る。混雑しているのでゆっくりしていては他のスタッフに悪い。瓦も食事をさっさと終えて席を空けた。


 柱谷が弁当を持ってイート・インに来た。

「ご苦労様です」と頭を下げて挨拶すると、柱谷がなぜか怒った。


「瓦くん、どういうこと? 待ち合わせ場所に来ないなら事前に連絡をくれよ」


 言っている意味がわからない。

「キャシーさんが迎えに来ましたよ。聞いてないですか?」


 キャシーの名前を出すと柱谷の顔が歪んだ。

「あの人はまた勝手なことをしたのか。本当にいい加減にしてほしいものだ」


 柱谷はキャシーを知っていた。柱谷の表情からして、キャシーとは仲が悪いと見える。だが、勤務、初日の瓦にはわからない。


 バイトの話は柱谷から出た。なので、確認しておく。

「俺は別の仕事をしたほうがいいですか?」


「事情はわかった。こっちはいいから、キャシーさんの指示に従ってくれ。ここで俺が口を出すと余計に混乱する」


 嫌々の判断だ。キャシーのほうが社内での立場が柱谷より上なのか。思いつきで動く上司とは厄介な人だ。


「キャシーさんてどんな人ですか?」

「悪い、こっちも忙しいんだ。今、飯を喰えないと昼抜きになる」


 瓦は忙しくない場所に配置されたが、柱谷は違う。なら、ここで引き留めては悪い。夕食がいつになるかわからないのに、昼食を逃すと辛い。


 キャシーの立場と柱谷の関係は気になるが、後回しにするしかなかった。


 戻って休憩していると、屋台の付近で青い服を着た職員がうろうろしていた。手にはクーラー・ボックスを持っているので追加の食材がきた。


「焼きそばの屋台の担当者は俺です」


 配達にきた人間は忙しいのか荷物を置くとすぐに帰った。食材の整理をすると、新しいクーラー・ボックスの中に封筒が二通、入っていた。封筒の表面には『納品書』と書いてある。


 置いていった品と納品書が違うと問題なので中を開けた。だが、納品書の中身は白紙だった。二通目も白紙だった。印刷忘れだが、捨てはしない。


「両方とも白紙だな。担当者も忙しいのか」


 焼きそばを売って行くが、売れ行きが悪い。追加の食材をもらったがこれでは余る。

 食品の廃棄ロスはもったいない。できれば、家に持って帰りたい。だが、おそらく許可されない。


 青い服を着た職員が来た。さっきとは別の人間だ。

「こちらに間違った納品書が届いていませんか?」


 気付いた人間がいた。納品書を二通とも渡す。職員が中を確認する。

 少し奇妙に感じた。納品書は白紙のはずだが、職員は中を読んでいる。


 秘密の暗号を確認しているかのようだが、そんなことはあるまい。第一、ここに焼きそばの屋台を出しているのはキャシーの指示だ。


「こちらだけいただきます。もう一通は担当が違うので別の者が回収にきます」


 制服が同じなら業者も同じはず。担当が違うといって回収しないのは縦割り過ぎる。そうは思っても、配達係は忙しいのだろう。


 配達係の職員がいなくなったあとも焼きそばを作り続ける。


 トイレに行って戻ってくると、子供がクーラー・ボックスの中を空けて覗いている。悪戯をされたら、焼きそばを作れない。子供は瓦に気付くと走って逃げた。


「ちょっと君」と声を掛けたが、子供の足は速い。追いかけると屋台から離れる状況になる。その間に客が来たら、迷惑がかかる。


 クーラー・ボックスの食材に何かされていないか確認するが、問題ない。ただ、もう一通の納品書がなくなっていた。子供が納品書を持っていった。瓦のミスではあるが、納品書は白紙だ。


先ほど配達係の職員も二通とも確認していた。もう一通も白紙だと知っている。何かあれば証言してもらえる。


「子供は要注意だな」


 苦く思っていると、外国人の客が来るのですぐに調理を始めようとする。誰かの視線を感じたので顔を上げる。だが、怪しい者はいない。


 目の前には鉄板を注視している客しかいない。視線は目の前の外国人客の者だと思い、気にするのは止めた。

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