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第四話 狂気の力

 ガルムは今まで瓦を舐めていた。だが、強力な一撃を受けて本気になった。

 ゲームとかだと、ボス戦でダメージを与えると形態変化する敵がいる。


 瓦の目の前で起きている現象も同じだ。

「ここからが本番か。でも、失敗しても俺のリスポーンはない」


 狂乱波砲拳がガルムにもう一度当たれば勝てる。撃ってすぐに効果が出なかった。狂乱波砲拳は直線には飛んでいない。ないしは、時間差で飛んでいく技だ。だとするなら、狙って当てられない。かといって、投げ技では倒せない。


 ガルムは最初から火に包まれていた。だが、初回の投げの時にかなり接近されたが熱くはなかった。ガルムから噴き出す炎は勢いを増すと熱くなった。


 オート・ガード機能により弱い火は無効化できていた。火の勢いが強くなったのでオート・ガードの防御力を超えた。近づかれた時に投げたとする。投げられるだろうが火傷を負う。


 小さくても火傷を負い続ければ死ぬ。ピンチを脱したと思ったらすぐに逆転された。とりあえず狂乱波砲拳の構えを取る。ガルムにしてみればどこからどう飛んで来るかわからない攻撃は警戒する。


 ガルムが突然、消えた。背後を振り返るが姿がない。上かと思ったが上空にもいない。ガルムにとって瓦の攻撃はどこから来るかわからない。だが、これで瓦にとってもガルムがどこから襲ってくるかわからなくなった。


 瓦は狂乱波砲拳の構えを解いた。代わりに座って合唱のポーズを取る。特段、意味はない。だが、ガルムからすれば謎の行動だ。


「もしかして、こいつにはまだ謎の攻撃があるのか?」と、でもガルムが疑ってくれればめっけものだ。


 座っていると瓦はなぜか心が落ち着いてきた。幾度と感じた根拠のない自信が浮かぶ。体が勝手に動いた。座ったままの姿勢で滑るように地面を移動した。移動は瓦の意思ではない。


 体が意思と関係なく移動した。時折クルクルと回転する。ガルムの見えない攻撃を移動で回避している。飛来物を曲げるのがオート・ガードなら、これは自動回避である。


 重力を感じるので、体が地面から浮いている感触はない。接地面との摩擦がなくなり滑っている感じだ。尻が痛くならず、ズボンも破れそうにない。


 自動回避は便利だが攻撃手段ではない。ガルムのスタミナが切れてくれればいいが、自動回避はなかなか止まらない。ジェットコースター系の乗り物は得意ではない。このまま続けば気分が悪くなりそうだ。


 合掌中の手に力が溜まってくるのがわかる。今の姿勢は回避しつつ力を貯めての攻撃が可能らしい。とはいっても、いつ、どんな効果が、どこに、現れるかわからない。


 自動回避が止まった。ガルムは攻めあぐねている。


 物は試しである。合掌を解除する。右手の人指し指を立てる。「ドーン」と掛け声を入れるる。周りに雷が落ちた。雷は一撃でなく、何発も落ちた。


「キャイーン」

 落雷に打たれたガルムが姿を現した。ガルムが黒焦げになり倒れる。


 執事の男が拍手しながら賞賛する。

「勝負有りましたな。ギャーーーー」


 雷が執事を撃った。わざとではない。雷は敵にランダムに降る。また、発動すると瓦の意思では止められない。さすがに執事には悪いと思い謝る。


「申し訳ない。大丈夫ですか、ギャーーー」

 容赦なく雷は瓦も撃った。今までに感じた経験のない痛みが瓦の全身を駆け抜けた。


 雷は敵にランダムに降るのではなく、敵味方関係なく無差別に降ると知った。

 しかも、雷はオート・ガードや自動回避の対象にはならない。


「しゃ、しゃれにならん」


 瓦はそのまま気を失った。目が覚めると瓦は自分のアパートにいた。テーブルの上には誰が淹れたかわからない紅茶があった。また、隣にはクッキー缶もある。


先の戦いが夢だとは思わない。すぐに帰れるのなら、すぐに帰して欲しかった。クッキーを食べようと缶に手を伸ばす。クッキー缶から痛みを伴った電気が流れた。不意打ちだった


「グワーーー」と蛙が潰れたような声が出た。


二度目なのか、威力が弱まっていたのかはわからない。痛みは一度目より少ない。どうやら、雷にも謎の性質があり、物の中に蓄電されると知った。


物に溜まる雷は悪戯に使うには威力が強い。トラップに使うには威力が弱い。使い勝手が悪い能力だった。ただ、これでわかった。謎の力は現実世界でも使用できる。


「できる事を整理しようか」


オート・ガード:発動条件なし。質量や威力が大きい攻撃は防げない。

吹矢:自分の意志で出せる。威力は弱いが毒の効果がある。


狂乱波砲拳:威力は強い。だが、どのタイミングでどの方向に飛ぶかわからない。

自動回避:座った状態で発動。見えない攻撃も連続回避。浮いてはいない。

落雷:合掌ポーズで溜めが必要。回数、落下場所は無作為。謎の電気は物に帯電する。


「戦闘での使い勝手が悪いね。しかも日常生活ではほとんど役に立たない」


 考えようによってはこれでいい。下手に戦闘向きの能力なら欲が出る。また、日常生活で役に立つようなら、乱用して世間を騒がせたかもしれない。現状の能力なら普通に暮らせばいい。


 気になることがある。各技の種類は格闘ゲームに似ている。だが、謎の男は「狂気の力」と表現していた。


「使い勝手は甚だ悪いが、狂気とは関係ない気がする。相手を、惑わす、混乱させる、精神を壊す、ならわかる。だが、精神に作用する技は一つもない」


 強くなると使えるようになるのかもしれないが、戦わないなら知りようもない。とりあえず疲れたので今日はダラダラ過ごす。


 明日からちゃんとしよう、とその時は思った。だが、次の日になってもやる気が起きない。


 動画やネットをボーッと見る。超能力者や預言者の話題は世間では加熱していた。だが、他はいつもと変わらない。災害があり、事故があり、戦争があり、犯罪があり、貧困がある。世界は何も変わらない。


 インターホンがなった。応対に出ると郵便配達人だった。最近、異常なことがあるので警戒した。

「誰かからの郵便ですか?」


 おかしな人間からなら受け取りを拒否するつもりだった。

「人類抹殺救済機構さんからで現金書留です。ハンコかサインをください」


 中々、憎い手を使う。普通の手紙なら拒否するが、現金書留なので受領書にサインして受け取った。現金を取り出す必要があるので封筒を開けた。

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