第三十四話 孤軍奮闘
「ドロー」と嘉納が叫ぶ声が背後でした。どうやって決めたか知らんが、先手は嘉納だった。ナムも文句を言わないので『そういうルール』としかわからない。
この時点で既に先行きが不安になった。
嘉納が声を張った。
「魔法カード、ストロング、さらにストロング、追加でストロングだ」
動けないのは同じなのだが、瓦の体に力が漲る。
「ターン・エンド」と嘉納が宣言する。
ナムの腕にはいつの間にか謎のガントレット状の機械が装着してあった。いつの間にと思ったが、やはり声は出ない。もちろん、誰からも説明はない。
「ドロー」とナムが叫ぶ。腕の部分からカードを三枚、取り出した。ナムの表情は明るい。ということは、これから瓦にとって悪い事が起きる。
「魔法カード・クイック、さらにクイック、追加でクイック」
瓦には何も変化がない。とするなら、瓦と同じく動いていない忍者に効果が出ている。
「ラウンド・ワン」とカミラが叫ぶ。瓦の体を動けなくしていた、謎の拘束が解除された。同時に忍者が動いた。忍者は躊躇うことなく、背中に背負った刀で瓦を斬る。
「死んだ」と思うが、さほど痛くない。手加減しているのか、と疑った。だが、忍者は容赦なく行動する。瓦の死角から死角へと動き斬っていく。
やられ放題は癪だ。狂乱波砲拳で対抗しようとするが、一撃も当たらない。忍者は猛スピードで攻撃と移動をしている。また、以前の戦いから狂乱波砲拳が見えないと理解している。誘導型になった狂乱波砲拳だが、見えない相手に誘導されず直線に飛ぶ。死角から連続で攻撃されれば、当たらない。
吹矢での反撃も試みる。だが、吹矢は出現させた瞬間に破壊された。
状況がわかった。嘉納は瓦の耐久力を上げてダメージを大きく軽減している。ナムは忍者の速度を上げて、瓦の攻撃を全て封じている。
嘉納と打ち合わせをしていないが、どうすればいいかは理解できる。スピード重視の弱点は持久力にある。相手より運動量が多ければそれだけ、疲れやすい。
忍者に攻撃が当らなくてもいい。忍者を動かすことが重要だ。一方的に攻撃を受けた瓦の動きが停止する。謎の力による拘束状態だ。忍者の動きも不自然に止まったのでターンが終わった。
「ドロー」と嘉納の声が響く。次いで宣言がくる。
「魔法カード。ストロング、さらに、ストロングだ」
サーバント同士が殴り合う戦いなら、二体目はいない。ならばと、早めに相手からダメージを受けない状態を作った。忍者の攻撃力が変わらないなら、これでダメージは実質0だ。
忍者がここからいくら速度を上げても瓦は倒せない。
「でもなあ、なんかあるんだろうな。カード・ゲームなら、防御無視、弱体化効果、カード能力の打ち消し、とか」と瓦はモヤモヤと思った。
嘉納はゲームを知っているので、対策は考えている。カードの使用回数も前回より少ない。手札の温存で嘉納は駆引きをしている。
嘉納のターン・エンドでナムのドローが始まる。ナムの表情はニコニコしているのが、また嫌だ。子供なので表情を偽っているとは考え辛い。
ナムが引いているカードは状況に合致している。
「カードを場に三枚、伏せてエンドだ」
「実に嫌らしい戦い方だ」と瓦は苦く思った。現状で忍者の攻撃では瓦に実質ノー・ダメージ。なのに、忍者の攻撃力を増やさない。また、瓦の防御力も下げずに。カードを三枚伏せた。
ブラフかも知れないが、罠の可能性が高い。
「第二ラウンド・開始」とカミラが合図すると、謎拘束が解けた。動けるようになったが、忍者は何もしない。攻撃しても無駄なので動かず、持久力を温存しているならわかる。
嘉納から指示はない。声が出るようになったので嘉納に質問した。
「俺から攻撃したほうがいいか?」
「任せる」と嘉納は素っ気なく応じた。嘉納の性格は掴み切れていないが、上司にしたくはないタイプだ。
NPO勤務時代にいた。
失敗すると「俺は反対だった」と愚痴る。成功すると「思った通りだ」と自慢する。下からすると非常に面白くない奴がいた。
好きにしていいなら、そうさせてもらうまでだ。
「狂乱波砲拳」と攻撃を出した直後を狙われた。ナムが破顔して叫ぶ。
「トラップ・カードの溶岩の落とし穴を発動」
イキナリ地面が消えた。燃え盛る穴に落ちた。「熱い、死ぬ」と慌てたが、死にはしない。冷静になれば大して熱くもなかった。熱い風呂くらいの温度だ。三十分も浸かれば具合も悪くなるが、五分、十分ならむしろ気分がよくなる温度だ。
溶岩と呼ばれていたのでドロドロはしている。粘性はあるが底なし沼のように沈むだけではない。這い上がろうとすると、ナムが叫ぶ。
「アイテム・カード。魔女の箒を発動」
忍者がさっと刀を仕舞うと、忍者の手に柄の長い竹箒が出現した。忍者は箒の穂先を持つと柄の部分で瓦を突いた。
穴から上がろうとすると、柄の部分で頭を押される。箒を掴もうにも忍者の動きは機敏で無理だった。箒の柄が顔や目に当たるが全く痛くない。ダメージはゼロだが、屈辱だ。
大人同士の戦いでなければ、陰湿ないじめとして役所が動くレベル状態だ。
どうにかしたいと思っていると、ナムが追い打ちに出た。
「技カード・笑い飛ばす。効果は笑うことで全ての感情のマイナス効果を打ち消す」
瓦の心から屈辱感が消えて笑いが止まらなくなる。忍者の突き攻撃は止んでいない。笑って呼吸が乱れる。忍者の突きで下に押される。溺れかけた。負の感情が湧く。すると瓦の笑う、のループ攻撃が完成した。
いくら防御力が高くても溺れてたら死ぬ。無敵の重装鎧を着て、海に落ちたようなものだ。どうにか脱出したいが、無理だった。
笑いながら「これ死んだかも」と思うが、恐怖も怒りもないのが異常だった。死を目前に見た時、地面が盛り上がる。忍者は飛び退いた。瓦は動けなくなった。
勝負を決められなかったナムが悔しがった。
「時間に救われたか」
溶岩の落とし穴の効果は強いが、ターン・エンドには消失するので助かった。
呼吸を整えたいが、謎硬直のせいで困難だった。瓦の醜態を蔑む嘉納の声がした。
「やれやれ、少しは考えて欲しい物だ」
嘉納の言葉に瓦はカチンときた。すぐに怒りが消えた。代わりに横隔膜が痙攣した。理由はわかる。謎の拘束のせいだ。肺の横隔膜が上手く機能せず。笑うに笑えない。
呼吸苦による意識消失はないが、苦しいことこの上ない。味方に後ろから刺されると思わなかった。
「現状で俺の味方はいないのか?」と絶望すると、横隔膜がビクビクとする。笑えない地獄だ。




